Sないとこの屈曲した愛
ライアのいとこだという、長身美女が出現。でも、よくよく言動を観察すると……。とりあえず、馬鹿でした。
4-2
「エミコ、明日、ライブに行かないか?」
そのたった4日後、私はまたライラにライブに誘われた。こんどはエミコの方で。
「ふ、ふふふふふふ……」
二人っきりでかぁあああ? こ、これは。真夜中のライブ帰りに、場末のホテルなんどへ……ぶっこまれーの、つれこまれーの、イケナイところにもぶっこまれーの……、いやんっ、まさかまさかのっ! 超、エロ展開かぁあああっ?
「ふーん、『紫夢』ねえ……面白そうなのだよ」
「おお。ラン子すれいぶくん、君も目覚めつつあるね! 君も来るといい。チケットは4枚あるんだ」
きさまー、こないだ明日は『おのDのイベントがあるから、ごめーんちゃいなのだよー』つって、カラオケ、断っただろー。という怒りの目線をラン子に向けたが、フ……、と涼しい顔でかわされる。
EMILIOとしてではなく、単体のメスとして……、わったくし、またまたぁ、しヴやでしー、し・ヴ・や! うふ、うふふ、うふふのふー。
ああ、なんだか、テンションぶっとびー。ライラと渋谷あるけるなんてー。
って、まあ、こないだも一緒に歩いたけどね。男として……。
「こら、浮かれるな、このクソメスブタ! 醜くはねる貴様の肉塊、ビームサーベルで焼ききって、宇宙にその灰をばらまいてくれるぞ」
ち。邪魔者め。キサマさえいなければふたりきりだったというのに……。ミノ◯スキー粒子そのものか、貴様は。
ぷるるるっ。その時、ライラの携帯電話が露骨に震える。
「おお。着いたかい? 坂を登ったあたりのね、……、エーピーのあたりにいるからおいでよ」
「ああ。もう一人の友達?」
「うん、まあ、正確に言うと、オレらの先輩だね。ジャパニーズは目上や年上の人を大切に敬うんだろ? ケイゴってやつ、教えてよ」
ぬぁああぬううう。年上? うわあ。私、死にたがってるくらいだから、けっこー人見知りなのよねー。
初めてあう人って、ガサツに人の心蹂躙してくるんじゃないかとか、チョー心無いウザ発言するんじゃねーかとか、もしくは全然しゃべらなくて、こっちが気ぃつかいまくるんじゃないかとか、そういうのが真っ先に気になってしまう。ルックスも気になって、強烈だと怖い、ヒク。
『お』といって、ライラが見つけたその人は割に遠くからでもすぐに分かった。
うーん、私たちと一緒で、どこかで制服を着替えてきたのだろう、ぱんぱんに膨れた補助バッグだけがうちの学校のモノだ。
「おう、ライラ、相変わらず可愛いショタ野郎だな。うーん? どうだ、今晩、わしが抱いてやろうか? あのあたりにラブホはごまんとあるらしいぞ」
うわー、いきなし、お下劣―。
「薫子姉さん、やめてよ。紳士はね、そうやたらと性交渉は持たないものなのさ。オレは軽薄なおフランス人じゃないんでね。ところで、ショタって何?」
「ははっ、可愛いヤツめ。それはだなぁ……」
かろやかに笑いながら、ライラの頭を撫でる。うわ、この人、女の人なのに、ライラより背が高いんだ。しっかも、肌白くて、キレー。スレンダー。しかも、なんだかライラとは打ち解けてるみたい。襟付きのボーイッシュな上着と、黒い細身のジーパンがものすごく似合っている。
ずいっ、ラン子が一歩前に、出る!
以下のセリフは超速でお読みください。
「西暦1981年、アニメ雑誌『ふぁんろーど』(現『ファンロード』)の編集長イニシャルビスケットのKが読者からの質問に答えるコーナーで、「少女を好きな男性はロリコンと呼ばれるが、では少年を好きな女性は何と呼ぶべきか?」という内容の問いに対し、半ズボンの似合う少年の代表として『鉄人28号』の主人公・金田正太郎の名を挙げ、そこから名を取って「ショウタロー・コンプレックス」と回答したのが始まりであるっ!」
きょとんとするライラと薫子さん。
あら、ラン子、どうしちゃったの? オートウィキペ◯ィア?
「へっ、親友の恋路……、小生がっっっ、護るからっ!」
バフッ。涙がとまらんぞえ……。
ラン子、あんたってやつは……、いっつもどうしようもないほどクソでメスブタで、アニオタで、リアルなんてクソゲーだとのたまい、何ひとついいところがないけど……。
今だけは、らあぁああぶっ!
