第3話 研究のはじまり
それから。
僕たちはしばらくの間、屋上で話し続けていた。
正直に言うと――
かなりの時間だ。
最初はピノが簡単な説明をするだけのつもりだったらしい。
でも。
「ちょっと待って」
「うん?」
「その“虚界”って空間」
「物理的にどこにある?」
「えっと……次元の位相が違う場所っていうか……」
「座標系は?」
「ざ、ざひょう?」
「エネルギー供給は?」
「うーん……アストラの技術で……」
「アストラの技術って何?」
「……」
こんな感じで。
質問を投げるたびに、話はどんどん枝分かれしていく。
気が付けば。
空の色はすっかり夕焼けから群青に変わっていた。
◇
ネメシス。
アストラ。
ヴォイド。
ピクシス。
魔法少女。
それぞれの関係。
侵略の目的。
戦争の経緯。
色々な話が出た。
もちろん。
ピノが説明できる範囲には限界があった。
「ボク、端末だから」
「全部知ってるわけじゃないんだ」
そう言っていたし。
それに。
正直な話。
――異次元文明の超技術。
そんなものを詳しく聞いても。
今の段階で完全に理解できるとは思えない。
だから僕は途中で質問の方向を変えた。
歴史。
構造。
役割。
それらの全体像だけを押さえる形にした。
結果。
分かったことは、いくつかある。
まず。
ヴォイドはネメシスが送り込む侵略兵器。
虚界――異次元虚界から送り込まれている。
そして。
それに対抗するために。
アストラという種族が作ったのがピクシス。
ピクシスは人間の少女と契約し、魔法少女として戦わせる。
この地球では。
若い少女しか適合しない。
理由は精神構造の近似。
アストラと一番近い波長だから。
――らしい。
まあ。
かなりざっくりした理解だけど。
それでも。
僕の頭の中では、もう十分だった。
必要なのは理屈の入口だ。
そこさえ分かれば。
あとは調べればいい。
僕はメモ帳を閉じた。
「……なるほど」
星川が少し疲れた顔をしていた。
「天原くん」
「なに」
「質問、多くない?」
「まだ半分」
「半分なの!?」
ピノが星川の肩の上でぐったりしていた。
「澪……」
「うん」
「この子」
「研究者タイプ」
「完全に」
「うん」
僕は言う。
「当然」
そして。
少しだけ考えてから。
僕は本題を切り出した。
「星川」
「え?」
「提案がある」
星川が首を傾げる。
「提案?」
「うん」
僕はフェーズグラスを指で押し上げた。
「研究させてほしい」
沈黙。
星川とピノが同時に僕を見る。
「研究?」
星川が聞き返した。
「何を?」
「君」
指差す。
「それと」
ピノ。
「ピクシス」
そして。
「魔法」
星川の目が少し丸くなった。
「……魔法?」
「うん」
僕は普通に言う。
「未知の現象」
「観測可能」
「解析可能」
「なら」
「研究対象」
ピノが苦笑した。
「うわあ……」
「言い方が完全に研究者」
星川は少し考えるように黙った。
フェンスの向こうの夜空を見る。
それから僕を見る。
「……天原くん」
「なに」
「もし研究させたら」
「何するの?」
「色々」
「ざっくりすぎる」
僕は少しだけ考えて答える。
「まず観測」
「魔法発動時のエネルギー」
「ピクシスとのリンク」
「ヴォイドの構造」
「あと」
「再現可能性」
星川が思わず言った。
「再現!?」
「うん」
「魔法を?」
「可能なら」
ピノが額を押さえた。
「澪」
「うん」
「この子」
「とんでもないこと言ってる」
星川も苦笑した。
「……分かってる」
でも。
少しだけ。
真面目な顔になる。
「天原くん」
「うん」
「ひとつだけ聞く」
「どうぞ」
「あなた」
星川は言った。
「なんでそこまで知りたいの?」
僕は少しだけ考えた。
答えは簡単だ。
「面白いから」
「……」
「……」
沈黙。
それから。
星川が吹き出した。
「はは……」
「何」
「いや」
彼女は笑いながら言った。
「なんか」
「すごく天原くんらしい」
ピノも苦笑している。
「うん」
「納得」
それから。
星川は少しだけ真面目な顔になった。
「正直言うと」
「魔法少女の事情って」
「普通は外部の人に話しちゃいけないんだ」
「へえ」
「魔法少女協会っていう組織があるから」
僕はすぐ反応した。
「協会」
「うん」
星川が頷く。
「魔法少女は基本的にそこに所属してる」
「国際組織」
「世界中の魔法少女をまとめてる」
ピノが補足する。
「各国の政府とも連携してる」
「ヴォイド対策の中心組織だね」
僕はメモを取りながら聞く。
「活動地域」
「基本は」
星川が答える。
「自分の住んでる場所」
「地元担当みたいな感じ」
「でも」
少し笑った。
「やる気ある人は」
「魔法少女が少ない地域に引っ越すこともあるらしい」
「海外とか」
「過疎地域とか」
「なるほど」
僕は書き込む。
世界規模の防衛網。
魔法少女ネットワーク。
面白い。
星川は続けた。
「だから本当は」
「こういう情報」
「勝手に外部に話すのは微妙なんだけど」
ちらっと僕の眼鏡を見る。
フェーズグラス。
そして。
静かに言った。
「でも」
「天原くんは」
「もう見えてる」
「うん」
「しかも」
「ピクシスまで」
ピノが小さく頷いた。
「これ」
「本当にすごいことなんだ」
「今まで」
「人間で」
「ボクたちを見えた人は」
「魔法少女だけ」
僕は言う。
「観測手段がなかっただけ」
「……」
ピノが苦笑する。
「その観測手段を作っちゃったのがキミなんだけどね」
星川は少し考えた。
数秒。
そして。
小さく息を吐く。
「……分かった」
僕を見る。
「研究」
「いいよ」
僕は少し驚いた。
「早い」
「ただし」
星川が指を立てる。
「条件」
「魔法少女の活動の邪魔にならないこと」
「危険な実験はしないこと」
「私の学校生活を壊さないこと」
僕はすぐ答えた。
「問題ない」
「本当?」
「研究は計画的にやる」
ピノが笑った。
「澪」
「うん」
「この子」
「絶対すごいことする」
星川も小さく笑う。
「……うん」
それから。
僕を見て言った。
「じゃあ改めて」
手を差し出す。
「よろしく」
「天原くん」
僕はその手を握った。
「よろしく」
「星川」
こうして。
魔法少女と天才中学生の共同研究が始まった。
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