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第三章 再婚へ

 最近、和弘と食事をする機会が増えていた。

最初はただのランチだった。

娘の面会の前後に、少し話をする程度。

それから少しずつ回数を増やしていった。

週に一回。

それが二回になり、気がつけばほとんど習慣のようになっている。

場所は決まって、ホテルのレストランか少し高級な店。

そういう店は、いつも私が選んでいた。

和弘は特に文句は言わないけれど、メニューを見て少し困ったような顔をすることがある。

それでも結局、「じゃあここで」と静かに頷く。

私はその様子を横目で見ながら、食事を楽しんでいた。

そして、そのたびに少しずつ言葉を選んだ。

あからさまではなく。

でも、分かる人には分かるように。

復縁を匂わせる言葉を。

 

 クリスマスの少し前。

その日も私は、ホテルのレストランで和弘とランチをしていた。

「梨奈は元気?」

「ああ、元気だよ」

和弘はコーヒーを飲みながら答える。

「最近は学校も楽しそうだ」

「そう」

 私は少し間を置いてから言った。

「今度の面会の時さ、泊まりに行ってもいい?」

和弘が顔を上げる。

「久しぶりに梨奈と一緒に寝てあげたいの」

ほんの少しだけ考えるような表情をした。

「……そうだな」

そして静かに言った。

「梨奈も母親がいなくて寂しい思いをさせているし……いいよ」

私は微笑んだ。

「ありがとう」

そして、なるべく自然な口調で続ける。

「梨奈にも母親が必要だものね」

「実の母親である私が戻るのが、一番いいのかもしれない」

和弘は少しだけ目を細めた。

「そうだね……それが一番いいのかもね」

それ以上は何も言わなかった。

でも、その言葉だけで十分だった。

少なくとも、拒まれてはいない。

私はグラスの水を一口飲んだ。

「ところで、年末年始はどうするの?」

何気ない調子で聞く。

「年末から俺の両親と梨奈の四人で温泉に行く予定だよ」

「そうなんだ」

私は軽く笑った。

――やっぱり。

心の中で思う。

そういうセンスのないところは変わってないのね。

 

 それから一週間ほど経った週末。

私は和弘の新居を訪れた。

以前、車の中から外観を見たことはあった。

でも、実際に中に入るのは初めてだった。

玄関を入った瞬間、思わず息を呑む。

広い。

本当に広い。

天井の高い吹き抜けのリビング。

大きな窓から差し込む冬の光。

床も壁も落ち着いた色でまとめられていて、安っぽさがまったくない。

システムキッチンも、見ただけで高級だと分かる。

家電も新しいものばかり。

細かいところまで、よく考えられている家だった。

「すごい……」

思わず口から出る。

和弘は少し照れたように笑った。

「まぁ、仕事場も兼ねてるからね」

私はリビングをゆっくり見回した。

ソファ。

ダイニングテーブル。

壁に飾られた写真。

その中には、梨奈の写真も何枚かあった。

小学校の制服を着ている写真。

運動会の写真。

誕生日の写真。

どれも楽しそうに笑っている。

私はふと、そんな写真を見つめていると娘が階段を駆け下りてくる。

「お母さん!」

私はしゃがみ込んで腕を広げた。

「久しぶり」

梨奈は勢いよく抱きついてくる。

少し背が伸びている。

髪も長くなっている。

そして何より、表情がずいぶん大人っぽくなっていた。

「今日は一緒に遊べる?」

「もちろん」

私は娘の頭を撫でた。

「いっぱい遊ぼう」

 

 その日、私たちは久しぶりに三人で過ごした。

リビングでテレビを見て。

梨奈とゲームをして。

一緒に夕食を食べる。

ただ、それだけの時間。

でも、不思議と違和感はなかった。

まるで昔の家族に戻ったみたいだった。

 

こんな家で生活できたら。

 

私はふと、そう思う。

広くて綺麗で、静かな家。

娘と一緒に暮らして。

経済的な心配もない生活。

 

……悪くない。

むしろ、かなりいい。

 

 夜、梨奈が私の腕の中で眠りにつく。

小さな寝息が聞こえる。

私は天井を見上げながら思った。

 

やっぱり、この家に戻るのが一番いいのかもしれない。

 

そうすれば――

すべて、うまくいく。

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