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「そんなのあるの! うわああ」
悲鳴を上げながら美羽菜が頭を抱えた。
「うわあって、あるに決まって。あ、他のゲームやったことないのか」
よっぽどショックだったのだろう。美羽菜は頭を抱えたまま動かない。
私にとっては知らない方が不思議だけど、ゲームした事ない人には攻略本なんて存在知らなくて当たり前なのかもしれない。
「しらないよお。それって常識なの?」
「常識っていうか、多分」
攻略本が無いなら料理スキルが進んでなくても仕方ないか。
料理のレシピを覚える為には街であるキャラクターを探さなくてはいけないのだけれど、そいつがなかなか見つからないのだ。
「私の苦労はなんだったの? どれだけレベル上げに時間を掛けたか」
「レベル上げ? 美羽菜聖女なんでしょ?」
「聖女でしょって、あのゲーム聖女しか選べない……梢ちゃん聖女じゃないの? その恰好ってもしかして」
「女魔法戦士オリビアよ。なんか自分の顔でこの装備は悲しいものがあるけど」
召喚された時のミニスカートにへそだしトップスじゃないだけましだけど、このワンピースもかなりコスプレな感じだ。
オリビアが装備できる物の中では大人しい方だけど、冗談にならないくらいのミニ丈なのに左側にスリットも入ってる。ゲームの中ではそんなシーン無かったけど、下着が見えそうというより、多分しゃがんだら見える。
ブーツをロングのタイプに変えたからまだいいけど、露出しまくりだ。
「恰好良いよ。梢ちゃんがオリビアってイメージに合うかも。学校の制服基準で考えたら凄い恰好だけど」
「本当だよ。教育指導の花山先生が見たら血圧上がるよ」
うちの学校は所謂お嬢様学校と言われるところで、比較的お金持ちな家のお嬢様が通っているのだ。美羽菜の家はその中でもトップクラス。うちはそこそこなレベル。
私の家は母と祖母の仲が悪くいつもギスギスした雰囲気が漂っていて、そんな家に居るのが嫌で寮のある学校を選んだ。
お嬢様学校と噂されるだけあって合格通知を見た祖母にも母にも喜ばれたし、通学時間が長いと勉強に集中出来ないと言ったら上位の成績を取る事を条件に寮で暮らす事も了承して貰えた。
学校の規則は結構厳しく、制服はスカート丈の調整がしにくい膝丈のワンピース。冬は紺色に白い襟とカフス。夏は水色に白い襟。靴は学校指定の黒皮のワンストラップシューズで冬は黒いタイツ、夏は白い靴下を合わせる。
長期の休みで帰省する以外は外泊許可も出ず、9時以降は自室から出られないという厳しさだったけどそれでも家で暮らすよりは快適だった。
「でもこれさっき着てた服と違うよね。着替えたの?」
「うん。さっきのは流石に露出が凄すぎて……寒いし」
「確かに寒いよねえ。風邪ひきそう。いいなマント」
「美羽菜は装備品持ってないの」
「ない。持ってた中で最高装備だけ残して売っちゃった」
「……それ、最高?」
美羽菜の装備はゲームの中頃に行く街で買える装備だ。
確か光の加護がついていて、光魔法の効果が2倍になるけど防御とかはそこそこのレベルじゃなかったかな。
「私が買える中では最高。すぐ死んじゃうから回復アイテムばっかり買ってたし、いつも貧乏なの」
「貧乏って美羽菜さあ、殿下のフラグどこまでへし折ってたの」
「殆ど全部? だって好感度ほぼゼロだったし」
「それでレベル80とか行くって奇跡だね」
ゲームの進め方を知らないにしてもあんまりな状態の美羽菜に呆れながら、腕輪からマントを取り出し美羽菜の肩に掛けた。
「なんで」
「聖女ルートは他でレベル上げしにくくなってるの、殿下の好感度があがればレベル一桁でも魔王に勝てるからレベル上げいらないんだよ」
というか、恋愛ルートだけ進めているとフィールドに出る必要がないしダンジョンにも入らないからレベルの上げようがないのだ。