№ 塁(とりで)
「目を逸らさないで、私の目をしっかり見て」
僕は、女子に黒板を背に追い詰められて、そう、今この状況をはたから見るとそれは今にもキスをしてしまいそうなくらいの至近距離で、その台詞を夕日が差し込む教室でロマンチックに開演していた。 そして問題の彼女の”しっかり見て”などと言われても、今日、転校してきたばかりの、まして彼女でもなければ親戚でもない、想いなどを寄せられる覚えもまるでない。
***
それは、夏から秋へと変わる衣替えの季節に、今日、まだ半袖のままでうちとは違う制服の女子が、担任の教師の横に立っていた、セーラー姿に長い黒髪がとても艶やかで顔の印象をグッと引き立てるくらい綺麗なストレート、当然、その髪に負けないくらいの大きな瞳で、転校生であるが故の恥じらい……ではなく、その瞳は、レーザービームのように僕を真っ直ぐに見ていた。
じ――。『な、なんでこっちを見てるんだ』
僕は、目を逸らすが、時折気になりチラ見をしても、やはり僕を見ている。 最初は正直、僕の自惚れかと思っても見たが、こんな厨二の入っているような僕が一目を置くとすれば、年から年中しているこの右目の黒い眼帯。 たしかに初めて見る人には、物珍しい気もするが冷静に考えるとそれは逆に目を逸らされる対象に位置づけられるのではないだろうか。 だが、僕を見ている決定的な出来事、それは、転校生が定められた机に向かう間、一度たりとも僕から視線を逸らさなかった。
『まさか!? あの転校生は、ダークナイト(漆黒の騎士)!……いや、そういうのはたちまち置いておこう』
そして、転校生は少し遠いながらも、僕の斜め後ろへと席に着く。
授業が始まり、僕はいつもの妄想モード……『ふふふ、あなただけに私の声が聞こえるみたいね』
『フッ やっぱり貴様、俺の正体を……サタン(魔王)の息子のルシファーだということに気付いていたんだな』 僕は、ありもしない妄想と共に、斜め後ろの転校生の方へ向くと――。
僕をじっと見ていた。 『ガ、ガン見、継続中でした』
息苦しくなった僕は、昼休憩逃げるように教室を出る。 つけられてないかを確認しつつ弁当を持って屋上へと奪取で階段を駆け上り息を切らし向う。
「ここまでくれば大丈夫か、あの女騎士(転校生)、俺の正体を知っているのか……。 だとしたら、少々手荒だがスキルポリグラフ(意見解析)を使うしかないか……」 屋上から見下ろすと転校生の彼女が、グランドでいかにも誰かを探しているような素振りでキョロキョロとしているが、僕は当然の如く体制を低くして全力で隠れた。 そして午後からの授業がはじまりさすがの僕も転校生の方には振り向かない、何故なら絶対見ているはず。
そして、容赦なく放課後が訪れる。
放課後は、そそくさと部活に行くもの帰宅するもの、そして、約束をしているグループ達は待ち合わせをしているかのように雑談をしていた。 そこへ転校生に数人の女子たちが群がり、一緒に帰ろうと誘う。
「ごめんね、今日は少し帰りに用事あるの。 今度誘ってね」
いつもであれば、帰宅組みの僕は一目散に帰り、ネットゲームの続きをするとこだが、転校生が帰るまで机で読書をしているフリをする。
――それが、大失敗だと言う事に数分後に気づかされた。
この放課後に、他の生徒は皆いなくなり、僕の後ろに不自然なくらい何もせず席に座ったままの転校生……。
『な、なんで帰らないんだ……帰りに用事があるって言ってたじゃないかぁ!』
――ガラガラっと椅子を押す音と同時に転校生は立ち上がる。 シタシタと読書をしているフリをしている僕に紛れもなく近づいて来た。
「お前! さっきからなんで僕のことを見てるんだっ……よ」
振り返った瞬間、僕は彼女に押され、いつの間にか黒板まで物凄い勢いで追い詰められていた。
これからキスをしてしまいそうなくらいの至近距離、教室は夕日が差し込み転校生の彼女は口を開く。
「目を逸らさないで、私の目をしっかり見て」
僕は、転校生の目を言われるままにじっと見つめた「七色……右目が七色だ」
「そう、左目は義眼なの、あなたの右目。 その眼帯の下と同じ」
その意味が、すぐに僕にはわからなかったが、わかったのは彼女の言葉。
「ずっと、あなたに逢いたかった……私の左目に光をくれた人。 私の右目のDonor」
遠い記憶、僕は一人の少女のDonorになった、それは当時好きだった子。 そして目の前にいる転校生がその時、失明し光を失ってしまった子。 彼女は、優しく微笑みーー
「ずっと、あなたに言いたかったの”ありがとう”って」
泪をこぼす。
Donorをご覧頂きましてありがとうございます。
初めは、短編のつもりでしたが、連載してみようと思います。
内容に関していうと、まだラストを考えていませんw
これから、ぼちぼちと考えていこうと思いますが、読んで頂けたら幸いです。 あと、誤字並び駄文でありますが、感想やアドバイスなどあれば気軽にお願いいたします。