第一話~イツワリの世界~
これは今から遠い未来、人が人でなくなった後の話――
そこでは地球が住めなくなった。人は行き詰った状況を打開するために自らが作り上げた嘘の世界へと逃げ込んだ。
そこで望むままに”生”を謳歌できると信じて疑わなかった。もはや、”生きて”すらいないのに……
だが、そこでも新たな問題が発生した。硫酸の風が地表をさらい、水銀が海を満たすそのなかで”彼ら”は生まれた。
”彼ら”は劣悪な環境の中で勢力を伸ばし、人類が放棄した地球で新たな支配者として地位を確立していた。彼らはさらに地下へ
と貪欲に侵攻してきた。そして、”彼ら”と人類は出会う。その瞬間、人間たちがいる楽園は楽園ではなくなったのだ――
「――君は、真実を知る覚悟があるか?」
じりじりと肌を焼く日光の強さに辟易する。きっとこれは地球温暖化とかいうのではなかろうか?
「うむ。由々しき問題だな……」
俺、坂井 啓介は今、毎日繰り返す登校という雑務を淡々とこなしている。ただ、あつい……
八月も終わりとなるというのにこの暑さはいかんともしがたい。俺の視線は自然と空へと向く
「忌々しい空め……」
特別目的はなく学校に通っている俺だが、たった一つだけ明確な夢がある。それは”何も起こらないこと”だ。変化なんてなくて
もいい。生きてさえいればいい。それが俺の希望だ。その希望を打ち砕かんとするやつが俺の周りに多いのが目下の問題ではある
が……
「けー……すけっ♪」
「お前の中では俺に抱きつくことが挨拶なのか?それとも、挨拶抜きに先に抱きついてしまうのか?」
「おっはよー!」
「後者なのか……」
「ん、なにかいった?」
「いや、いい……」
こいつは俺の幼馴染、葛城 文だ。やたらと跳ね回るバンビちゃんだが、クラスでは人気があるという。そのこと自体が驚きだが……
あと、こいつは”あや”を”ふみ”とよむと確実に怒りを買うので気をつけたほうがいいのだ
「おい、文。俺から降りろ」
「士●号を降車するようなやつは幻獣にほふられるのさ……」
「とはいえ、ステータス低下したら即捨てるんだろ」
「だって歩兵のほうがステータス高いから……」
「え、まじか?!」
「ガチガチの装備なので♪」
「って、俺は●魂号じゃない!」
「それはさておき、今日って選択何だったっけ?」
「自然科学」
「うん。それっぽくは聞こえるけど、大体の学問は自然科学だからね?」
「教室にいくまでわからない、そんなスリルを楽しんでるんだ」
「小さいスリルだね……」
「ほっとけ」
バンビちゃんをのっけたまま俺は教室に入る
「啓介……朝から、やるな!」
こいつは相馬 秀雄。悪友である
「ほめられても何も嬉かねー……おい、降りろ」
「しょうがないなー……お、生徒会のお仕事かい?」
「そうだ。お前に吸われた精神力を会長に補充してもらってくる」
「むしろ、吸ってほしいんだろ?」
「何を?」
「ナニを」
「沈め……地中深くに!」
「ごふっ?!」
追記:文はセクハラに容赦なく攻撃する
「それを先に言っておいてくれよ!」
「おい、地の文をよむな。てか、もういくぞ?」
「いってらー」
「文、いいのか?」
「なにが?」
「会長殿にとられちまうぞ?」
「なにを?」
「啓介」
「ふっ……」
「鼻で笑ったのにどうしてお前は立ち上がるのか?」
「女には、ひけない時というものがあるの……!」
「鼻で笑ったじゃねえか?!」
「だとしても!……まぁ、とりあえず、いってくる」
「あそ……」
「ちーっす」
「あれ、啓介くん。どうしたの?」
今日も俺に癒しを与えてくれるのは北条 あやめ先輩だ。彼女は生徒会長だ
「文の襲撃に疲れたんでいやされに来ました」
「……ご愁傷様」
「ども……」
「そういえば、啓介くん」
「はい?」
「虚構の戦場って知ってる?」
「あー……すんません、知らないです」
「そう……」
ちょっとだけ先輩が悲しそうな顔をする。何でだ?
「あの、なんかまずいことでも……?」
「あ、ううん。気にしないで」
「そうですか」
「ねぇ、それならあたしとやってみない……?」
「いや、おれは……」
「意外と相性、いいかもよ?」
「ダメーーーーーーーーーー!!!!!」
「あら、文ちゃん。おはよう」
「だめだめだめだめ!不潔だよ!ただれてるよ!」
「?」
「文、虚構の戦場ってそんなにやばいのか……?」
「へ?きょこうのせんじょうですか?シラナイデース」
「さてはお前何か別のと勘違いしてたな」
「ソ、ソンナコトナイヨー?」
「片言になってるぞ」
「そんなことねえでがんす」
「一体どこの人……?」
「文の中のちょっといけてるおじさんをあらわしたんじゃないすっか?」
「なるほど……」
「自分らひどくない?!」
「お前がノックもなしに突っ込んでくるからじゃないか?」
「それは一理あるかも……」
「会長まで……」
「会長、おはようございます。あ、坂井くん、それに葛城さんも……」
「おはよう」
「おはー」
「んー」
「さて、それじゃ、仕事しますか」
「なるだけいつもしてくださいね?」
「啓介くんがいたら考えてもいいね」
「いや、関係なく仕事はしてくださいよ?」
「それが出来たら苦労はしないのだよ」
「そうですか……」
「あたしにも仕事をくれ」
「……」
「……」
「……さて、資料でも作るか」
「そうだね」
「はい」
「仕事を分けてくれ!」
「お前に任せるとろくなことにならないから却下」
「ダメだよ、啓介くん。なるべく、文ちゃんをきずつけないように言わないと……文ちゃん、あたしたちはあなたを必要としていないわ」
「そっちのほうが率直だよ!」
文、脱走
「なんかのタイトルになりそうだな」
「どうかしたの?」
「何でもありません」
「そういえば、神武が会いたがってたわ」
「げっ……勘弁してください」
「どうして?」
「あいつといるとおれにロリコン疑惑が……」
「そう?ま、見えなくもないけどね」
「な、それはどういうことですか?!」
「神武がよく啓介くんにくっついてるってこと」
「安心しました。まさか会長まで疑ってるのかと」
「ちがうよ」
「ほっ……」
「断定してるの、ロリコンだと」
「マジっすか?!」
「露骨に反応するね……」
「大事なことなので」
「大丈夫。みんなおもってても口には出さないから」
「後生だから、そっと距離をおくのやめて!!」
「うん、大丈夫。啓介くんが例えそっちにいっても、あたしは……」
「いってない!」
「通報しました」
「ちょ、あんた、何してくれてんだよ?!」
「わん、わん、おってやつね」
「会長まで?!」
「ロリコンは犯罪です」
「そもそもロリコンではない!」
「ホシはみんなそういうのさ……」
「どうしてがっちりホールドされるのか?」
「大丈夫。きっと、治るから」
「おれは、ロリコンじゃねええええええええええええ!!!!!!」