直也の作戦
「殺す? 俺を殺すだと……?」
「ああ。そうだ。十分もあれば充分だ」
まずは、コイツの注意を俺自身に惹きつけることにした。
「狂ったことを言ってんじゃねえよ、人間。俺は最強にして最凶な最狂の狩人だ。お前ごときーー」
「十分だ、と言ったはずだ。確かに俺だけでは、お前を殺すのは無理だろう。だが、コイツらを使えば造作もない。ーー十分だ」
「まだ言うか、人間!」
鬼木双子がいきなり飛びかかって来た。俺めがけてまっしぐらに。
ーー予測通りだ。
予め、俺が企てた作戦は、夏美の能力で全員に伝えてある。
だから、後はーー。
「残り9分53秒。ーー一真、夏美!」
十分というのは、ハッタリにする気はない。
不用意に突進してくる鬼木双子。そんな奴と俺との間に、一真が飛び出す。
奴の武器は槍。一番、難しいのが距離の取り方だ。中間距離では、奴の間合いの範疇。なので奴と戦闘を行う際は、接近戦が好ましい。しかしその距離に持ち込むには容易ではない。
なら、奴にとって絶好の何かを差し出せばいい。そう。それがーー俺の命。
「だが、タダでやる気はない」
「ッハ! 死ね!」
「ーーニヒヒッ!」
一真の手が、ギリギリで奴の左手に触れた。その瞬間。奴の槍が、下方へと下がり、俺たちに向かうはずだった槍が、地面へと突き刺さる。
間髪入れずに、
「麗美!」
毒槍をへし折らんばかりの勢いで、
麗美の蹴り。さすがにかわされてしまったが、問題はない。
鬼木は距離を取って、こちらを睨んでいる。
「ッテメエ……!」
「夏美、頼む」
夏美におんぶをしてもらう。彼女は元々、超人としての能力を秘めている。人一人を背負って走るコトぐらい訳はない。利用しない手はないのだ。
それに直接触れ合っていた方が、テレパシーも使いやすい。
「ーーどうするの? 直也」
先ほども既に説明したのだが……。
まあいい。
「夏美は、俺の指示を皆に伝えながら目的のポイントまで、奴から逃げ切ってくれればいい」
「はあ? だからそれじゃあ直也がっーー」
「来るぞ」
鬼木が突っ込んで来る。すかさず夏美は駆け出す。俺はそんな彼女におぶさりながら、他の面々に指示を出す。
「まずは全員、奴から一定の距離を空けて、ポイントまで誘導しろ」
この作戦で一番大事なことは、鬼木をいかに「あの場所」まで上手く誘導出来るか。そしてその道中で、どれだけ手傷を負わせられるかが重要だ。
「片腕の鬼相手か……」
油断は出来ない。何せ奴は、橙子をーー。
怒りがこみ上げるのを抑えて、また計算を開始する。
「麗美、いいぞ」
合図を送る。返事はなかった。いや、無言こそが「気が進まない」という返事なのかもしれない。それでもこれは、必要なことなのだ。
麗美は、サッと扇を取り出すと、それを巨大化させていく。このあたりにそびえ立つビルに匹敵するそれを、軽々と肩に担ぐと、いきなりそれをブンブンと振り回す。
壮絶な地響きと粉砕音は、彼女がビル群を粉砕している証拠だった。
「直也、本当にこれでいいの?」
「ーーああ。夏美」
手傷を追って、初めて味わう一真の「無力化」の能力で混乱しているであろう鬼木が取るであろう行動は、きっと身を隠すことだろう。まあどこへ隠れようが、見逃す気はないが、念には念を入れてだ。全てのビルを破壊しておくことにする。ーー反対はあった。鬼木だけでなく、他の面々も危険にさらされるのだ。だが、今はーー。
「そんなこと、知ったことではない」
それに最低限の守備力は、各自備えているはずだ。足りないところは、フォローを入れてある。
例えば……。
「グルグル、どうだ?」
「オヨヨヨヨ。時雨さんのおかげで、何とか無事です。ですが、時雨さんがかなり消耗していて……」
「そんなことは聞いていない。それより奴の動きの未来予知はどうなっている?」
「オヨヨヨヨ。そんなこととはーー鬼木双子は、次にbポイント付近のビルの残骸跡に向かうでしょう」
「そうか。ーー夏美、俺たちはcポイントへ向かう」
「わかった」
夏美は、方向転換し、颯爽と駆け出す。
「一真はbポイントへ」
「はあ? カズ兄、一人で行かせる気?」
「ニヒヒッ。ーー心配すんな、夏美」
一真がbポイントへ走っていくのが見えた。
「ーーニヒヒッ。着いたぜ?」
超人として、特に走力に優れた一真は、あっという間にbポイントへとたどり着いた。それも鬼木よりも先にだ。まあ計算通りではあるが……。
「一真、隠れて待機だ。7秒後、奴がそちらへ向かう」
「ニヒヒッ。了解」
双眼鏡で奴の動きを監視しながら、
「夏美、笠懸へ繋いでくれ」
「ーーわ、わかった」
夏美に弱冠の披露の色が見える。
普段から能力を使っていない証拠だ。だが、今はそんなこと知ったことではない。
「笠懸か? 今だ。やれ」
「御意」
笠懸には、鬼木の足止めを頼んだ。
但し、正面から向かえば、笠懸ではひとたまりもない。だから、憑依の時に出る霊魂を使用することにした。ちなみに笠懸の憑依成功率は50%。こっちを当てにした方がよっぽどいい。
合図を出した瞬間。bポイント付近に青い霊魂が幾つも上がる。
その瞬間。鬼木は、立ち止まって、何事かと周囲を見渡している。
ーー作戦は成功。
「一真!」
この一瞬の隙を付く。
「ニヒヒッ」
瓦礫に埋もれる様に、隠れていた一真が不意に飛び出す。そして鬼木の両足に触れる。
「ッハ! 馬鹿な……」
鬼木の動きが完全に停止。ここで留めを差すのは簡単だが……油断はならない。
「一真、引け」
奴との距離を取らせ、待機させる。
「夏美、bポイントへ」
ーー十分まで後一分。
そして俺は、鬼木と対峙していた。




