もうこの際男装することにした
もうこの愛はおさえられないっ! エミコはライラのバンドに入るため、親友のラン子とともに綿密?な計画をたてるのだった。
3,もうこの際男装することにした
「おお! なんと見目麗しいボーイズ! ああ。楽器経験なんてなくたって、君たちなら即OKさ。ようこそ『DEAD SEEKER(バンド名)』へ! おっと、自己紹介がまだだったね。オレは河村ライラ。そして、こっちの無口でクールなベーシストが、……KA―……、」
「KAORUだ。…………よろしく」おお、ライラを遮った。
「…………お、オラは『EMILIO』だ」
「『RANZO』ドラム希望だ。よろしく。ドラムマニア歴4年だから、少尉くらいの腕前はあるつもりなのだゼ」
のわーーーーーーーーっ。しょっぱなから、一人称しけてもーたぁああ。サ◯ヤ人主人公かっつの。
「うーん、いいねいいね。端正な顔立ち、中性的なたたずまい。しかも、ここに来るにあたって、メイクまでチリバツでくるなんて、素質しか感じ無いゼっ!」
ああ、はしゃぎ笑顔のライラ。かわいいわぁ……。鼻血をださんように気をつけねば。
「ねえ、EMILIO、君、好きな曲とかあるのかい?」
きたーー。まってましたよ、その質問。この日のために、借りたCDききまくったし、ユーチューブで動画見まくったりもしたのよ。
「ああ……、ラナシーの『BLUE Precious』かな……」
しゃべるときは、クールに、くーるにね。声のポイントを胸の下あたりにもっていき、みぞおちから身体全体を震わせるつもりで……。
『同じく』とRANZOも小さく答える。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ! わかるかい、君にあの曲のよさがぁあああっ! ちょうど、その曲を題材にしてKA―RUにベースのレクチャーをしていたところさぁっ!」
テンション、ガチ上がりのライラ。こころなしか、KAORUさんもちょっとこっちに興味をいだいている気がする。ちょっと首が動いたし。
「ふっ、おまかせを!」
そういって、RANZOは、ブラスバンド部から古いのを拝借してきたという、ドラムセットにやおら座り、えらいボロボロの、真っ黒マイスティック(ゲーセン用)を取り出した。
ドコト、タン!
うお。なんだ、こいつ。なんかこなれてやがる。恐るべし、ドラムマニア……。
ドタドタドタドタ、ドドドパン!
おい。嘘だろ。結構サマんなってんじゃねえか。このやろー、必死で練習しやがったな。そういや、昨日も夕方からずっとゲーセンで、3時間ほどドラムマニアばっかやってたし。
うわー、私をおいてかないでくれー。わたしゃ、まだギターすら持っとらんのにー。ギターフリークスだって、まだノーマルもロクにクリアできないんだぁああっ……。
ガガーっ!
ライラが、小さなギターアンプに電源を灯し、自分のギターをさっと用意しはじめる。それに合わせ、いつの間にか、KAORUさんもベースをセッティングし終わっていた。
「よし、EMILIO! 曲のコールだ! 92年の『バンドサミット』みたいな感じで頼む!」
あれ? なんだ、私が曲のコールか。
気づけば、私の前には、マイクスタンドに備え付けれたシュア製のマイク……。『SM58』とかかれている。ああん。そんな、私、ノーマルよ。そんなにSM指数は高くないはずだが……。
まあ、いいだろう。この日のためにもちろん、ラナシー伝説の92年武道館ライブ『バンドサミット』の動画くらいチェックしたさ……。ユーチューブでお気に入りにもいれたし、一応、ニコ動でも視聴者の赤裸々なコメントたちをみながら予習したさ。
確か、ボーカルはRYUって人だったな……。繊細で、激しくて、非日常そのもので、カッコ良すぎる人だった。私ごときがあんな風になれるか……、なんて考えてる場合じゃないか。
なりきってやる。これもライラとの物理的接触時間を増やすためだ!
