№ 愛羽音(あはね)
『我、悪魔と為り、右目の邪眼ルシファーの名の下に全てを喰い尽す為に召喚せよ……出でよ!
夢喰い獣、ケルベロスよ! 忌まわしき女騎士に目にものをみせてやれ!』
『ふふふ、独りでは何も出来ない愚かな悪魔とは……他愛もない。 この私の左目に虹色の眼に跪かせてあげるわ。 ソノミナモト、コノケガレタ魂ニ裁キノ光ヲ降ラセタマエ虹色殲滅』
『ま、まさか……貴様が、あのLegend(伝説)の虹色の眼だったとは!?』
***
「という夢を昨日みました」
「…………」
『な、なんなのコイツ、生粋のヲタク。 そんな夢どうでもいい』
そう、この変な中二病のヲタクが、私が長年探し続けて来た左目のDonor
【角膜潰瘍】
被覆上皮が欠損し、その下層の組織に至った状態、そこにウイルス等が混入し感染し私は光を失った。 どうして、そういう経緯で彼が私のDonorになったのかわからない。 普通、死亡したDonorの移植というのが、常識なのだが彼は生きている。 そう、思いながらも今”山田塁”を昼食にお誘いし校内のベンチに座り、一緒に雑談をしながら食べている。
「山田くん」
「ルシファーでいいよ」
「それは、絶対に、嫌」
山田くんはどうして私のDonorに―――
その言葉に、山田塁は少し俯き考え込んだ様子になったと思うと、暫くして答えが出たかのような表情に移り変わる。
「LOVEwingmelody」
「え……何それ?」
「君の名前、若草愛羽音」
「…………それをいうなら、melodyではなくてSaundだわ」
私がそれを指摘すると”え?”っといった表情、心持本気で勘違いしてしまっていたことが恥ずかしいのか、苦悶に満ちた顔をする山田塁。 それを見て私は――
「若干、イラっとする」
確かに、白馬の王子様とまではいかないけれど、せめて普通、標準であって欲しかった。 授業中、休憩時間、そして昼休みと、彼”山田塁”を観察して一つわかったことがある。
”彼には友達がいない”その要因として中二病もあるのだけれども、根本的にあの十字架にデコられた眼帯が彼に誰も寄せ付けない。 正直、ダサい。
『私は、昼休み思い切って、ぼっちの彼を誘い出した』
「melodyでもSaundでもいいのだけれど、山田塁くんがどうして私のDonorになってくれたの?」
彼の顔が曇る、立ち上がりポケットに手を入れ私の方に振り向いた。
「A final showdown(最終決戦)ってとこかな」
「山田くん、今の台詞は間違いなくいらないと思う」
「僕が、幼少期の頃、一人の少女に出逢ったんだ、その少女は自分の事をナイトと言った」
私は、ナイト! 貴方を葬りに来たのよ。 そういって僕に指差し突如現れた少女は両親と、僕の地元にある別荘に遊びに来ていたのだという。 初めは戸惑い意味不明だったけれど少女はここに来て遊び相手が欲しかったのだと気付いた。 僕が悪魔の役を演じ、少女はそれを倒す勇敢な騎士といった設定。 いつしか僕達は夢中になり、日が暮れるまで遊んだ、名前も知らないのに。
「もう、遅いから帰ろう、おうちの人が心配してるよ」
少女は、立ち止まり俯いた。 そして、ぽたりぽたりと地面へと涙が零れ落ち、こう言った。
―私、もうすぐ目が見えなくなるの―
顔を上げた少女の目から、泪が溢れ出る、止めどなく――。
それは、今まで二人でいた時間、一度も見せなかった少女の悲しい顔。
―光を、光を取り戻すんだ―
「悪魔と契約をしよう。 僕の右目を君に授ける、僕は……」
その時、その泪を見た僕は、なんでこんなことを言ってしまったのだろう。
「君のことが、好きだ。 だから、あの時の続きをしよう」
顔を赤くして微笑んでいる山田塁くんが、中二病なのは私のせい、光を取り戻したときもう一度、私とあの時の続きをするため……あの時と同じように泪が溢れる。 今度は悲しいからじゃなく、嬉しくて、たまらなく嬉しくて。
「うん」