表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

もうこの際男装することにした

もうこの愛はおさえられないっ! エミコはライラのバンドに入るため、親友のラン子とともに綿密?な計画をたてるのだった。

3,もうこの際男装することにした



「おお! なんと見目麗しいボーイズ! ああ。楽器経験なんてなくたって、君たちなら即OKさ。ようこそ『DEAD SEEKER(バンド名)』へ! おっと、自己紹介がまだだったね。オレは河村ライラ。そして、こっちの無口でクールなベーシストが、……KA―……、」

「KAORUだ。…………よろしく」おお、ライラを遮った。

「…………お、オラは『EMILIOエミリオ』だ」

「『RANZOらんぞう』ドラム希望だ。よろしく。ドラムマニア歴4年だから、少尉くらいの腕前はあるつもりなのだゼ」


 のわーーーーーーーーっ。しょっぱなから、一人称しけてもーたぁああ。サ◯ヤ人主人公かっつの。

「うーん、いいねいいね。端正な顔立ち、中性的なたたずまい。しかも、ここに来るにあたって、メイクまでチリバツでくるなんて、素質しか感じ無いゼっ!」

 ああ、はしゃぎ笑顔のライラ。かわいいわぁ……。鼻血をださんように気をつけねば。

「ねえ、EMILIO、君、好きな曲とかあるのかい?」

 きたーー。まってましたよ、その質問。この日のために、借りたCDききまくったし、ユーチューブで動画見まくったりもしたのよ。

「ああ……、ラナシーの『BLUE Precious』かな……」

 しゃべるときは、クールに、くーるにね。声のポイントを胸の下あたりにもっていき、みぞおちから身体全体を震わせるつもりで……。

 『同じく』とRANZOも小さく答える。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ! わかるかい、君にあの曲のよさがぁあああっ! ちょうど、その曲を題材にしてKA―RUにベースのレクチャーをしていたところさぁっ!」

 テンション、ガチ上がりのライラ。こころなしか、KAORUさんもちょっとこっちに興味をいだいている気がする。ちょっと首が動いたし。

「ふっ、おまかせを!」

 そういって、RANZOは、ブラスバンド部から古いのを拝借してきたという、ドラムセットにやおら座り、えらいボロボロの、真っ黒マイスティック(ゲーセン用)を取り出した。

 ドコト、タン!

 うお。なんだ、こいつ。なんかこなれてやがる。恐るべし、ドラムマニア……。

 ドタドタドタドタ、ドドドパン!

 おい。嘘だろ。結構サマんなってんじゃねえか。このやろー、必死で練習しやがったな。そういや、昨日も夕方からずっとゲーセンで、3時間ほどドラムマニアばっかやってたし。

 うわー、私をおいてかないでくれー。わたしゃ、まだギターすら持っとらんのにー。ギターフリークスだって、まだノーマルもロクにクリアできないんだぁああっ……。

 

 ガガーっ!

 ライラが、小さなギターアンプに電源を灯し、自分のギターをさっと用意しはじめる。それに合わせ、いつの間にか、KAORUさんもベースをセッティングし終わっていた。

「よし、EMILIO! 曲のコールだ! 92年の『バンドサミット』みたいな感じで頼む!」

 あれ? なんだ、私が曲のコールか。

 気づけば、私の前には、マイクスタンドに備え付けれたシュア製のマイク……。『SM58』とかかれている。ああん。そんな、私、ノーマルよ。そんなにSM指数は高くないはずだが……。

 まあ、いいだろう。この日のためにもちろん、ラナシー伝説の92年武道館ライブ『バンドサミット』の動画くらいチェックしたさ……。ユーチューブでお気に入りにもいれたし、一応、ニコ動でも視聴者の赤裸々なコメントたちをみながら予習したさ。

 確か、ボーカルはRYUって人だったな……。繊細で、激しくて、非日常そのもので、カッコ良すぎる人だった。私ごときがあんな風になれるか……、なんて考えてる場合じゃないか。

 なりきってやる。これもライラとの物理的接触時間を増やすためだ!


