だからもう迷わずに。
「すきです。けっこんしてください。あさひおにいちゃん」お~可愛いな。明日香は。
野で摘んだっぽい花を手に顔を赤くして近づく明日香の頭を撫でる。
「ちがうのっ!わかったっ!っていうのっ!」はいはい。
久しぶりに親戚の家に行くと娘がずいぶん育っていた。
……THBFに乗るようになって5年以上経つんだなぁ。
「俺様の娘はやらんぞ」半眼で睨む小父ちゃん。
厳密に言うと俺の親父の従兄弟に当たる。オタで無愛想に見えて極度の子供好きで、
俺含む親戚の子皆をおぶって走り回ってくれていたので、親戚の受けは悪くな……何歳だよ???!この人っ???!!俺もう三十超えたぞ??!!
「明日香。朝日が困っているわ」「こまってないっ!」くすくすと微笑みながら料理の続きをする彼の妻。
……この超美人と小父ちゃんが結婚したのはピラミッドを素手で建設するより不思議不思議七不思議。
……こっちも年齢が判らん(十代後半にしか見えない)。二人とも人間か??!
「おおぞら~♪あばば~♪」「きゃ♪きゃ♪あざ~!」機嫌のいい赤ん坊だ。最近俺の名前を覚えだした。
「おおぞらくんずるい~!あさひおにいちゃんはわたしの~!」はいはい。
「だいぶ、調子がいいみたいじゃないか」「TVで見ているわ。『トーフちゃん』」ばぶっ??!!
「げほっ??!げほっ??!……おおっ?すまねえっ!明日香っ!」明日香から布巾を受け取る。
「明日香。……それは雑巾」「あ、ごめん。あさひにいちゃん」ぶっ!
「……まぁ、仕事が見つかってよかったじゃないか」「そうね」平然と国家機密に触れるな。二人とも。
「子供を轢き殺した」俺は親戚から遠ざけられているが、この二人だけは例外である。
昔から子供好きで、優しい。大叔父、大叔母の方針らしく、突然来客が来ても歓迎してくれる。
半身不随と言語障害を克服した大叔父とその介護に尽くした大叔母は現在ヒマラヤ山脈に冒険旅行中。健勝で何より。
「ナ、ナ、ナンノコトデスカ」春先の日差しの所為か汗がダクダク流れ、コーヒーと醤油を間違えて飲んでしまう。
「いやぁ。仕事ないとかすぐ首になるとかいうから昔の俺様みたいだと心配しててさ」
ニコニコ笑いながら俺から醤油さしを引ったくり、コーヒーのカップに挿げ替える小父ちゃん。
「お前は最初から仕事していないではないか」「うっせぇ?!」
最近知ったが、慈愛深い印象のこの女性、
小父ちゃんには辛辣なんだよな。
彼ら同様異様に若作りの両親が突如失踪した(うちの親戚には良くある)所為で、
大学を辞めてブラック企業に入った俺は過剰労働による居眠り運転で当時中学生の少女を轢き殺した。
「うちでしばらく暮らせば良かったのに」そう。俺はその好意を辞意してしまった。
今思えば、その通りにして居候していればあの事故?はなかったのだが。
「いや、こんな美人と暮らせませんよ。いくらなんでもっ?!」
おっぱいすごすぎるしっ!エプロンドレスからお尻が自己主張激しいしっ!??
「……そうかしら?彫りも浅い顔だし、目鼻立ちも平均的だとおもうわ」
『平均的』なのは間違いないが、全部の人種とっ捕まえて、悪魔合成したらこういう顔立ちになると思う。
「ままっ!あさひにいちゃんはあたしのだからねっ!」「はいはい」
俺の首筋をガッチリとホールドする幼女にもその美貌は受け継がれている。
「小父ちゃんに似なくて良かったなぁ」「どういう意味だ?俺様そっくりだろうが」
「私は不実などしたことはないぞ。結婚前の処女については保障する」「「ちょ……」」
奥さんのトンデモ発言にドン引きする男二人。
「むしろ、私の隣でほかの女に目移りするこの莫迦者をなんとかしてほしいくらいだ」
「「男の本能です」」
見事にハモる俺と小父ちゃん。そんな自分の夫に「後でお仕置」と告げる彼女。
……この二人、めっちゃ仲いいんだよな。ラブラブすぎてこっちが恥ずかしい。
「で。話は戻るんだが」「ナ、ナンノオハナシデスタッテ」「ソレは春巻ではない。布巾だ」確かに噛み切れない。
「あさひにいちゃん!あのロボット乗ってるんでしょっ!」がぶっ??!