EMILIO。イっきまーす。
そうだ、何者にも屈しない、自分たちの音楽を心底信じ切った、あの愚直なエネルギー。それをこめにこめにこめて……、
「ブるぅううーーーーーっ! ぷれっっっしゃあぁあああすっ!」
シャンシャンシャン……、うお、ラン子……、じゃない、RANZOったら、すげー。ロックドラマーそのものの、イかすハイハットカウントじゃん。
その次の瞬間だ。ライラがその激しくも妖艶なクリーントーンから、心地良く歪ませたギターのリフを弾き始めた、その瞬間から、私の頭は空っぽになった。
爆音の洪水。微塵も萎縮する事無き、若く純粋なエネルギー.。
気づけば、全力で『BLUE Precious』を歌いきっていた。4分弱の曲が、コンマ2秒ほどにしか感じ無かった。
「やべえ……」
ライラは曲が終わった後、ブルブルと小刻みに震えていた。
「中性的で繊細な声、それでいて激しさを伴った感情表現……。EMILIO、君は完璧なボーカルだよっ! ああ。そりゃすこしは音程を外したところもあったかもしれない。リズムだってアウトした。でも、そんなものはどうだっていいっ! 君にはヴォーカリストとして、もっとも大事なモノがある! 君はヴォーカルだっ!」
どぎゃああああんんっ。
今まで、クラスの中ででもロクに目立たないこのわたくしめが? 小学校のときなんて、発表したら『ひさしぶりにお前の声きいたなぁ』と担任の先生にすら言われてきた、この私が? ヴぉ、ヴぉ、ヴォーカルぅぅうう?
「えっ、ま、マジ? いや、ギター買おうと思ってたんだけど……。ライラがヴォーカルやったほうが……」
「なあに、ギターはオレが弾ける。結構、うまかったろ? 必死で練習してるからね。それに、オレは歌、うまくないんだ。日本語もまだまだターへ~(下手)だしね」
いや、あんた、結構日本語、こなれまくってますけど……。
「音楽性が広がって、ツインギターが必要になったら、その時、頼むゼ。いや、それにしてもRANZOのビートも超ヘヴィで、グッドだね。イッヒ、リーベ、バームクーヘン……」
おっと、ライラがコウフンしすぎて、ドイツ語を乱発するようになっている。
私も、ちょっとくらいドイツ語勉強しよーかなー、なんて、その時一瞬、少し思いましたわ。すぐに、めんどくせって思ったけど。
KAORUさんも終始、ご機嫌だった……、かどうかはわからないが、首がこっちを向いていたので、悪い感触じゃないはずだ。
そ、それにしても、私がヴォーカルとは……。やべえ、出来るだろうかということより、ライラに源氏名で指名してもらったことが死ぬほど嬉しいいぃいいいっっ!
ああ、いっそこのまま殺してくれェえええっ! 棺桶には、ライラの今日着てた、牛丼のたれのように汗だくの肌着をいれてくれぇええっ!
……とはいっても、歌なんて、音楽の時間以外で初めて歌ったし、不安もある。はっきり言って、ただのユーチューブ動画のモノマネだったし、心の底から『勢い』だけだ。
もっとカラオケとかいって練習してみよー。ひ、ひとり? お、おなごがひとりでカラオケというのも気は引けるが……、い、いや、だめだ。なにいってんの、私!
