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4月7日 二人の幼なじみ、そして新たな出会い

入試二日前なのに何をしてるんだろうか……。

「あいつらは……」


 そうつぶやく俺の前には、一組の男女が歩いていた。


 男の方はいかにも活発そうなスポーツ刈りに高めの身長とがっしりとした体つき。


 対して女の方は、すらっとした長い手足に染めているのかと思うほどに赤い髪の毛。


 その二人がふと後ろを向き、


「お、蓮じゃねぇか!会いたかったぜ」


「あ、蓮くん。こんにちは」


 一組の男女もとい、俺の幼なじみである、「行田 進」と「寄居 美波」が挨拶をしてきた。


「おう、おはよう。お前たち二人できてたのか」


「二人できてたのかじゃないわよ!」


「まったくだぜ。ここにはいるのなら最初から声をかけてくれればいいのによ」


 と、二人は少しだけ怒った風にしかしそれ以上に同じ学校だったという喜びが混じった表情に苦笑してしまった。


「すまんな、入試終わってすぐにジジィに呼ばれて秩父の山中に行ってたんだ。それで連絡できなかった。」


 あのクソシジィ、入試が終わるやいなや山籠もりとかどういう神経してるんだよ。


 俺の祖父のことを知っている進と美波はあー。と声をそろえて納得したような顔になった。


「なるほどな、紫檀したんさんなら言い出しそうだな」


「あれ?じゃあ、もしかして合格発表には来てなかったの?」


「ああ、ジジィはここの理事の一人だとかいってたから、俺なら入れて当然だろとか言われて行かなくて良いとか言われたから行かなかったんだ。というか、いけなかったんだ」


 山籠もりの先が秩父の中でも特に深い所だったからなおのことだった。下山するにしても、片道で三時間はかかったぞ。しかもそれから、秩父線に乗って一時間半弱揺られて眠気もあったせいか舟をこいでて、気が付いたら乗り過ごしてたしな。


「それは、残念だったな」


「そうねー。蓮君にとってはとても残念なことかも知れないわね」


「なんだ、その俺にとって残念なことって?」


「それはね――」


 美波が何かを言おうとしたそのとき、不意にスピーカーから「入学式開始15分前です」というアナウンスが入ってきた。


「わわわ、進、蓮君。早く行かないと。このままじゃ遅刻しちゃうよ」


「入学式から遅刻は嫌だな。二人とも少し急ぐぞ」


「ああ。」 


「う、うん」


 美波があわあわとしているのがおもしろいのだが、一体言い掛けたことはいったい何なのだろう。それに俺にとって残念なこととは一体……。そんな疑問を持ちながら第一体育館に早足で進んでいった。


「じゃあ、私たちは体育科だからこっちね」


「蓮、またあとでな」


「ああ。じゃあな」


 体育館の入り口で俺は二人とは違う学科なので別れた。ちなみにあの二人はそれぞれ、バスケットとバレーの成績が評価されて入学したらしい。


「さてと、俺の席はどこだと……」


 俺は文学科なので前の方だと思うのだがどの辺かな。前の方に進みながら少し周りをキョロキョロと見てみると空いてる席があったのでそこに向かう。そこには、一年文学科 熊谷 蓮と書いてある冊子があった。周りの生徒も同じ冊子を見ているところを見るとプログラムとかが書いているのだろう。


「よっこいしょと」


 年寄りみたいなことをいいつつ先に腰掛ける。そして手にした冊子を見ようとしたところを隣に座っていた女生徒に声をかけられた。


「随分とお疲れのようですね」


「そんなことがわかるのですか?」


「いえ、なんとなく疲れてそうな雰囲気がしたものでして。勘違いでしたらごめんなさい」


「いや、あってるよ。昨日までちょっと山籠もりしててね。少し疲労が貯まってるみたいだ」


「今時に、山籠もりだなんて随分と珍しい事をするのですね」


「いや、山籠もりはクソジ…もとい、俺の祖父が言い出したこと何だが無理矢理に連れて行かれてしまったんだ」


「いま、クソジジィって言おうとしてましたよね……」


「気のせいだろ。自己紹介が遅れたが俺は熊谷 蓮だ。同じクラス同士よろしく」


「私は影森かげもり はぎです。こちらこそよろしくお願いします」


 そういうと、軽くお辞儀をする影森さん。彼女は名前の通りに暗い印象は無いのだがなぜか、言い表せ無い雰囲気を纏っているような気がした。まあ、これは俺の考えすぎだろう。


