外伝 父帰る
「よ! 朝日! 未来! 元気か!!」
俺と未来。さぞマヌケ面をしているのだろう。
俺たち二人はその闖入者の顔を穴が開くほど見つめていた。
「よせやい。照れるじゃないか。俺のイケメンに見惚れていいのは夢子だけだ」
そういってその男は気取って見せたが顔がほんのり赤かった。ホモか。
「ハモだ」「それは魚だろう」
すらりとした長身というのを超えてデカい。
細マッチョで服の上からわかるほど大胸筋が発達しているのに腰元は細い。
オレンジ色のサングラスである丸眼鏡。古びたエレキギター。
「どこにも。どこにも行かないって言ったじゃないか」「ごめん」
あちらでは『妹』の未来と抱き合っている小柄な娘。
俺は大きく息を吸い。吐きだし。
積年の恨みをこめて一気に吐き出した。
『数十年間どこほっつき歩いていた?! 父さん母さん?!』
遥一族。
『下の名前を呼び合うと婚約が成立する』とか数々の妙な風習がある家だが別段名家というわけでもなく、そのくせ歴史だけはあるらしい俺の一族である。
なんだかよくわからないが毎年誰かが神隠しに遭ったりよくわからない体験をするというのが一族皆の認識するところで、まぁ俺みたいにロボット乗ってるヤツがいてもおかしくない。かもしれない。
いや。おかしいからッ?!
ロボット乗ってるとかおかしいからッ?!
俺と未来は血のつながらない兄妹である。
未来は幼くして本当の親父を亡くし、うちに引き取られてきた。
今まで誰にも話さなかったのは『エロゲ設定ですか。隊長』とか、『三十路の妹とか言われてもねぇ』とか言われるからである。
俺がオッサンなら妹もババアになってもおかしくないだろう。むしろ普通だ。
と言ってもうちの一族は前述のとおり突如行方不明になるのみならず大地小父ちゃんのように容姿が変化しない人間が少なからずいる。
とは言えだ。
「お前ら誰だッ?!」
つやつや。ピカピカ。お肌ぷるんぷるん。
久しぶりに見る両親の顔は明らかに若返っていた。
どう見ても三十路の子供がいる顔ではない。むしろこっちが親に見える。
「どう見てもお前ら一〇代?!」「まれによくある」「どっちだよ。とおちゃん。かあちゃん」
未来もあきれる。このショートカットの美女(!)は元『男』だったりする。
昨今は性に対する理解が高い。性転換技術も進んでカネ次第では完全な子宮も手に入るらしい。
「あれか?! どこかで若返りの技術の被験体にでも?!」
俺は目の前にいる小柄な美少女。眼鏡でチビで貧乳なその娘に食って掛かる。
ついさっきまで未来と抱き合って泣いていた彼女は。
「あさひぃ!!!!!!!!!」急に抱き着いてきた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。ずっといれなくてごめんなさい」ぐ、ぐるしい。母さん。
そういうと。
彼女の瞳が今度こそ決壊した。
あ。ダムが決壊したと思ったら津浪だった。
これは。やびあ……。
「私をまだお母さんと呼んでくれるのッ?! あさひっ?!」
「おい。俺の夢子に抱き着くな。朝日」「とおざん……だすげ……」
俺の意識はここらへんで一度途絶えた。
「あさひにいちゃん」
半眼で睨む少女。
俺はなぜか正座させられている。
「モッテモテだねえ」
脂汗が出る。弁解の台詞は空回り。
「スっごくかわいい女子高生の彼女ができたのね」違う。それは母親だ。
眼鏡の美少女。否母親。エロゲの母親じゃねえんだ?! なんでこんなに若い?!
「明日香。いいか。よーくきけ。その娘は俺の母で、そのイケメンに見えるおっさんはお前の弟の大空の名前の由来になった、大空。俺の親父だ」
明日香はじっと俺たちを見比べて告げた。
「うそつき」彼女はうそつきが心底嫌いだと公言している。
俺の弁解と、なおも俺の首筋にまとわりつく母、その様子に悪態をつくバカ親父。
泣いて泣いて大笑いしている『妹』に心底あきれながら俺は数十年ぶりの家族の時間を過ごすのであった。
って。
納得できるかぁああああああああああっ?!!
「お父様。お母様。はじめまして。わたくしはあさひのこんやくしゃの『はるかなる あすか』と申します。大地と沙玖夜の娘です」「おお。いつの間に」
歓迎する顔の両親にしてやったりの顔の明日香。
「ちがう。ちがう。俺はロリコンじゃない!?」
「私が抱き着いたとき、ちょっと勃起ってたわよ」「母さん????????????!」
笑顔の明日香が一瞬瞳から殺人光線を放ったのは気のせいではない。




