メシ食おうぜ。
立ち入り禁止区域に今も住む老婆。
人は生きる。生きるために食べる。
ヤマタノオロチシステムで操る重機群はかなりの活躍を見せる。
逆に俺自身の動きはかなり怪しい。立っているのがやっとである。
素直に座る(三角座り)という手もあるが、立ち上がるのが難しい。
基本的にトーフは俺の動きをトレースするので、
スマートフォンを操る子供のような動きに対していちいち現場の皆さんが笑っている。
「同時に複数の重機を操れるって言うが、あんよがおぼつかねぇな」
「まぁ無理すんなよ?!」「困ったときは俺たちを頼れよ?」
勿論、頼らせていただいています。
次々と瓦礫を除去し、除染作業を行い、本日のお仕事は終了。
「身体を洗いますので宜しく」「おお。サクッとやろうぜ」
次々マラになって身体を洗うオッサンども。本当はホットゾーンから避難してもらってからなんだが。
「あとでシャワー浴びなおすからいいだろ。豆腐」逆らうのは良くない。
「豆腐。付き合えや」「うほっ?いい男?」「ぶははっ!!面白いなっ??!ギャグもいえるのか!」
ひとしきり笑い終えたおっさんは俺を誘う。俺は移動車両を呼び出してその上に横たわり、外部操作モードで移動車両を動かす。
操作感覚はドライブゲームに近い。福田は良く作った。
「おう。婆ちゃん。来たぜ!」
本当は専用の宿舎がコールドゾーンにあるらしいが、おっちゃんはここで寝泊りしているらしい。
ここってレッドゾーン真っ只中なんだが。
「おうおう。ケン坊。きたかきたか」小柄な婆さんは杖をつきながらもキビキビ動いて「ケン坊」を出迎え……「ひょえ?」
俺を見て腰を抜かした。
「ああ。デカブツだが、そんなに悪い奴じゃない」おっちゃんは笑ったのだろう。
婆ちゃんを背負って中に入っていく。表札には「佐藤」とある。
「すまんな。ちょっと婆ちゃん腰を抜かしちゃったみたいでな」
「佐藤さんって言うんですね」「ああ。佐藤糸子。俺の婆ちゃんさ。俺は謙一」
「俺を女手ひとつで育ててくれた大事な婆ちゃんさ」「そうですか」
「電気も水道もないここでいまだ頑張っている」「……」
「ホレ、メシ食おうか」「はい」
トーフは外部からの食料を「食べ」たり、除染済みの残りカスをパイロットが食することができる。
「おうおう。良い食べっぷりだねぇ。ロボットさん」
婆さんがのんびりと言いながら笑っている。
「婆ちゃんの野菜は世界一さっ!」「ありがとう。ケン坊」「ケン坊はやめろよ?!」
確かにおいしそうなんだが、この近辺、およびこの野菜は安全値を満たしていない。
「おばあさん。あまり言いたくないのですが、電気のある区域に避難すべきです。健康上問題がありますし、この近辺ではお医者さんもいません」
「90過ぎてもおかげさまで元気にやらせていただいてます」
家に入れないだろうと二人は茣蓙を俺の前に用意し、夜桜としゃれ込む。
のんびりおにぎりを食べる老婆。いっしょに酒を呑むおっちゃん。
「阿呆が毒を撒いたのは本当だがなぁ」おっちゃんも笑う。
「毒も栄養もご飯にもともと入っております。
大事なのは生きていくために食べた命に感謝することでございます」
ばぁちゃんはニッコリ笑って俺を見上げた。
「ごちそうさま」「ごちそうさま」「ゴチソウサマ」
「……お前はいちいちコケかけるんじゃねぇ。家を潰す気か」「……ごめんなさい」
まだトーフの歩行(直立)補助システムは未完成である。
(次回予告)
電気も水道も無い。
だが、人は日々に感謝して生きていく術を持っている。
次回。すぱ☆ろぼ!!
始動編。巨大ロボの背中に投石を。手のひらに命を。
「電気も水道もない。」
ご期待ください。