「やあだなぁ、薫子姉さんはオレのイトコだよ。母方のね、おじのサン(息子)ってヤツ?」
おじのサン? なあんだ。イトコかぁ……、って、そんな安心できるポジションじゃねえっっ! イトコってのは、結婚できんだよぅっ!
「まあ。そういう事だ。わかったか、地味メスブタ共」
ぬぅう。悪い人じゃなさそうだけど、えらい口悪いなぁ。
「薫子姉さんはうちの学校のバレー部のエースアタッカーなんだ。こないだは、県体でベスト8だってサ。すごいだろう? 相手のレシーバー一人を遊び半分に狙い撃ち、叩き潰すことを無上の快感とする」
「うむ、一試合で何回相手の顔面に当てられるか、それに命をかけている。こないだの試合はざっと、32回だったな。そのうち、ダメージが残り、わしに対するトラウマ形成に成功したのが12回。まあまあの率だった……」
それ、ただの鬼だ。
「いわゆる、エスだね。だから、怒らせると怖いゼ?」
しょえー、進学校のうちの学校で、県体出場者とゎ……、性格に難あるけど、汗水系リア充~。
「はれ? じゃあ、今日、部活は? 今日は普通に平日なのだよ?」
おお。ラン子ったらスルドイツッコミ。
「あ、いや……」
むむむっ。恥じらっとる。薫子さんの顔が一瞬、乙女になった気がした。
「きょ、今日は体調がわ、悪いから、や、休んたんだよっ!」
じゃー、ライブにもこれねーだろー、というツッコミはできる雰囲気ではなかった。……はっ!
こ、この人、ライラのことが好きだ。絶対。
確信できた。なぜか、はっきりと。理由なんて無い。感じられてしまったのだから仕方がない。女の勘? だとすれば、初めて働きなさったな。このニートオブ女の勘め。
この人もライラが好き……。そう思うと、なんだか胸のあたりがもやもやとして……、キュンとなる。
「ギューンっ!」
気づけば、お笑い芸人なみに、恥じらいの裏返しで、叫んでおりました。
と、ライラはその私の痴態はみていなくて、いつものように十字架のチョーカーをみつめていた。
「あ、わりぃ。オレ、ちょっとトイレいってくらぁ。さっきから我慢しててさ。女子どもは、先入ってなよ。今日は席ありだから、ゆっくりしてるといい」
そういって、ライラはトイレに消えていった。くそー、連れションしてー。となりの便器でアレして、横をチラリと盗み見て、アレを拝みてー。
はっ、私ってば、なんたる破廉恥なことをおおっ。神様、ごめんちゃい。でも、仕方ないんです。ワタクシってば、えろえろのメスブタだからっっ。
今日のライブもあっという間だった。またしても私は、心奪われてしまった。
「今日は俺達のライブに来てくれてありがとな!」
そういって、『紫夢』のメンバーは、ライブの最後に余ったピックを客席にピュッピュッして、客席に投げ込んでくる。
「あっ!」
ぺち。
私のおでこにあたったのは、ベースのHitokiさんモデルのセルロイド製でできた、おにぎり型ピックだった。
「ああっ! 残念。メスブタEにいっちまったか」
どうやら、ひときわ背の高い薫子さんがロックオンしたピックをエラーし、隣でぼけーっと放心していた私のおでこにあたったらしい。意外に動作が雑いんだよなぁ。エラー回避がEくらいだな。この人。
そのピックはさっきまで鋼鉄の弦をはげしくぶっていたその残香がはっきりと残っていて、Hitokiさんの汗もまだべったりと付いていた。
「あ、薫子さん、いいですよ。これ、あげます。好きなんですよね、Hitokiさん……」
開演前、薫子さんから、イカにここのバンドのベースHitokiさんがすごいか、ということを嫌というほど聞かされたので、私のいやに親切なセリフも自然と出てしまった。
「えっ、ままままま、マジ? え、え、え、えっ!」
『こっ、ここここれ、ひ、非売品なんだぞっ?』とかつぶやきながら、すげー、うろたえてる。私は、さっと薫子さんの手のナカにそのピックを握りこませるように渡した。
ピックを受け取ると、大事そうにそれを撫でる薫子さん。『えへー』とにやけている。
ちょ、ちょっと、えんらい嬉しそうだなぁ。なんだか、宝物を手に入れた子供(少年)のようだ。
「あ、ああ、ああ、あ、あ、あ……ありがと……、お前、いいメスブタEなんだな。この恩は死んで来世で転生しても忘れないからっ!」
だ、だぁれがメスブタEじゃ。わしゃ、5匹目にでてきたスライムか。それに、転生したら前の人生のことはいいんでない?