「ちがうの?」潤んだ瞳で俺を見つめる幼女。なんという罰ゲーム。
「チガウチガウ。ベツジン」首を振る俺。じわっと更に目を潤ませ、顔をゆがめる明日香。
「……おくさんにウソつくなんて。うわきだ。ころしていいよね。まま」「ちょ??!!」
サラッと怖いこというなっ??!明日香っ??!!そこで首を縦に振るな二人とも!
「ちょ!悪いっ!悪かった!!」「とめるときもやめるときもいっしょなのっ!」
泣きながら俺をぽこぽこ叩く明日香をケタケタと笑いながら見ている小父ちゃんたち。
「止めると富める。病めると止めるか。いいギャグだ」そんな解説いりませんっ??!
「で、いまさらこっちになんの用事だ?」
「……墓参りです」「……あの子とその家族の?そんなワケあるか」
うん。あれから一度も墓参りにはいけていない。脚がどうしても向かない。
「もう。迷わないんです」
「そうか」「そうね」神妙な顔で二人は頷く。明日香はまだ俺を叩いている。
「そうだな。そろそろ結婚すべきだろ」「嫌です」
交通犯罪者で人殺しの俺が家庭を持つなんて考えられない。
そういっているのだが。この二人は聞かない。
「じゃ。わたしがおとなになったらけっこんしてくれる?」
「ああ。別にかまわんぜ。おとなになってもそのつもりならな」
「わたしはうわきしないのっ!」明日香はふくれた。
「もうまよわないんだよね!あさひはっ!」うん。迷わん。迷うかもしれんが迷わん。
「まま!げんちとったよっ??!」「はいはい。よかったね」
なにを勘違いしたのか、さりげなく幼女とは思えない不穏な台詞を吐く明日香に戦慄を覚えながら。
俺は立ち上がった。「じゃ、もういきますんで」「ええっ~~~!!ゆっくりしてっていいよ?!」
いや、用事あるからこのへんで……。「いっしょにねるとけっこんなの」ちょ……何を教えてるんだ小父ちゃん。
「きせいじじつなの」難しい言葉知ってるな。明日香。
「だから、ちゃんとかえってくるの。やくそく!」……。
うん。約束する。
「なにこれ?」……指きりって言うおまじない。
「うそついたらハリセンボンのますっ!」指を切る俺と明日香。
何処からか取り出したかわからぬハリセンボンを手袋越しに持ってにこやかに微笑む小父ちゃんの奥さんに俺は戦慄した。
この人、たまによくわからない生き物持ってたりする。手品にしてはイマイチわからん。
「行きます」そう。もう悩むだけ悩んだ。あとは進むだけ。
「行って来い」「朝日。お前の前途に幸あれ」「おくさんをひとりにしないでね」
三人は俺に手をふる。俺は黙って後ろを向きながら彼らに手を振った。
約束する。きっと。きっと帰ってくる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(あとがきにかえて。三人称視点。少し時間が動きます)
「まったく。何がTHBFだ」美貌の女性はそう呟くとそのロボットの脚を蹴った。
「うん?どうした??」彼女の夫は不思議そうに呟く。
「なんでもない……一万年分の鬱憤をだな」「????」
「こんなところにいやがって」その女性は容姿に似合わぬ悪態をつき、
その『ロボット』を見上げてため息をついた。
「朝日はこの奥か?」「そうだな。多分」
いそがないとな~とノンビリ言う夫には緊張感の欠片もない。彼女はため息をついた。
「まったく。『昔から』お前はそうだ。品性が良くなったことだけは評価するが」「???」
「いくぞ。こっちだ」「はいはい」
彼女は夫の手を引いて進む。まるでGPSがついているかのようにその足取りは正確だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(次回予告)
無私の方がいた。
人類の為に。涙を呑んで前に進め。
耐えがたきを耐えて、忍びがたきを忍んで。
次回。すぱ☆ろぼ!!
動乱編。巨大ロボよ。栄光の架け橋へ。
「希望に満ちた空へ。」
ご期待下さい。




