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「どういうこと」
「美羽菜は村とか街に入る度にレベル上げしに外に出てたんでしょ?」
「うん。殿下と宿屋で別れて他の人達とパーティ組んで」
「殿下がいると街の外に出られないからパーティから外すでしょ。そうすると好感度が落ちて、聖女の経験値が下がるんだよ」
経験値が溜まらないからレベルも当然上がらない。
宿に戻り殿下と話をしなければパーティが再編成されることはないから、話しかけてくる殿下を無視してレベル上がるまで経験値を溜めればいいんだけど美羽菜の性格だと律儀に返事をしてそうだ。
「嘘っ。経験値下がってたの?」
「うん。酷いよねえ。好感度1に対して経験値が100下がるって」
「そんなに下がってたんだぁ。それじゃレベル上がるわけないよね。ああ納得。っていうか、殿下の恋愛条件クリアしないと魔王を倒せないんじゃ、私の努力って無駄だったっていうことじゃないの」
レベルの話に夢中になっていて、やっと肝心な事に気が付いたらしい。
美羽菜気の毒すぎる。
「聖女にならなきゃよかったのよ。乙女ゲーがしたかったなら兎も角、魔王を倒したかったのなら他のキャラ選べばよかったじゃない。って、そういえばさっき聖女しか選べないって言ってたよね。選べるよ他のキャラも。RPGも出来るのが売りだったんだから乙女ゲーと同じじゃつまんないし」
「嘘。どこで選択するの」
「召喚されて殿下と儀式の間を出る直前に『聖女となってこの世界を救いますか』って選択が出たの覚えてない? あそこでYESを選択すると聖女でNOを選択すると他のキャラを選択するウィンドウが出てくるんだよ。これはゲームの取説に書いてあったと思うけど」
「ゲームの機械にディスクを入れたまま従妹が送ってきたんだもん。取説なんて見たことないよ」
「それでどうやってゲーム始めたのよ」
「従妹がゲームの最初にチュートリアルがあるからそれ見ながらやれば出来るって」
随分不親切な説明だ。それでレベル上げ出来た美羽菜はもしかして凄いのかもしれない。
「まあ、いいよ。取りあえずアイテムは私が持ってるから。今は美羽菜のレベルが高い事だけを喜ぼう。技とかも引き継ぎしてるんだよね」
「うん。ばっちり」
「じゃあ、二人でも戦える。リアルな魔獣は結構グロイよ、大丈夫?」
美羽菜は私と違ってお嬢様だ。学校では姫扱いの立場だし、見た目からしてか弱い感じだし。泣かずに戦えるだろうか。
「多分平気。梢ちゃんが思ってるよりも私って性格悪いし」
「なんなのその自信」
「梢ちゃんってサバサバした性格で皆に好かれるけど、私はウジウジなキャラだしどんくさいから、結構嫌われやすいの。小さい頃から女の子に嫌われまくってたし」
「それは美羽菜が可愛いから、男子に人気があったりして妬まれてたんじゃないの? ウジウジしてるとは思った事ないけどな」
どんくさいとは若干思うけど、走るの遅いし食べるのも遅いし。話し方もいつもはもっとおっとりしてる。
「女子に嫌われるって自覚あるのに女子高に来たんだ」
「うん、男の子がいなければなんとかなるのかなあって思ったの。お蔭で今は少しだけ楽になったよ。食べるの遅くても皆「美羽菜はのんびり屋さんねえ」で納得してくれるでしょ。中学の頃はゆっくり食べてるのも「お嬢様は食べ方までおしとやかなのねえ」なんて嫌味言われてたのよ」
「でも中学も結構良いとこ通ってたんじゃなかった?」
私は公立だったけど、美羽菜は中学も私立だった筈だ。
「そうね。あのまま大学まで同じ人達と過ごすのが嫌で外部に行くことにしたの。選択して正解だったわ。でもこんな世界に来ちゃったらどうしようもないけど」
「……夢じゃないよねえ。二人で同じ夢を見るわけない」
「そうね。これは現実なんでしょうね」