ま、まあなんか、図らずもえらい喜んでもらえたから、ヨシとしますか。
次の日、我ら『V部(仮)』の部室にて。
「聞いてくれたまへ同志よ! ついにオレはオリジナルの創世に成功したゼ」
うーん、だんだん日本語がおかしくなってきてるなぁ、この西洋人ハーフ。
「さっそく、みんなでアレンジしていこう!」
そういって、ライラのデジタルオーディオ機器から、スピーカーを通して流れてきたのは、ライラが家でパソコンで作ったとかいう、オリジナル曲だった。
か、かっけえ……。
今って、こんな音源、パソコンで作れたりするんだ? ってか、ドラムアレンジとか完璧じゃね? しかも、ライラの仮歌、超上手いし。私の声にする必要、ある?
……ほぅ。曲が流れ終わった後、少しの沈黙があった。
「……っげぇ。すっげえのだゼ」
RANZO(ラン子)が最初に口を開いた。KAORUさんもこくりとはっきり、頷いた。やはり、みな、そのあまりの完璧な出来栄えに絶句していたのだ。
「ど、どうだいEMILIO?」
少し不安そうなライラ。それも可愛い。
「へ? あ、ああ……、凄すぎて……お、オレに歌えるかな?」
「何をいっているんだ。これは君の声をイメージしながら作ったんだ。オレなんかのたーへーヴォーカルより、絶対イかすバンド天国になるって!」
おお。私の声を想像しながら、しこしこと……? よ、よいなぁ……。
一部歌詞がないので、そこは私のいや、EMILIOの担当となり、さっそく曲合わせが行われた。
テーマはズバリ、『向こうの世界へ行ってしまったアノ人への想いと禁断の幻想』
む、むずいなぁ。国破れて山河あり、とかじゃだめかなぁ……。
……にしても、早すぎる! みんな、曲覚えんの、はえーはえー。私もおいてかれないように、必死でメロディラインを覚え、なんとかハミングくらいはできるようになる。
「ライラ、今のサビのシンコペの位置、どうなのだゼ?」
「ああ! サイコーだったゼ。ハマり過ぎててビビった。ギターのバッキングも次から、絡ませるヨ」
RANZOめ、もはや専門用語を自在に使いこなせるようになりおってー。うらやますぃい……。
私だって私だってなぁっ! 楽器さえ弾けりゃっっ。
どん。ぷにゅん。やわこい感覚。
夢中で歌いすぎて、誰かにぶつかってしまった。
「………………………悪い」
あ、ああ、KAORUさんか……。
ぶつかった拍子に滑り落ちたピックを拾う。
あれ? あのピック、ちょー見覚えあんすけど……。
「あ、あれ? それって、『紫夢』のHitokiモデル?」
「……………………おお。よく………………しってるな」
いや、ってかそれ、非売品らしいぞ…………。
ここで、私は、ハッとしてしまったのです。
ボソッと。
「…………、薫子…………」
ビクっと目が合う、私とKAORUさん。その目はこの世で最も罪なものをみるかのように、恐れ、畏怖し、怯えている。そして、視線のコミュニケーションから、お互い、何かを悟る。
はぁ……。じーまー(マジ)ですか。
…………はぁ。賢明なる読者諸君。私はこの事実をどうにか目をそむけ、否定して参りたい。できることなら、今から数分前まで、ライトな逆行性の健忘症、および記憶喪失になってもいい。何も、真実を知ることだけが正しい人生とは限らない。墓場まで持っていくべき秘密もあるのではなかろうか?
それをわざわざ、私がなーぜー、御勧請にあずかるので?
「ああっとーっ!」
わざとらしくつまずいてみる私。KAORUさんの胸をまさぐりまさぐり…………。
温かい……。じゃなくて、やべえ、確信しちまた。やっちまた。しっちまた。
たくましいはずの胸に、柔らかい。ほんの小さな出来事に……。
愛は傷ついてぇええ、シャボンのたまが、ゆれていた……君の香りが……、ゆれてぇえたあああああ(泣)
ぱいおつ。
こうして、私は、なぜかどうでもいい、ベースの上級生の屈折した愛を知ってしまったのでございます。
ラン子には絶対言えねー。




