そいつは学校にメイクしてきた
ヴィジュアル系の良さを伝えられたらうれしいです。
1,ライラって、それっぽいヤツが来た
死のう。生きている、意味もない。
そう思ったのは、最近のことではない。私は、ごくごく冷静に、まことに僭越至極ではありますが、まともな『神経』をもって世の中を眺めている。
生まれた時からインターネットがあり、自由に電子空間を飛び回ることのできた私たちの世代は、親たちのような世代とは如何ともし難い、空間の断絶とも言える、そんな決定的な違いがある。
例えるなら、徳川家第3代将軍徳川家光が、『われは生まれた時から将軍でござる』と、そんなけったいな語尾でいったのかどうかはともかくとして、まあ、ホトトギスを待ちまくった徳川の家康のおっさんと、生まれつきスーパーおぼっちゃんの家光くらい違う、と、まあそんなところだ。
まあ、そんな私が、なんていうか、この世の中のヒトの人生ってやつが、ほとんどコピペじゃねーか、って気づいたのが小3の時。それから必死にコピペ人生をおくっていない人を探し続けてきたけど、今のところ、無理ね。
私の冷静かつ、まことに僭越至極ながら、ハイグレードな観察力と分析によると、現代人の人生は3パターンしかない。
アっト、ファースト。しこしこ(乙女がいうのもはばかられるが)勉強して、レールのしかれた社会に適合し、最初は反抗心を感じていても、次第に牙が抜かれ、いつの間にか周りとまあまあなあなあ上手くやって、心に不満を抱えながら、ぬるい人生を送るタイプ。勉強によって得た学歴や資格によって順位がつけられ、生活レベルが変わる。江戸時代における士農工商、もしくはインドにおけるカーストが勉強の有無、出来不出来によって変わるわけ。これが約80パーセント。
アっト、セカンド。こんな人生くだらねーって、しかれたレールから外れるのをカッコイイと勘違いし、突き進むもしくはドロップアウトするタイプ。まれに成功することもあるが、たいていは人生の落伍者になるのがオチ。それか、ひきこもり、自殺、犯罪者なんて末路も多い。ただ、リスクを犯しただけエキサイティングな人生といえる。これが残りの約20パーセント。
そして、アット、サード……。のこりのごくごく、れーてん、れーれーれーれーれーれーれー……いちパーセントでも構わない。まったく前例がないような、これらの型にはまんないような、そんな人生だってある、と私は信じている。そんな人生を送っているヤツを見つけたい。
見つけられなければ死ねばいいのよ。もう、転生も拒否して、一生地縛霊にでもなってやろうじゃないの。地獄の門番になったっていいしね。
でも、中3になったあの春、わたしは、ついにみつけたような気がした。
アットサードの人生を。
中3になって、始業式、駅から徒歩20分という理不尽な地形をもはや、慣れた足取りであるいていた。まあまあ緑とかが多かったり、田園風景がひろがっていたりするんだけど、私の目にはすでに景色は灰色で色あせ、とぼとぼと歩くのが精一杯。
わたしの学校は、中高一貫校で、県内でも有数の進学校である。おかげで、朝から晩まで、刑務所にのように勉強のかんづめにされる。いや、他に娯楽がないほど隔離されたこの環境は、すでに勉強牢獄といってもさしつかえなかろう。
必死をこきにこいた中学受験をやっとこさ突破したと思ったら、次は大学受験だと? めざせ東大だと? ふざけんな! ってんで、わたしの勉強に対するモチベーションはこの数年、一向に上がるはずもなく。まー、高校受験もないしね。気合いれろ、ってのが、理不尽きわまりない訴求ですってなもんよ。といって、他の女の子たちみたいに部活やアニメ、ジャニーズにハマることも出来ず。
おまけに。うちの親はただのサラリーマンだから、お小遣いもちょーっぴり。非行に走るだけの金もない。
援交しにいったら、たぶん、片道の交通費で月の財政が圧迫され、そのことが気になって、行為に集中できないかもしれない。それを乗り越え、親父にシケた金を大事なモノと引き換えに奪いとったとしてだ、まあ、使い道もなく、きっと、八王子とか回って、駅弁かって、電車でぐるーっと関東圏を回って帰ってくるくらいで終わってしまうような気がする。
どっちにしろ、わたしには何も無い。ついでにいうと、真面目に勉強したって、この秀才ぞろいの学校のナカでは中の下くらいだし、ルックスにもスタイルにも自信はない。かといって、すごい運動神経とかもないし、人見知りが激しすぎて文化系部活にも入れなかった……、ああ、なあんてこった。こんなこと考えてたら、気が狂ってしまいそうだ。
あー、そうか、そうなんですね。わたしの人生、コピペ人生のなかでも、コピペしそこないの、劣化版人生じゃねえスか。デフラグしたら消えちまいそうだ。
