第七章 幸福への階段
年末は俊介と一緒に過ごした。
大晦日の夜、俊介のアパートで二人きり。
年越しの瞬間、私たちはベッドの上にいた。
「もうすぐだよ」
俊介が笑う。
「カウントダウンしようか?」
「そんなのいいよ」
私は俊介にしがみつく。
そのまま、体を重ねたまま新年を迎えた。
時計の針が十二時を回る。
「……あけましておめでとう」
俊介が耳元でささやく。
「今年もよろしく」
私は笑いながらキスをした。
新年は、俊介と繋がったまま迎えた。
こんな幸せな年越し、初めてかもしれない。
正月休みが終わり、数日が過ぎた頃だった。
ポストに年賀状が届いていた。
差出人の名前を見て、少し驚く。
奥田和弘。
元夫だった。
離婚してから、年賀状なんて一度も来たことはない。
何だろうと思いながら裏返す。
そこには短い文章が書かれていた。
『今年は私たちにとって転機の年になりますように』
私は思わず小さく笑った。
転機、か。
それから数日後、和弘から連絡が来た。
いつものようにランチを一緒に食べている時だった。
ホテルのレストラン。
最近はこういう店ばかり選んでいる。
和弘は少し落ち着かない様子だったけど、私は気にしない。
食事が終わった頃、和弘が言った。
「……由利奈」
「なに?」
「もう一度、やり直さないか」
一瞬、言葉の意味が分からなかった。
けれどすぐに理解する。
再婚の申し出だった。
心の中で思わずガッツポーズをする。
――やった。
だけど、顔には出さない。
「……急に言われても」
私は少し考えるふりをした。
「2、3日考えさせて」
「分かった」
和弘は真剣な顔で頷いた。
その日の夜、私は俊介と会った。
いつものバーで待ち合わせをして、そのあと俊介の部屋へ。
「再婚の話が来た」
ベッドの上で、私は言った。
「本当に?」
「うん」
「どうするの?」
「もちろん受けるつもり」
俊介は少し笑った。
「そっか」
「でも、再婚したら今みたいには会えないかもしれない」
「まあ、そうだろうね」
「だから……」
私は俊介に抱きつく。
「今のうちにいっぱい愛し合おう」
俊介は笑った。
「いいよ」
その夜は、何度も体を重ねた。
数日後、私は和弘に連絡を入れた。
「考えたんだけど……」
「うん」
「やり直してもいいと思う」
電話の向こうで、和弘がほっとしたような声を出した。
「ありがとう」
結婚の話はすぐに進んだ。
順調だった。
2、3ヶ月後には籍を入れる予定。
私の人生は、これで完全に上手くいく。
その頃、俊介と車を見に行った。
ディーラーをいくつか回って、結局レクサスを買うことにした。
頭金は私が出した。
三百万円。
残りは俊介のローン。
「本当にいいの?」
俊介が聞く。
「いいよ」
私は笑った。
「その代わり、約束覚えてる?」
「約束?」
「車買ったら、お姫様抱っこしてくれるって」
俊介は笑った。
「覚えてるよ」
納車の日。
ディーラーの駐車場で、俊介は私を抱き上げた。
「ほら、お姫様抱っこ」
私は笑いながら腕を回す。
「重くない?」
「全然」
俊介が笑う。
私は思った。
俊介もいる。
和弘とも再婚する。
お金もある。
娘とも一緒に暮らせる。
――全部、手に入る。
私の人生は、これからもっと良くなる。
そんな気がしていた。




