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NSP  作者: COZ
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プロローグ


 笑顔、笑顔か……そうだな、強いて言うなら絶望の先に希望が見えたときになる表情ってとこだな。

                    ~始まりの超人ヒトビダーヤ・ダグイエル~





 青々と生い茂る木々から風に合わせてハラハラと木漏れ日が教室の机を照らす。

 中ではあくびをしたり、タッチペンを器用に手の上で回したりして退屈を凌ぐ生徒がちらほらと見受けられるが、概ね行儀良く授業が進められて行く。


「テラフォーミングの技術が確立されてから現在に至るまで、述べ20もの惑星が人により環境整備を受け、生命の依り代としての機能を所持するようになりました。」


 教室の中は女性がつらつらと歴史を語る声に支配され、回されるペンと間の抜けた声とも言えないあくびをする音がわずかながらの反逆をするかのように生徒から漏れ出る。

女教師はそんな二名の生徒の態度など知った事かと言わんばかりにたんたんと人が宇宙に進出してからの史実を教科書に書いてあるとおりに読み上げて行く。


「また、人は果て無き宇宙での生活の中で種としての成長を始め、かつては夢物語とされていたESP、つまりは超能力を身につけた人々が生まれ始めました。そして、最初に超能力を発現させた人物は『始まりの超人』と呼ばれるビリーダ・ダグイエル氏であり、今でも当時の詳細な記録が残されています」


 やはり、ただたんたんと進められる教員が教科書を読むだけの授業は堪え難いものなのか、あくびをしていた少年はコクリコクリと頭を揺らし今にも寝入りそうになっている。

 そんな短く切りそろえた金髪の少年に気づいたのか、隣の少女がおもむろに指を動かし机の上にあったタッチペンを手に取るとフラフラと揺れる頭を呆れたように眺めつつ、机のパネルに何事かを書き込むとまたつまらなそうに語られる先生の話を聞く体制に戻った。


「さらに近年では、派生型超能力(ネクスト)と呼ばれる物理干渉能力(サイコキネシス)五感外察知能力(フィールド)の域を超えた超能力も出現し、人類のさらなる進化を予感させています。」


 女性教諭がそう締めくくるなか、眠そうな少年は自分のモニターに表示されたメッセージを鬱陶しそうに眺め、横目でさらりと流れる黒髪の少女を睨むと自分の腕をまくらに退屈な授業から楽しい夢のなかに逃げ込むのだった。


「はい、前回のおさらいも終わったので、教科書の53ページから順に読んで行きましょう。今日は14日ですから、14番のかたから列ごとに読んでください」


 そういう決まりなのか、呼ばれた生徒――先ほどタッチペンを回していた少年――は教科書を持って立ち上がると少し目にかかっている黒髪を手で払い、はきはきと朗読を始めた。

 そうして順番は先ほど夢の中に逃避した生徒へとめぐってくる。だが、当然ながら少年は起きない。

 すると、教卓の上にあったノートパソコンがふわりと浮かびあがり寝ている少年まで一直線に飛来するも、あたる直前で何かに弾かれた様に失墜しそのまま床に落ちずに女性教諭の手元に戻った。


「眼は覚めたかしら、派生型超能力持ちだから努力せずとも国家警備員になれる、なんて思ってたら絶対に落ちこぼれになるわよ」


 少年はけだるそうに伸びをしながらおざなりに返事をすると、読む部分を指示されあくび混じりに続きを読みはじめた。




 その日の授業も終わり木々が夕日に染まり行く中、先ほどの少年二人と少女は一緒に帰路を歩んでいた。それぞれが自分の好みのかばんを背負い、小年たちは少女を真ん中にして何かから守るように歩いている。


「にしてもおまえは、ちゃんと授業受ければいいのに」

「受けてるだろ、超能力訓練(ESP)の授業は」

「それと体育もね。でも学科もできないとほんとに困ると思うよ」


 すると金髪の少年はまたかといわんばかりにため息を吐くと飛ぶように二歩ほど前に出て、黒髪の少年少女に向き直ると宣言するように言い放った。


「だから、言ってるだろ。俺は誰にも負けない力を手に入れる。で、おまえらは」


 その言葉と挑むような表情に、黒髪の二人は先に待つ成功を知っているかのような笑顔を浮かべる。


「僕はすべてを見通す」

「私は二人の司令塔」


 それは、出会ったころから変わらず言い続けてきた理想像。それは、生涯を懸けるにたる輝きに満ちた約束。それは、今だに胸の奥でくすぶり続ける情熱のエネルギー。それは、忘れられない永遠の記憶。そして、それは直後に崩れ去るもろくも儚い子供の夢。




 少年たちははしゃぎながらもいつもの簡易短距離転送装置ワープポート)ーー等間隔に設置された転移装置、座標を選択し付近の簡易短距離転送装置(ワープポート)に数秒で飛ぶ事ができるーーに着き、何時ものように乗り込んで座標を入力した。

目的の場所に着くと少年たちはしばし言葉を失う……そこには先ほどまであった少女の姿がなくなっていた。


「なあ、いつもみたいに俺とお前で前後固めて乗ったよな」

「そのはずだよ、確かに跳ぶ前は真ん中にいた」


 金髪の少年はせわしなくあたりを見回し、黒髪の少年は静かに目を瞑って瞑想するかのように浅く呼吸を繰り返す。


「見つけたか?」

「ダメだ」

「お前ならワープポートの範囲内くらい軽く索敵できるだろ、何で見つからないんだよ」

「僕のフィールド外にでたか、対超能力機構(アンチフィールド)付きの建物に跳ばされたか、どのみちワープポートの範囲じゃ無理だ」


 その日、『要求のない誘拐』と呼ばれる事になる災害級事件の最初の一人が帰らぬ人となった。





 『要求のない誘拐』最初の事件から10年がたった。今だに続く誘拐に怯え、簡易短距離転送装置(ワープポート)は事件解決まで使用停止となり、街ではかつて使われていたバスや電車が再び普及し、人々の生活に馴染み始めていた。そんななか、家も、髪の色も、ファッションも、環境も、収入も、住む世界さえ違う二人の青年が同じ朝日を受け、目を覚ます。そして二人とも同じ言葉を口にした。

 一方はくすんだ金髪をかき上げながら、忌々しそうに。もう一方は懐かしむような、物悲しい表情で。

 



――懐かしい夢を見たな――



起き上がった青年達の部屋の端末からは新しい犠牲者の発見を告げる速報が流れていた。



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