5.香織の過去 その1 ー香織視点ー
はじめての記憶は遥か遠い昔____
×××年
私は、神殺しの一族に生まれたセシリアという少女だった。
神殺しとは、ある神が人の世界に侵略し、神や天使を使い我が物としようとしたところから始まります。
しかし、神が人の世界を侵略するのに難色を示した神様がいました。
その神様は、例え神がしようとする行いでも、人の世界に関わるべきでないと考え、ある特定の一族に自分の力、すなわち神と天使を殺すことのできる能力を分け与えました。
その一族が、私たち『神殺しの一族』。
この世界に侵略する神や天使は、『愚かなる侵略者』と呼ばれます。
お昼の昼食を家族と食べている時でした。
突然、外から大きな音がして、次々に村に住んでいる者たちが愚かなる侵略者たちに惨殺されていきました。一人残らず、殺そうとしています。
目の前で、弟や妹、父と母も殺されました。私は家族の遺体の横で、死んだふりをして難を逃れました。
日も暮れ、愚かなる侵略者たちが去った頃、私は外に出て村を出ました。
次の日の朝、一人の女性と出会いました。
彼女は、『護り人』。この世界を守り、魔物を狩る女性だけの集団の一人です。
その女性は、テレジアと名乗りました。
私が先ほどの村の神殺しの一族の生き残りだと知ると、近くの神殺しの一族が住む村まで連れて行ってくれると言いました。
旅をするにつれて、彼女と仲良くなりました。私に姉のように接してくれる大切な人。
旅の間は私が神や天使を殺し、テレジアが魔物を狩りました。
ある日、テレジアと別れの時がきます。愚かなる侵略者たちに私たちは取り囲まれてしまい、奴らの攻撃からテレジアが私を庇ったのです。私は泣くよりも先に、残りの奴らをすべて殺しました。
私は殺し終えて、テレジアの傍に寄りました。
「ごめんなさい、テレジア」
「泣かないで、大丈夫だから」
「でもっ」
「私はもうダメ。だから、早くここから離れて。先を行って」
「イヤッ。テレジアと離れたくない」
「早く行きなさい!」
そうしていると、テレジアと同じ護り人がきました。
「テレジアっ」
「ミランダ、キャロル。早くこの子を連れて行って。奴らが戻ってくる前に」
「わかったわ」
「ええ」
私はテレジアから引き離されて、近くの神殺し一族が住む村まで連れて行かれました。
そこの村長から、
「よく来たね。あの村の生き残りか」
「はい」
「今日はもう遅い。私の家で休むといい」
「ありがとうございます」
その夜のこと。夜中に目覚めると話声が聞こえます。
「一番近くの村の者たちは、先ほどの少女以外死んだそうだ」
「もう、ここも危ないですね」
「ああ。ここ最近、愚かなる侵略者たちにより神殺し一族の村が次々に襲われている。もうすぐ、ここ以外残りの村の者たちがここに来るそうだ」
「では、もう最後の手段を」
「神官長は、もうすでに準備を始めていると」
「先ほど私はあの村から帰って来ましたが、あこの村の神官長も最終手段を使うしかないと言っていました」
「やはりな」
「しかし、最終手段を使うと言っても、誰を選びます? 子どもには酷なことですし、大人でも嫌がりますよ。死んだ方がましだと」
部屋の隙間から私が覗いていたことに気づいた村長は、
「もう寝なさい。疲れているだろ」
「あの、最終手段って?」
「村長、どうせ知ることです。この子に、話しましょう」
「しかし、」
「この子は、神殺し一族の娘」
「まだ、子どもだ」
「今は、子どもとかどうとかいってる状況じゃありません」
「そうだな。セシリア、神殺し一族の最終手段とは神殺し一族全員の命を使い、一人の者にすべての役目を押し付けることだ。一度死ぬだけではない。必要な限り、何度でも生まれて死ぬ。役目を全うできない器の時は短命になる。その者の役目は、愚かなる侵略者の神に何度も殺されて、この世界を守る結界になることだ。最終的には、愚かなる侵略者の頂点に立つ神に殺され、私たち一族に能力を与えた神様をこの世界に引き摺りだし、神を殺させることだ。いくら、私たち神殺しの一族と言えどその神を殺すまでの力がないからな」
「その役目は誰がするんです?」
「残りすべての神殺し一族が揃ってから、適合者を強制的に決める」