 EMILIO。イっきまーす。

 

 そうだ、何者にも屈しない、自分たちの音楽を心底信じ切った、あの愚直なエネルギー。それをこめにこめにこめて……、

「ブるぅううーーーーーっ! ぷれっっっしゃあぁあああすっ!」

 シャンシャンシャン……、うお、ラン子……、じゃない、RANZOったら、すげー。ロックドラマーそのものの、イかすハイハットカウントじゃん。

 

 その次の瞬間だ。ライラがその激しくも妖艶なクリーントーンから、心地良く歪ませたギターのリフを弾き始めた、その瞬間から、私の頭は空っぽになった。

 爆音の洪水。微塵も萎縮する事無き、若く純粋なエネルギー.。

 気づけば、全力で『BLUE Precious』を歌いきっていた。4分弱の曲が、コンマ2秒ほどにしか感じ無かった。


「やべえ……」

 ライラは曲が終わった後、ブルブルと小刻みに震えていた。

「中性的で繊細な声、それでいて激しさを伴った感情表現……。EMILIO、君は完璧なボーカルだよっ! ああ。そりゃすこしは音程を外したところもあったかもしれない。リズムだってアウトした。でも、そんなものはどうだっていいっ! 君にはヴォーカリストとして、もっとも大事なモノがある! 君はヴォーカルだっ!」

 どぎゃああああんんっ。

 今まで、クラスの中ででもロクに目立たないこのわたくしめが? 小学校のときなんて、発表したら『ひさしぶりにお前の声きいたなぁ』と担任の先生にすら言われてきた、この私が? ヴぉ、ヴぉ、ヴォーカルぅぅうう?

「えっ、ま、マジ? いや、ギター買おうと思ってたんだけど……。ライラがヴォーカルやったほうが……」

「なあに、ギターはオレが弾ける。結構、うまかったろ? 必死で練習してるからね。それに、オレは歌、うまくないんだ。日本語もまだまだターへ~(下手)だしね」

 いや、あんた、結構日本語、こなれまくってますけど……。

「音楽性が広がって、ツインギターが必要になったら、その時、頼むゼ。いや、それにしてもRANZOのビートも超ヘヴィで、グッドだね。イッヒ、リーベ、バームクーヘン……」

 おっと、ライラがコウフンしすぎて、ドイツ語を乱発するようになっている。

 私も、ちょっとくらいドイツ語勉強しよーかなー、なんて、その時一瞬、少し思いましたわ。すぐに、めんどくせって思ったけど。

 KAORUさんも終始、ご機嫌だった……、かどうかはわからないが、首がこっちを向いていたので、悪い感触じゃないはずだ。


 そ、それにしても、私がヴォーカルとは……。やべえ、出来るだろうかということより、ライラに源氏名バンドネームで指名してもらったことが死ぬほど嬉しいいぃいいいっっ! 

 ああ、いっそこのまま殺してくれェえええっ! 棺桶には、ライラの今日着てた、牛丼のたれのように汗だくの肌着をいれてくれぇええっ!

 ……とはいっても、歌なんて、音楽の時間以外で初めて歌ったし、不安もある。はっきり言って、ただのユーチューブ動画のモノマネだったし、心の底から『勢い』だけだ。

 もっとカラオケとかいって練習してみよー。ひ、ひとり? お、おなごがひとりでカラオケというのも気は引けるが……、い、いや、だめだ。なにいってんの、私!

 そうよ。愛があれば、なんでもできる。元気ですかー。3・2・1……。

 なんて、猪木的前向き発言をしてみたり。

 そうよ。心のナカで、しゃくれていよう……。なんでもできるさ。

 


「きいてくれよ、エミコ! オレたち、すげえバンドが組めそうなんダ!」

 翌日の朝、なんと、あろうことか、ライラの方から私の席に出向き、話しかけてくれるという光栄に浴した。

「あ、ああああっ、あら、ほんとにっ! よ、よかったねっ!」

 全力で受け答える私。さすがに、昨日の今日で、ちょっとキョドったわー。

「EMILIOとRANZOって言ってね、高等部1年の先輩らしいんだ。ものすげーイかす奴らなんだ! ラナシーとか超詳しいんだゼ! オレ達の年代じゃ、ありえないことさ。それでね、それでね……」

