だいにわ
放課後。それは全国の学生である誰もが部活動や、受験生ならば勉学。その他もろもろの活動に勤しむ時間。ここ私立桜咲高校も例外ではなく、それぞれが熱心に部活動に取り組んでいる。
……はずななのですが一部、活動内容を曖昧模糊とした部活動が特別熱心でもなく、ただ、その放課後で、季節は冬であることから暖房をフルに稼動させ怠惰とした時を送っていました。
情報部です。
「ふわー、暇暇暇! 暇すぎて死にそうダ」
あくびをしながら、暇を持て余しているこの子の名前は氷野七瀬。茶髪のセミロングがよく似合う可愛らしい少女。しかしその外見とは裏腹に性格は色々と腐りきっているという、かなり残念な少女のようです。
「腐ってなんかないですもん! きー!」
……虚空に向かって牙をむくような痛いところがチャームポイント。
「ちょと、五月蝿いから死になさい」
パソコンに文字を打ち込みつつ絶対零度の視線を氷野に向けるこの少女は、紅間リン。艶やかな黒髪が透き通るような肌に映えています。彼女を差し置いてクーデレは語られないほどの極度のクーデレであり、そのクーデレっぷりは、氷野をコンマ一秒で卒倒させる威力があるほどだとか。
「誰がクーデレよ。社会の粗大ゴミごときが! 貴女が存在するだけで無駄に二酸化炭素が排出されて地球はいい迷惑よ!」
最近は、エコに関心があるようです。良いことなんですが……その割には暖房ガンガンな部室はどうかと思うよ。
「りんにゃ、違った。リンちゃんだって結構、うるさいですよぅ」
「……今、聞き捨てならない単語が聞こえたわ。ええ、きっと私の幻聴よね。誰も『りんにゃん』だなんて言ってないはずよね?」
問題はそこですか。
「う、うん。だ、誰もそんな事言ってないですっ……よ?」
嘘が下手。
「正直な子ね。ちょっと、こっちに来なさい?」
「はーい」
てこてこと物理的に有り得ない音を足元から発しながら、氷野はデスクにいる紅間のもとへ行きました。
「掃除用具入れ詰め込んでやるから」
「わかったーって、えぇ? 何で!? 何にも悪いことしてない!」
無自覚な氷野は、その扱いに不満を漏らしています。
「悪の根源が何を言うの。いい? 暫く、掃以下略で反省してなさい」
その無茶な発言からして悪の根源はあなたのほうだと思いますが……。
「貴女も掃以下略に入る? それとも焼却炉のほうがいい?」
めっそーもございません。何なら氷野をお入れください。そちらの方が色々と有益かと。
「それもそうね……」
真剣な目つきで検討を始める紅間。……うまくいったぜ!
「わ、わかったから、焼却炉だけはやめて! 死んじゃう! 掃除用具入れで反省するから!」
勝手に焼却炉送りにされそうになったあげく、自ら掃除用具入れ送りを望む、氷野。バカである。
沈んだ様子ですごすごと掃除用具入れへ向かい、その扉を開ける。勿論、その先には異世界が広がっている、などというラノベ的かつファンシーな展開は待っていません。そこにあるのは、掃除道具だけです。夢も希望もへったくれじゃない。
「あ、くさっ……」
ふむ、臭かった様ですね。
入るのを躊躇うかのように、静止する。そして遠慮がちにに口を開きました。
「あの、りんちゃ」
「聞こえない、何も聞こえないわ。そう、私は何も聞こえないの」
明らかに聞こえているようだが、聞こえないの一点張り。なかなか常人には真似できない冷酷さがあります。