正直なところ、家族を殺されたことはどうでもよかった。だけど、私からテレジアを奪ったことは許せなかった。復讐するしか、私は生きることができない。だから、思わずこう言った。
「私ではダメですか?私は私のすべてを殺した奴らを殺したい。例え、私自身がどうなっても」
「君は子どもだ。すべてを押し付けるわけには」
「いいんじゃないですか、村長」
「なんてことを、子どもがするには酷すぎる」
「俺はそんな覚悟はないですよ。それに、奴隷を見下す人間は狼族に信用されません」
「そうだな」
「奴隷...」
「この世界には、人間より強い種族が存在する。吸血鬼族と狼族だ。現在、狼は吸血鬼の奴隷だ。吸血鬼の方が、力と能力に優れているからな。人間よりもだ」
「つまり、奴隷である狼族を奴隷として接しない人間が最適と」
「ああ」
「じゃあ、この子が最適ですよ。村長、この子はその考え方が馴染めず、家族仲が良くなかったと死んだ弟、つまりこの子の父親が言ってました」
「そうするしかないのか...明日、ここの村とあの村の神官長に言おう。セシリア、もう寝なさい」
「はい、お休みなさい」
数日後、最終の儀式を始めました。その前に私はこの村の村長と、吸血鬼の長に会い、儀式を終えると、役目を果たすまで彼らの住む村に住む伝えてます。
この儀式を嫌だといって、逃げ出そうとする者もいましたが、数人の大人たちが結界を事前に張り、神殺し一族が逃げ出さないようにしました。
儀式の最終段階になってくると、四肢が千切れるような痛みが何度も襲ってきて、それが数日間続きました。意識を取り戻すと、私以外の一族がすでに絶命していました。
私は、吸血鬼族の住む村に行き、吸血鬼の長に会いました。すぐ近くに、美人の女の人がいます。
「この間の娘か、よく来たな。これは私の娘、アンジェだ」
「よろしく。アンジェでいいわ」
「こちらこそ、よろしくお願いします。セシリアです」
「もう、奴隷の飯の時間だな」
「私が行きましょうか?」
「いいのか、人族の娘。奴らは危険だぞ」
「役目を終えるまで、タダ飯ぐらいになってしまうのはイヤですから」
「そうか。では、頼んだぞ」
「はい」
ご飯を用意している場所を訊いて、私はそこに向かいました。
そこにいる吸血鬼に不振がられましたが、吸血鬼の長に許可をもらったというと、渋々ながらご飯の乗った台車を渡してくれました。
狼族が押し込められた部屋に行くと、彼らは太い鎖につながれていました。
「人族の娘か。珍しいな」
狼族のリーダーらしき人が声をかけてきました。
「当分の間、ここでお世話になるので、お仕事をもらったんです」
「いつまで」
「私が神に殺される日まで」
「神殺しの一族の者か」
「はい。私以外は死にましたが」
「そうか」
彼は、ディートリヒという名だそうです。
ここ数日で、アンジェとディートリヒをはじめとする狼族と仲良くなりました。私は、神殺し一族のこと私のこれからのことを話しました。そして、私の死ぬ日が近づいてきたことを感じました。彼らに黙っていくことはできません。なので、私はそれを伝えることにしました。
「ディートリヒ、私はもうすぐ神に殺されます」
「アンジェには言ったのか?」
「はい、先ほど」
「他に選択肢はないのか?」
「ありません。それに、私はアンジェとあなた方のいる世界を守りたい。私にはそれしか残されていないから」
「気づいていたのか」
「態度を見ればすぐ分かります。だからこそ、ここを守りたいんです」
「ありがとう」
「いえ、これは私の身勝手なワガママですから。それじゃ、さようなら」
「ああ」
この後、私は私を襲ってきた神にわざと殺されました。私は死ぬ寸前に、その神を殺すことに成功します。次もまた、生まれ変わって神に殺されることでしょう。愚かなる侵略者からこの世界を守る結界が完成し、私たち一族に能力を与えた神様をこの世界に引き摺りだすその日まで。
アンジェとディートリヒは、吸血鬼の長に隠れて付き合っていることがばれて、この後処刑されます。吸血鬼と狼の子どもができて、純血の血に汚れた血が混ざらないようにするためです。
これから、数百年後に吸血鬼と狼は共闘するようになり、それに反対した吸血鬼の長は、処刑されます。