 ああ……、笑顔がまぶしかー。その光で光合成したら、地球環境も改善するわー。

「あ、どどどど……」

「どんな人達なの?」ラン子カムズ。

 おお。ラン子、ナイスフォロー。今の私じゃ、言っちゃいけないことでも平気でいってしまいそうだったから、助かるわぁ。

「うーん、まあ、ふたりとも背は男にしちゃやや低め。そうだなぁ、ちょうど君たちくらいかなぁ。ジャパニーズは小さな人が多いからそういうものなのかもね。でも間違いなく、純粋なる『ますらおでぇええやますぃいいい』の持ち主たちさ」

 ぎく。あぶねえあぶねえ。今度から、厚底の上履きでも作って持って行こう。ちらりとラン子をみると、うんうんとうなずいている。

「とにかく、二人のだす音がガツンと、しびれるんだ。特にヴォーカルのEMILIOの透き通るような中性ボイスは、情熱的で繊細。伝説のバンド、ラナシーのRYUに匹敵する才能だね」

 まじですかーーっ! バフッ。身体の奥底から、ムズムズの虫が湧き上がって、口からドラゴンの炎のように吐いてしまいそうだァああっ。

 おう、まずい。鼻血が出そうだ。

「ドラムのRANZOさんは?」

 ラン子がわざーとらしく聞く。

「うん、彼も、なかなかのものだよ。昨日、生のドラムを初めて叩いたらしいんだけど、ありえないくらい基本が出来てるんだ。さすがに、フリは小さいし、ビートがジャストすぎて、ワイルドさはまだ足りなかったけどね……。日本には『ゲーすぇン』ってとこがあって、そこでドラムのシミュレーションができるのかい? そこでかなり鍛えていたらしいんだよ。いやあ、日本ってのは、噂に違わぬサイバーアンドテクノロジーの国家なんだねぇ」

 うーん、多少の勘違いはあるものの、ガイジンさんに日本のいいところのひとつとして、ゲーセンがあがるのは良いことだろう。ということで、この辺はスルーにしまあっす。

「ワイルドさか……ふむふむ」

 おーい、こら、ラン子のヤロウ、勝手にアドバイス吸収しやがってぇ。こっそり改善して、自分のポイントにするつもりだなー。まけるかー、くそー。

「ね、ねえライラくん。ぼ、ボーカルのEMILIOさんは、足りないところないの?」

「へ? ああ、そうだなぁ。ピッチは取れてないし(音痴)、リズムもめちゃくちゃ(なんでそんなんで平気で歌えるのか疑問だね)、それに、歌詞もあやふやなまま平気で歌ってたなぁ(ヴィジュアルロックをなめとるね)……。しぐさもまだまだ、エレガントさがないしねぇ(芋っぽいんだよあのタコ野郎)。髪型ルックスも考えないとなぁ(ファッションセンスに難有りかな)」

 がくーーん。( )内のモノローグは私が勝手に想像で入れております。

 って、あんた、それってヴォーカリストとしては『何も無い』に等しいじゃないか。も、もっと練習しないとなぁ。誰か、歌教えてくれる人、いるかなぁ。

「でもね、彼には『ますらおでぇええやますぃいいい』がある。だから、ステージにでれば、きっとオーディエンスをスレイブたちに変えるはずさ。ライブのときは、絶対に来てくれよな。絶対にカッコいいライブ、見せられるはずさ」

 にこりとするライラ。微塵の不安も疑いもいだいていない、澄み切った真っ直ぐすぎる目。

「いやー、これで、浄化力の半端ないバンドがクメソダヨー」


 私はこれに答えないといけない。もう、後戻りはできない。

 ラン子の作戦は見事にハマってしまったのだから。

 

 ーー3日前。

「さ、はい、これ」

 日曜、原宿をさんざん歩きまわったあげく、ラン子が私に差し出したのは、メイク道具と衣装だった。

「大丈夫なのだよ、エミコ嬢、つるぺったんだし」

 だぁああれが、つるぺったんじゃこらー。まだ、発達の余地および、のびしろはあるわいっっ。

「いいじゃないか。小生なんて、この豊満な胸をなんとか誤魔化していかないといけないのだよ……」

「……? 話が見えないんだケド……。私、お化粧なんてしたことないよ?」

「今から教えるのだよ。小生もヴィジュアルメイク、かなりググって調べまくったんだから。感謝してほしいものだよ」

「は? ヴィジュアルメイク?」

 やっぱ、コピーバンドでもするつもりなのか?