そうよ。愛があれば、なんでもできる。元気ですかー。3・2・1……。
なんて、猪木的前向き発言をしてみたり。
そうよ。心のナカで、しゃくれていよう……。なんでもできるさ。
「きいてくれよ、エミコ! オレたち、すげえバンドが組めそうなんダ!」
翌日の朝、なんと、あろうことか、ライラの方から私の席に出向き、話しかけてくれるという光栄に浴した。
「あ、ああああっ、あら、ほんとにっ! よ、よかったねっ!」
全力で受け答える私。さすがに、昨日の今日で、ちょっとキョドったわー。
「EMILIOとRANZOって言ってね、高等部1年の先輩らしいんだ。ものすげーイかす奴らなんだ! ラナシーとか超詳しいんだゼ! オレ達の年代じゃ、ありえないことさ。それでね、それでね……」
ああ……、笑顔がまぶしかー。その光で光合成したら、地球環境も改善するわー。
「あ、どどどど……」
「どんな人達なの?」ラン子カムズ。
おお。ラン子、ナイスフォロー。今の私じゃ、言っちゃいけないことでも平気でいってしまいそうだったから、助かるわぁ。
「うーん、まあ、ふたりとも背は男にしちゃやや低め。そうだなぁ、ちょうど君たちくらいかなぁ。ジャパニーズは小さな人が多いからそういうものなのかもね。でも間違いなく、純粋なる『ますらおでぇええやますぃいいい』の持ち主たちさ」
ぎく。あぶねえあぶねえ。今度から、厚底の上履きでも作って持って行こう。ちらりとラン子をみると、うんうんとうなずいている。
「とにかく、二人のだす音がガツンと、しびれるんだ。特にヴォーカルのEMILIOの透き通るような中性ボイスは、情熱的で繊細。伝説のバンド、ラナシーのRYUに匹敵する才能だね」
まじですかーーっ! バフッ。身体の奥底から、ムズムズの虫が湧き上がって、口からドラゴンの炎のように吐いてしまいそうだァああっ。
おう、まずい。鼻血が出そうだ。
「ドラムのRANZOさんは?」
ラン子がわざーとらしく聞く。
「うん、彼も、なかなかのものだよ。昨日、生のドラムを初めて叩いたらしいんだけど、ありえないくらい基本が出来てるんだ。さすがに、フリは小さいし、ビートがジャストすぎて、ワイルドさはまだ足りなかったけどね……。日本には『ゲーすぇン』ってとこがあって、そこでドラムのシミュレーションができるのかい? そこでかなり鍛えていたらしいんだよ。いやあ、日本ってのは、噂に違わぬサイバーアンドテクノロジーの国家なんだねぇ」
うーん、多少の勘違いはあるものの、ガイジンさんに日本のいいところのひとつとして、ゲーセンがあがるのは良いことだろう。ということで、この辺はスルーにしまあっす。
「ワイルドさか……ふむふむ」
おーい、こら、ラン子のヤロウ、勝手にアドバイス吸収しやがってぇ。こっそり改善して、自分のポイントにするつもりだなー。まけるかー、くそー。
「ね、ねえライラくん。ぼ、ボーカルのEMILIOさんは、足りないところないの?」
「へ? ああ、そうだなぁ。ピッチは取れてないし(音痴)、リズムもめちゃくちゃ(なんでそんなんで平気で歌えるのか疑問だね)、それに、歌詞もあやふやなまま平気で歌ってたなぁ(ヴィジュアルロックをなめとるね)……。しぐさもまだまだ、エレガントさがないしねぇ(芋っぽいんだよあのタコ野郎)。髪型も考えないとなぁ(ファッションセンスに難有りかな)」
がくーーん。( )内のモノローグは私が勝手に想像で入れております。
って、あんた、それってヴォーカリストとしては『何も無い』に等しいじゃないか。も、もっと練習しないとなぁ。誰か、歌教えてくれる人、いるかなぁ。
「でもね、彼には『ますらおでぇええやますぃいいい』がある。だから、ステージにでれば、きっとオーディエンスをスレイブたちに変えるはずさ。ライブのときは、絶対に来てくれよな。絶対にカッコいいライブ、見せられるはずさ」
にこりとするライラ。微塵の不安も疑いもいだいていない、澄み切った真っ直ぐすぎる目。
「いやー、これで、浄化力の半端ないバンドがクメソダヨー」
私はこれに答えないといけない。もう、後戻りはできない。
ラン子の作戦は見事にハマってしまったのだから。
ーー3日前。
「さ、はい、これ」
日曜、原宿をさんざん歩きまわったあげく、ラン子が私に差し出したのは、メイク道具と衣装だった。
「大丈夫なのだよ、エミコ嬢、つるぺったんだし」
だぁああれが、つるぺったんじゃこらー。まだ、発達の余地および、のびしろはあるわいっっ。
「いいじゃないか。小生なんて、この豊満な胸をなんとか誤魔化していかないといけないのだよ……」
「……? 話が見えないんだケド……。私、お化粧なんてしたことないよ?」
「今から教えるのだよ。小生もヴィジュアルメイク、かなりググって調べまくったんだから。感謝してほしいものだよ」
「は? ヴィジュアルメイク?」
やっぱ、コピーバンドでもするつもりなのか?