まあ、でも、変化のきっかけってのは、ありきたりに転校生とかから来るものでして。
「なあんだよ? 新学年早々シケた面しちゃってさー」
親友の三ノ宮ラン子だ。
「いやー、だってなんも面白いことないんだもん」
「だぁから、『ヒロC』のイベント、一緒に来ればよかったのだよー。すっごく楽しかったんだのだよー。あーん、つぎ、ヒロCに会えるの、3ヶ月と21日後なのだよー。もう待てなーいのだよー」
「そんな金、あるか!」
女らしいリーシー(尻)がぷりんぷりんとうざったい。ラン子は形式上、よくある『幼なじみ』というヤツだが、今はただの2次元の住人であり、好きな男子声優の追っかけばっかりやってる。きっと、おばさんになったら、韓流スターにハマってしまうパターンの子なのだろう、と解釈している。
いうなれば、よくあるパターン、レールありのアットファーストの人生だ。
「ねーねー、うちのクラスに転入生が来るらしいのだよー。ドイツからの帰国子女なんだってよー。どんな子なんだろーなー?」
「ふーん……」
まー、この学校、帰国子女だけはどんどん転入させるからなー。中学受験でも、帰国枠ってのがあって、帰国枠の子は試験がめちゃめちゃ簡単らしい。帰国子女ってのは、英語がぺらペーらで、この国の大学受験にひじょーに有利だから、まあ、無理もないんだろう。
えー。中3からわが校に転入してきたぁ……、という中年担任教師のお決まりの文句とともに紹介されたのは、髪が栗毛(というよりパツキン?)のありえないほどの美少年ハーフボーイだった。
その少年は、名前をいわんとしていた教師の口をさっと鋭い身振りで制し、
「河村ライラだ。美しい『ますらおでぇええやますぃいいい』を持ったみめかたちうるわしいヤロー共、オレのところにきなさいっ! 以上っ!」
しーん。
最前列の机の上にのせた右脚が物悲しい。
どこかで聞いたことがあるようなセリフを吐き捨て、やおら目を細め、とおーい所をみる、それこそ、東京ドームの3階席あたりでもみるかのような目で言い放っていた。
その仕草たるや、ライブステージ上のロックボーカリストみたいで。
キッと、渋くクラスメイトたちを見据えたその目。教室中を見渡す。
……。あれ? 今、目があった? なんてね。
つーか、私は真っ先にその男の子の目に違和感を覚えた。
こ、こいつ、男のくせにアイシャドウひいてやがる……。メイクばっちじゃねえか。
細くて長い手足。ミステリアスな雰囲気。長身、栗毛のロンゲ、デカイ十字架のチョーカー。こ、こいつはひょっとして……、アニオタ、ジャニオタと並ぶ日本3大オタの、もう一つの……、あれか?
「オレは日本に音楽文化を学びに来た! 『ますらおでぇええやますぃいいい』あふれるイカしたロックバンドを組むつもりだから、一緒にやってくれるヤツはオレのところにきなさいっ。以上っ!」
といって、指定された席に行きかけ……、
「あ、女人はNGだから……ヨロシクっ、以上っ!」
何回、『以上っ!』っていうんだよ!
教室はライラという少年の雰囲気に気圧され、しーんとして、結婚式で新郎がスベったときみたいになっている。一向にお構いなし、ってな感じがなかなかういヤツね。強心臓だ。パ◯プロだったら、逆境◯がついていそうだ。でもきっと連打◯はない。
うーん、ヴィジュオタかぁ。ポイント高い美少年かと思って、けっこう期待したのになぁ。一瞬でそれは原子レベルにまで崩壊し、宇宙のちりの一粒と成り果ててしまった。あー、ニュートリノにゅーとりの(意味不明)。
まー、このテの話に詳しいラン子によると? 転入生と特別仲良くなるには、前もってなんらかの事前的接触……、つまり、始業式前の朝なり、春休み中などに、道端や廊下でなんの前触れも無く『きゃっ、ごめんなさーい』とぶつかったり、『あの、職員室どこかな?』などと道を聞かれたり、昔この街に住んでいて顔見知りとか、実は幼馴染だったとか、そういった事件、設定どもが必須であり、そこでやっとフラグが立つ類のものであるからして、私は『無いな』と当初は思っていたわけだ。
でもね、諸君。フラグってのは、とりあえずこっちから立てちゃえばいいんじゃないかな。
その転校生は私の近くを通りかかるなり、
「おー、君。そこの君」む、私か?
「あの……何か?」ひえー、めっちゃ無愛想になっちゃった。もう、やだ私。
「君、憑きやすそうだから、気をつけてね。何かあったらオレに相談するんだよ。マイスレイブ」
え、え、え、え、え、え? 何がツクって? す、スレイブって何?
心臓が張り裂けそうなくらい、バクバクしちゃってた……。
そりゃぁ、私、軽薄でしたよ。そうデスとも。誰がなんと言おうと、否定はせんがね。