人でなし。人間の屑。
瞳を閉じると思い出すその名前。
神無月優希。
恋人ではない。友人でもない。知り合いですらなかった。
俺が轢き殺した。俺が轢き殺した。
「おい!離せっ!!俺は乗り物なんて乗らないぞっ!!!」
黒いバンを見て俺は暴れる。「……失礼」口元に布を押し付けられて俺は気絶した。
「……ようこそ。首相官邸へ」
TVでよく見る農田総理がにこやかに俺に話しかける。
「離してあげてください……乱暴して悪かった」
農田は二コリと俺に話しかける。
「遥朝日君だね」ああ。
「1988年。父・大空。母・夢子(旧姓:白川)の間に生まれる」ああ。
「1990年。マンションの階段から落ちる。無傷」らしいな。あんま覚えていないが。
「1991年。トラックに跳ねられ、吹き飛ばされて対面の高級車のガラスを叩き割るが無傷」
体重が軽かったからな。よく覚えていないが。
農田は俺でさえ覚えていない事故だの、暴漢に襲われて大怪我だの、
友達と遊んでいるときにマンションの屋上から隣の棟にジャンプしようとして失敗して脳震盪だの色々並べていく。
全部忘れていたが結構凄いな。俺。大怪我しても次の日には登校していたようだ。
「2010年。週130時間以上の仕事により居眠り運転。当時中学二年生の少女を跳ねる。彼女は即死」
ッ!!!!!!!!
「勤勉かつ誠実な態度で交通刑務所を出所後、そのトラウマから乗り物に乗れない。だったな」
「俺は屑ですよ。総理」「ほう」
「あのあと、彼女の家族が皆死んだと知ってっ!まずッ!!喜んだっ!!」「……」
そう、反省して償うと誓ったのに。
あの子が何をした。何をしたのだ。あの子を跳ね償いを誓ったはずの彼女の家族が皆死んだと知って!
俺はッ!……喜んだのだ。喜んだのだ。多額の保証金を払う必要がなくなったと。
「金は要らない。娘を返せ」といわれたが、おれにはそれは出来なかった。
神無月優希ッ!!!あの子が何をしたっ!あの子の家族が何をしたっ!
「俺はっ!生きていてはいけない屑ですよっ!!」
俺は叫んだ。
「わかっていますよ!アレに乗せるつもりですよねっ!あのふざけた豆腐野郎にっ!」
黙って頷く農田。
「どうも、君がわが国で最も悪運が強いらしい」知っている。怪我が異常に治るのが早いのも。
「無理ッ!無理ッ!屑にッ!俺に何をさせるんですっ!!」
「今。私は償うと聞いた」
農田は呟いた。
「以上だ」
話は終わったとばかりに彼は煙草に火をつけ、おれに差し出した。
嗚咽が止まらなかった。
(次回予告)
正義などない。
強きをくじくヒーローなんていない。
弱きは理不尽に奪われる。
罪を償うと誓っても、その心より私欲のほうが強い。
罪人。後悔。心の隅においていた自責の念。
青年は立ち上がる。贖罪の為に。
弱きを助ける。ただそれだけのために。
次回。すぱ☆ろぼ!!
誕生編。巨大ロボが日本を護ります!
「幕間。誰も笑ってはいけない。」
ご期待下さい。