「なにいってんの、二等兵ですかチミは? これで、完璧に化けて、ライラ君のバンドに参加するのだよ。メイクをし、正体を隠し、男装してね。これを小生は、『ヴィジュアル男装』と名付けようと思うのだよ。あとコレ」
そういって渡された本は『これで君も男子の声がだせる。宝塚入門!』とかかれた、えらい分厚い本だった。
「これで、声も研究するのだよ。これ、アマゾンでラスト一冊、今や絶版の名著なのだよ。小生はもう読み終えた。エミコ嬢も至急、いや今日中に読まれたし」
はああーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ! そう来ますか?
そのノリはすでに、正体がバレちゃいけない魔法少女の域をリアルに超えとるがな。
「で、でも、学校ではどうすんだよ。制服とか……」
「それは小生の兄貴のを借りるから大丈夫。うちの兄貴、柏蔭のOBだし。スペアで2着あったから大丈夫」
おおっと。都合のいい設定だな。そういえば、ラン子の兄貴は、ヒッキー浪人生だったな。
ちなみに柏蔭というのは、私らの通う、『私立柏蔭学園』のことだ。こう見えても、年間に東大合格者を数名だす、名門校だ。昔は超厳しいことで有名だったらしいけど、今ではそこまで、厳格というほどではない。まあまあ厳しいって感じの校風となっている。まあ、補習の類は容赦なくあるけどね。
「な、なるほど……。変装か……」
「まあ、ただ、兄貴、高等部のヤツしか制服残ってなくてさ。高等部のフリせんといかんが……、これも、高等部1年って言っときゃなんとかなるって。きっと大丈夫なのだよ~」
いや、私はともかく、お前は高校男子にしちゃ背、低すぎだろ。しかも、出るトコ出ちまってるしよ。
「まあ。筋肉質って設定にして、なんとかごまかすのだよ。小生、ドラムだし」
「こら。前から言おうと思ってたけど、勝手にドラムとるな。私も、顔あんまでないし、後ろのほうにいていいから、ドラムはねらってたんだ。わりになんか、激しくてカッコイイし」
「ばかやろー。KAORU長官はベース。リズム隊ってのはな、くんずほぐれず、絡み合わなくてはいけない、濃厚なるコミュニケーションが必要とされる、おいしい、もとい大事なポジションなのだよっっ。その役を貴様などに渡せるかっ! よし、ここは男らしく、正々堂々勝負なのだよっっ!」
男じゃないけどな。
「よし、ウケてたってやろうじゃないの! 何で勝負する? また、大乱闘ス◯ッシュブラザーズ? わたしのリ◯クには勝てないよ!」
遠くからピュンピュン矢を撃って、近づいてきたら、剣で強斬りして迎撃という私のハメパターンにもっていってやるわ。
「ふっ、馬鹿な。いつまでそんなガキ臭いこといってるのだね? ついてきたまへ。今の小生たちにぴったりのものがあるっ!」
「ばかやろ、勝てるわけねえべ?」
といって、連れてこられたのがゲーセンのドラムマニアで、まさかドラムマニア歴4年のラン子に勝てるはずもなく。ラン子なんて、一番難しいモードをらくらくとクリアしている。おまけにマイスティックまで持って……。
こうして、あえなくドラムはラン子にゆずり、私はギターかなと思って、ギターフリークスをちょっと、なけなしのお小遣いで練習して、あとは、ゲーセンで絶頂を迎えるメスブタラン子の姿を眺めて。
あとは、メイクの仕方と、今の私でできる、男の子っぽい髪型を教えてもらって、帰ったんだな。
ちなみにEMILIOってのは、私が考えましたー。かっこよくね? いやん、恥ずかしい。
ってことで、私たちは、それぞれEMILIO、RANZOとして、裏設定を実は詳細にねって、次の日の月曜、あの、音楽準備室に特攻したわけでさぁ。




