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第五章 過去の過ち

 奥田和弘はコーヒーを一口飲み、しばらくカップを見つめていた。

「……長くなりますよ」

そう言ってから、小さく息を吐く。

「最初に出会ったのは、中学生の頃です」

夏野は静かに頷いた。

田所は腕を組んだまま奥田を見ている。

 

 出会ったのは学習塾だった。

中学校は違ったが、同じ学年で同じ時間の授業だった。

丸山由利奈。

当時から目立つ存在だった。

成績はそれほどでもなかったが、明るくて人懐っこく、男子に人気があった。

彼氏がいない期間がない、と噂されるくらいだった。

ただ、彼女の好みははっきりしていた。

長身でスポーツができる男。

自分とはまるで違う。

だから、その頃は遠くから見ているだけだった。

 高校に進学すると、完全に接点はなくなった。

自分は進学校へ進み、由利奈は別の高校へ進んだ。

高校時代は一度も会っていない。

 再会したのは、ずっと後だった。

大学院を出て、大手メーカーの研究所に就職した頃だ。

会社で矢口孝治と再会した。

矢口とは学習塾の頃からの知り合いだった。

その矢口が、由利奈と連絡を取っていると言った。

矢口の家は由利奈の家の近くだったらしい。

それで、久しぶりに三人で会うことになった。

……正直、嬉しかった。

中学生の頃から気になっていた相手だったからだ。

それから何度か会うようになり、気が付けば本気になっていた。

矢口も同じだった。

今思えば、三角関係みたいなものだった。

仕事が忙しくても時間を作り、何度も誘った。

ようやく付き合うことになったあとも、順調だったとは言えない。

途中で医者との見合いの話が出たこともあった。

丁度その頃、会社にインターンとして来ていた増本俊介という大学生がいた。

人懐っこい男で直ぐに二人で飲みに行くようになり、由利奈と三人で飲みに行くようになるのにそう時間はかからなかった。

それから由利奈と結婚することになった。

結婚式は三百万円ほどだった。

派手な式ではなかったが、当時の自分には十分だった。

 それから二年ほどして、娘が生まれました。

梨奈です。

ただ、体があまり強くなくて、喘息気味でした。

夜中に咳き込むことも多かった。

生活はほとんど子供中心になりました。

それでも、その頃までは普通の家庭だったと思います。

変わったのは、その数年後でした。

 ある日、由利奈が友達を連れてきました。

川辺美緒という女性でした。

最初は普通の来客でした。

ですが、次第に頻繁に来るようになりました。

三日に一回くらいのペースで。

そのうち、由利奈がいない時にも来るようになりました。

正直、あまりいい気はしませんでした。

娘の体調もありましたし、家では静かにしていたかったからです。

それでも、由利奈も娘も楽しそうにしていた。

だから強くは言えませんでした。

それから二ヶ月ほど経った頃でした。

美緒の態度が変わりました。

服装も、言葉も、露骨になってきた。

距離が近い。

体に触れてくる。

そして――

何度もキスを迫ってきました。

最初は断っていました。

何度も断りました。

ですが、ある日。

ほんの一瞬、気が緩んだ。

それが最初でした。

結局、自分は二度、関係を持ってしまいました。

和弘はそこで言葉を止めた。

少しだけ視線を落とす。

「……自分の過ちです」

田所も夏野も、何も言わない。

「その後、美緒は突然連絡が取れなくなりました」

「そして三ヶ月後です」

会社に弁護士から書類が届きました。

離婚通知でした。

封筒の中には写真が入っていました。

自分と美緒の写真です。

そして――

不貞行為が二回あったこと。

その二回とも、日時と場所が完全に特定されていました。

行動の詳細まで書かれていました。

言い逃れはできませんでした。

由利奈の要求はこうでした。

慰謝料一千万。

親権はいらない。

預貯金はすべて由利奈。

……さすがに、それは受け入れられませんでした。

最終的に話し合いで決まった条件は、

親権は私。 

養育費はもらわない代わりに慰謝料五百万。

預貯金は均等分配。

娘との面会は二ヶ月に一度。

それが離婚の条件でした。

和弘はそこで言葉を止めた。

事務所の中が静かになる。

しばらくして田所が口を開いた。

「……それで?」

和弘は静かに続けた。

「離婚してからの話になります」

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