第5話 魔法
「次、魔法撃って」
澪が固まった。
「……」
ゆっくり聞き返す。
「今」
「変身したばかりなんですけど」
「だから」
「エネルギー観測する」
澪は天井を見上げた。
「……」
それからゆっくり僕を見る。
「天原くん」
「なに」
「あなた」
「本当に遠慮ないですよね」
僕は首をかしげる。
「研究だから」
澪は小さく笑った。
少しだけ呆れた顔。
「……まあ」
それから腕を下ろす。
右手を軽く前に出す。
その掌に――
小さな光が集まり始めた。
「どうせ言っても止まらないんですよね」
僕はノートを構える。
「うん」
澪は苦笑した。
そして静かに言う。
「スターライト・ショット」
掌の光が、弾丸の形になる。
部室の空気がわずかに震えた。
僕のノートPCのグラフが、また跳ね上がる。
僕はペンを握りしめる。
「……来る」
次の瞬間。
光の弾丸が――
放たれた。
光の弾丸が――放たれた。
部室の空気が一瞬だけ震えた。
澪の掌から放たれた星光の弾丸は、拳ほどの大きさの光球となって一直線に飛ぶ。
狙いは部室の奥、僕がさっき引っ張り出してきた防護シールド装置。
「――!」
次の瞬間。
バチンッ!!
乾いた衝突音。
光の弾丸は透明なシールドにぶつかり、激しく弾けた。
星屑のような粒子がパッと広がり、すぐに空気の中へ消えていく。
衝撃波がわずかに机の上の紙を揺らした。
……そして。
静寂。
「……」
「……」
澪と僕は、同時にシールドを見た。
透明な板状の防護壁は――
無事だった。
「……おお」
僕は思わず声を漏らした。
澪の目が丸くなる。
「え」
「壊れない」
僕は立ち上がってシールドの前に歩いていく。
装置の表面を覗き込む。
焦げ跡なし。
ヒビなし。
歪みなし。
「……成功」
澪が呆れた声を出した。
「そっちの成功ですか」
僕は振り返る。
「うん」
「魔法観測と防護シールドの耐久試験」
「同時にできた」
澪は額を押さえた。
「この人本当に中学生ですか」
ピノは空中でくるくる回っていた。
「ねえねえミオ」
「もう一発撃ってみたら?」
澪が即座に言う。
「撃ちません」
僕はノートPCを確認していた。
グラフが激しく揺れている。
エネルギー波形。
位相変動。
空間歪曲。
僕は一気にノートに書き込む。
星光魔法=高密度エネルギー弾
射出時、局所空間歪曲あり
エネルギー源:ピクシスリンク?
「……面白い」
思わず口から漏れた。
澪がジト目で見る。
「危ない人の顔してますよ」
「いいデータ取れた」
「それは良かったですね」
完全に呆れた声だった。
僕はモニターを指差す。
「星川」
「なに?」
「もう一回撃って」
澪が机を叩いた。
「だから撃ちません!」
ピノが笑っている。
「ミオ、怒ってる」
澪は僕を指差した。
「天原くん」
「はい」
「ここ」
「学校です」
「うん」
「魔法撃つ場所じゃないです」
僕は少し考えた。
それから言う。
「じゃあ外行く?」
澪が一瞬言葉を失う。
「外」
「校庭」
「広い」
「撃てる」
澪は天井を見上げた。
「……」
そしてゆっくり言う。
「普通の中学生は」
「校庭で魔法撃とうとは思いません」
僕は首をかしげる。
「合理的だと思う」
「合理性の方向がおかしいです」
ピノがまた笑い出した。
「ねえミオ」
「でもさ」
「この子の装置、結構すごくない?」
澪がちらっとシールドを見る。
確かに、さっきの魔法を真正面から受けて無傷だった。
澪は少し眉を寄せる。
「……確かに」
それから僕を見る。
「これ」
「本当にさっき作ったんですか?」
「うん」
「材料は?」
僕は指を折って数えた。
「廃棄パソコンの電源」
「理科室の磁石」
「あと電子レンジ」
澪が固まった。
「……電子レンジ?」
「電磁シールドに使った」
澪はゆっくりピノを見る。
「ピノ」
「なにー?」
「この子」
「危険人物じゃないですか?」
ピノは楽しそうに言った。
「うん」
「でも味方なら心強いよ」
澪はしばらく黙っていた。
それから小さくため息をつく。
「……まあ」
「確かに」
僕はその会話を聞きながら、まだモニターを見ていた。
グラフが少しずつ落ち着いていく。
「……なるほど」
僕は呟く。
澪が聞き返す。
「何がですか?」
僕は画面を指差した。
「魔法撃った直後」
「星川の周りのエネルギー量」
「一瞬だけ落ちてる」
澪が少し驚いた顔をする。
「え」
「そうなんですか?」
「うん」
僕はノートに書く。
魔法=エネルギー消費あり
回復プロセス存在?
澪は腕を組んだ。
「……確かに」
「何発も撃つと疲れます」
僕は顔を上げた。
「どれくらい?」
「え?」
「最大出力」
「何発?」
澪は少し考える。
「……全力なら」
「二、三発くらいですかね」
僕のペンが止まった。
「少ない」
澪がむっとする。
「少なくないです」
「普通それくらいです」
ピノが補足する。
「ミオ、まだ新人だしね」
澪が睨む。
「余計なこと言わない」
僕は腕を組んだ。
「……なるほど」
澪が聞く。
「何がなるほどなんですか?」
僕は机の上の装置を見る。
それから澪を見る。
そして言った。
「じゃあ」
「エネルギー効率上げればいい」
澪が瞬きをする。
「……はい?」
僕は当然のように言った。
「魔法の燃費」
「改善する」
澪の顔が固まった。
ピノが目を丸くする。
「え」
数秒の沈黙。
それから澪がゆっくり言った。
「天原くん」
「なに」
「今」
「何て言いました?」
僕は答える。
「魔法の燃費」
「改善する」
澪が机をバンッと叩いた。
「魔法って燃費とかあるんですか!?」
僕は首をかしげる。
「エネルギー現象だから」
「ある」
澪は両手で顔を覆った。
「……この人」
「本気で魔法を家電みたいに扱ってる」
ピノは完全にツボに入って笑っていた。
「ミオ」
「この子と組んだらさ」
「面白いこと起きそうじゃない?」
澪はゆっくり顔を上げる。
そして僕を見る。
その目は少しだけ真剣だった。
「……天原くん」
「なに?」
「魔法」
「改良できると思ってるんですか?」
僕は即答した。
「うん」
澪は少し黙る。
部室に静かな空気が流れた。
そして僕は言った。
「だって」
「仕組み見えてきた」
僕はノートをくるっと回して澪に見せる。
そこには、さっき書いた図。
ピクシス → 魔法少女 → 魔法出力
エネルギーの流れ。
澪はそれをじっと見た。
そして小さく呟く。
「……本当に」
「解析してる」
僕は言う。
「だから」
「もう少し実験する」
澪がゆっくり顔を上げる。
「……まだやるんですか」
僕は頷く。
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