 その後、少しの世間話をしていたらスピーカーが小さくノイズを放ったので話を切り上げた。


「ただいまより、第一回星桜学園入学式を開会いたします」


 教頭と思われる先生の開会宣言によって開会した、入学式。校長挨拶から始まったが、校長は話が長いのがテンプレなため、時間がかかると思ったのだが思いのほか早く終わった。内容を要約するなら「将来の社会を支える大木となり、華々しい花を咲かせよ」と言ったところだ。続いての理事長挨拶何だが、出てきたのがまさかの……


































「理事を務めておる、熊谷くまがい 紫檀したんである。本日は皆の入学を心から歓迎する」


 筋骨隆々の体躯を羽織りに包んだうちの爺さんでした。うん。まあ、なんか理事やるとか聞いてたけど今日のしかも理事長挨拶やるとか聞いてねぇぞ!!そういやあのクソジジィ、昨日まで秩父の山の中に籠もってたんじゃないのかよ。いつ、下山したんだよ……。


「あの……熊谷さん。理事長さんってもしかして……」


「……ああ。君の想像の通りだと思うよ……」


「じゃあ、熊谷さんがいってた祖父って……理事長さんのことだったのですね」


「正解……。熊谷 紫檀、68才。俺の祖父にして、星桜学園の理事長だ……」


 睨むような視線を壇上に向けるとそれに気が付いたのか。してやったりというような表情を浮かべた。あのクソジジィ……俺を驚かしたかっただけなのか……。


「最後になるが、君たちが良き星桜学園生として才能を開花できるよう祈っている。私からは以上だ」


 挨拶が終わり壇上から立ち去ろうとしたとき、ふと視線をそらした先をみてなにやらクソジジィが驚いた顔をした。しかしそれは、一瞬のことで他の生徒達は気が付かなかったようだった。いったい、何を見たんだ。あのクソジジィは。


「続いて、新入生総代表挨拶。新入生総代表、秩父宮ちちぶのみや 桔梗ききょう


「はい」


 思わず息をするのを忘れてしまった。だってよ、いま壇上に上がっているのは……


「春の息吹きが感じられる今日この佳き日。我々、新入生総勢1040名のためにこのような式を開いていただき誠にありがとうございます」


 今朝、駅で目を奪われた女子生徒だったのだから。周りをうかがってみると男子は皆目を奪われており、女子も彼女の美貌に気を奪われているみたいだった。

 今朝とは違い彼女は、長い髪を桜のアクセサリーがついたゴムで一つにまとめていて、どこから見ても真面目な優等生といった風情だ。


「以上で私からの、新入生総代表の挨拶とさせていただきます。ご静聴ありがとうございました」


 挨拶がおわり、拍手がおこる。心なしか、理事長挨拶より拍手が大きい気がする。ふはははは、ざまぁみろクソジジィ。


 その後の入学式は淡々と進み、俺たちは担任に引率され真新しい校舎に移動した。


 星桜学園の校舎は『Ⅱ』という形を横に伸ばしたような形をしている。

 『Ⅱ」の上の部分が普通教室棟。各クラスの教室が集まっている棟だ。この棟は五階建てで、一階が職員室などの教科関連の部屋が集まっている。二階は四年生の教室、三階は三年生の教室、四階は二年生の教室、五階が俺たち一年生の教室だ。五階まであるので不便と思うだろうがそこは私立の新設校。なんと最大定員46人乗りのエレベーターが普通教室棟だけで合計で三基もある。そのために、俺たちは高台にある学校からさらに高い所にいくため、市街地や遠方の山々が見渡せた。逆の特別教室棟に行けば、富士山が見えるかもしれないな。というか、46人乗りのエレベーターって東京スカイツリーの展望シャトルよりも大きいじゃないか。


 考えるのもつかの間、五階に到着したエレベーターからは人が吐き出されていく。その波に俺も乗じて出ていく。でていって右に曲がると1―Fというプレートがみえ、その先に、1―E、1-D、1-C……と続いていき俺たちは1-Aのプレートがかかった教室に入っていった。



 

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