「なにいってんの、二等兵ですかチミは? これで、完璧に化けて、ライラ君のバンドに参加するのだよ。メイクをし、正体を隠し、男装してね。これを小生は、『ヴィジュアル男装』と名付けようと思うのだよ。あとコレ」

 そういって渡された本は『これで君も男子の声がだせる。宝塚入門!』とかかれた、えらい分厚い本だった。

「これで、声も研究するのだよ。これ、アマゾンでラスト一冊、今や絶版の名著なのだよ。小生はもう読み終えた。エミコ嬢も至急、いや今日中に読まれたし」

 はああーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ! そう来ますか?

 そのノリはすでに、正体がバレちゃいけない魔法少女の域をリアルに超えとるがな。

「で、でも、学校ではどうすんだよ。制服とか……」

「それは小生の兄貴のを借りるから大丈夫。うちの兄貴、柏蔭のOBだし。スペアで2着あったから大丈夫」

 おおっと。都合のいい設定だな。そういえば、ラン子の兄貴は、ヒッキー浪人生だったな。

 ちなみに柏蔭というのは、私らの通う、『私立柏蔭学園』のことだ。こう見えても、年間に東大合格者を数名だす、名門校だ。昔は超厳しいことで有名だったらしいけど、今ではそこまで、厳格というほどではない。まあまあ厳しいって感じの校風となっている。まあ、補習の類は容赦なくあるけどね。

「な、なるほど……。変装か……」

「まあ、ただ、兄貴、高等部のヤツしか制服残ってなくてさ。高等部のフリせんといかんが……、これも、高等部1年って言っときゃなんとかなるって。きっと大丈夫なのだよ~」

 いや、私はともかく、お前は高校男子にしちゃ背、低すぎだろ。しかも、出るトコ出ちまってるしよ。

「まあ。筋肉質って設定にして、なんとかごまかすのだよ。小生、ドラムだし」

「こら。前から言おうと思ってたけど、勝手にドラムとるな。私も、顔あんまでないし、後ろのほうにいていいから、ドラムはねらってたんだ。わりになんか、激しくてカッコイイし」

「ばかやろー。KAORU長官はベース。リズム隊ってのはな、くんずほぐれず、絡み合わなくてはいけない、濃厚なるコミュニケーションが必要とされる、おいしい、もとい大事なポジションなのだよっっ。その役を貴様などに渡せるかっ! よし、ここは男らしく、正々堂々勝負なのだよっっ!」

 男じゃないけどな。

「よし、ウケてたってやろうじゃないの! 何で勝負する? また、大乱闘ス◯ッシュブラザーズ? わたしのリ◯クには勝てないよ!」

 遠くからピュンピュン矢を撃って、近づいてきたら、剣で強斬りして迎撃という私のハメパターンにもっていってやるわ。

「ふっ、馬鹿な。いつまでそんなガキ臭いこといってるのだね? ついてきたまへ。今の小生たちにぴったりのものがあるっ!」


「ばかやろ、勝てるわけねえべ?」

 といって、連れてこられたのがゲーセンのドラムマニアで、まさかドラムマニア歴4年のラン子に勝てるはずもなく。ラン子なんて、一番難しいモードをらくらくとクリアしている。おまけにマイスティックまで持って……。

 こうして、あえなくドラムはラン子にゆずり、私はギターかなと思って、ギターフリークスをちょっと、なけなしのお小遣いで練習して、あとは、ゲーセンで絶頂を迎えるメスブタラン子の姿を眺めて。

 あとは、メイクの仕方と、今の私でできる、男の子っぽい髪型を教えてもらって、帰ったんだな。

 ちなみにEMILIOってのは、私が考えましたー。かっこよくね? いやん、恥ずかしい。


 ってことで、私たちは、それぞれEMILIO、RANZOとして、裏設定を実は詳細にねって、次の日の月曜、あの、音楽準備室に特攻したわけでさぁ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