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魔法少女しか見えない怪物を、天才中学生が科学で観測してしまった  作者: 悪癖


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第2話 自己紹介

 「――なんで、見えてるの?」


 第一声は、それだった。


 目の前の少女――星川澪は、まるで信じられないものを見るみたいに僕を見ていた。


 いや、正確に言うと。


 僕の目を見ている。


 その理由は分かっている。


 僕の目にかかっているのが、ただの眼鏡じゃないからだ。


 フェーズグラス。


 位相観測眼鏡。


 さっき三十分で作ったばかりの試作品。


 そのレンズ越しに、僕は今――


 普通の人間には見えない存在を、はっきりと見ていた。


「……」


 夕方の屋上は静かだった。


 放課後。


 部活の声も遠く。


 フェンス越しに吹く風だけが、鉄のきしむ音を立てている。


 その中で。


 僕と、星川澪。


 そして――


 彼女の肩の横に浮かんでいる、小さな光の生き物。


 沈黙が数秒続いたあと。


 僕は普通に答えた。


「眼鏡」


「……は?」


「だから」


 僕はレンズを軽く指で叩く。


「これ」


「位相観測眼鏡」


「フェーズグラス」


 星川が固まる。


「……」


「……」


「……さっき作った」


 その瞬間。


「はぁ!?」


 屋上に大きな声が響いた。


「さっきって何!? さっきって!?」


「三十分前くらい」


「三十分で作れるものじゃないでしょ!?」


「理屈が分かれば作れる」


「理屈が分からないから誰も作ってないんでしょ!?」


 鋭いツッコミだった。


 反射的というか、完全に習慣の動きだ。


 さすが元陸上部エース。


 瞬発力がある。


 僕は少し感心した。


「うん」


「何うんって!」


「いいツッコミ」


「褒めてないから!」


 はあ、と星川は額に手を当てた。


 肩までの黒髪が揺れる。


 小柄な体。


 かわいい系の顔立ち。


 ニュースや学校で見た印象と大体同じだった。


 ただし。


 今はかなり混乱している。


 理由は当然だ。


 普通の人には見えないはずの存在を。


 僕が普通に見て、普通に会話しているからだ。


 そして。


「……ねえ」


 小さな声がした。


 僕の目の前。


 空中。


 ふわりと光の粒が集まる。


 手のひらサイズの小さな存在。


 蝶のような羽。


 淡い光をまとった体。


 丸い瞳。


 その小さな生き物が、僕をじっと見ていた。


「……ほんとに見えてる?」


「見えてる」


「ボクも?」


「見えてる」


「……」


 小さな生き物はゆっくり僕の顔の周りを一周した。


 横から。


 上から。


 後ろから。


 観察するみたいに。


「……」


 そして。


 ぽつりと言った。


「澪」


「うん」


「この子」


「やばい」


「分かってる」


 星川は疲れた顔で頷いた。


 僕は普通に言う。


「それで」


「自己紹介まだ?」


「……」


「……」


 星川と小さな生き物が同時に僕を見た。


「いきなりそれ?」


「情報の整理は基本」


 僕は言う。


「今分かってること」


 指を一本立てる。


「星川澪」


「天霧中二年C組」


「元陸上部」


「新人戦県大会出場」


 星川が一瞬目を丸くする。


「……覚えてるんだ」


「全校集会」


「壇上」


「壮行会」


「ああ……」


 星川は少し照れた顔をした。


 それから僕を見る。


「天原くん」


「うん」


「あなた一年だよね」


「一年A組」


「科学部」


「……ああ」


 星川は思い出したみたいに言った。


「先生に怒られてるの、何回か見た」


「研究の邪魔された」


「怒られる理由そこなの?」


 僕は二本目の指を立てる。


「それと」


「君」


 小さな生き物を指す。


「羽」


「浮遊」


「発光」


「人間じゃない」


「多分サポート存在」


「魔法少女システムの一部」


「……」


 小さな生き物が固まった。


 星川が頭を抱えた。


「……天原くん」


「なに」


「なんでそんな冷静なの」


「未知だから」


「?」


「面白い」


 僕が言うと。


 小さな生き物はため息をついた。


「……もういいや」


 観念したみたいに。


 ふわりと僕の目の前まで飛んでくる。


 それから小さく胸を張った。


「ボクはピノ」


 くるっと一回転する。


「ピクシス」


「澪と契約してるパートナー」


 自己紹介だった。


 僕はすぐメモ帳を出す。


 シャーペンを走らせる。


 ピノがぎょっとした。


「ちょっと待って」


「メモ取るの?」


「当然」


「観測記録」


「……」


 ピノが星川を見る。


 星川は諦めた顔で言った。


「もう止められないと思う」


 ピノは肩を落とした。


「……うん」


 それから改めて僕を見る。


「ボクたちピクシスは」


「簡単に言うと」


「契約端末」


「端末?」


「そう」


 ピノは説明するように手を広げた。


「ボクたちは“アストラ”っていう種族が作った存在なんだ」


 その言葉。


 僕はすぐ反応する。


「アストラ」


「うん」


「異星文明?」


「まあ……うん」


「敵対勢力あり?」


 ピノが目を瞬いた。


「……なんで分かるの」


「怪物」


 僕は空を指さす。


 フェーズグラス越しに見える。


 歪んだ空間。


「さっきの怪物」


「ヴォイド」


「侵略兵器」


「そうだよね」


 ピノの顔が真剣になる。


「……うん」


 小さく頷いた。


「ヴォイドは」


「ネメシスっていう種族が送り込んでる」


「ネメシス」


 僕は書く。


 ピノは続けた。


「ネメシスと」


「アストラは」


「ずっと戦ってる」


「生存競争みたいなもの」


 星川が補足する。


「その戦いが」


「地球にも来ちゃったって感じ」


「なるほど」


 僕は頷く。


「で」


「魔法少女?」


 ピノが言う。


「アストラは直接戦えない」


「だから」


「協力者を探してる」


「それが」


「魔法少女」


 僕は聞く。


「条件は?」


「……え?」


「契約条件」


 ピノは少し迷った。


 でも、隠す様子はない。


「この地球では」


「年若い少女だけ」


 僕はペンを止めた。


「理由」


「アストラの生命構造と」


「一番近いから」


 ピノは言った。


「波長」


「精神構造」


「色々」


 星川が苦笑する。


「つまり」


「私たちが一番適合するってこと」


 僕はゆっくり息を吐いた。


 メモ帳を見る。


 ピクシス

 アストラ

 ネメシス

 ヴォイド

 魔法少女


 すべてが繋がっていく。


 僕は顔を上げた。


「なるほど」


 そして。


 思わず口に出した。


「面白い」


 星川が眉をひそめる。


「……面白い?」


「うん」


 僕は言う。


「つまり」


「異星文明同士の戦争が」


「地球で代理戦争してる」


「その戦場を」


「今まで人類は観測できなかった」


 フェーズグラスを押し上げる。


「でも」


「僕は観測できる」


 ピノがじっと僕を見ている。


 星川も。


 僕は続けた。


「質問」


「まだある」


 ピノが苦笑する。


「いっぱいありそうだね」


「うん」


 僕は頷いた。


「例えば」


「魔法」


「エネルギー源」


「ヴォイドの構造」


「虚界」


「アストラ文明」


 星川が小さく笑った。


「……ねえピノ」


「うん」


「この子」


「止まらないタイプだよね」


 ピノは真顔で言った。


「うん」


「完全に」


 それから。


 ピノは僕の目の前まで来て言った。


「分かった」


「全部説明する」


「ボクたちの事情」


「ネメシスのこと」


「アストラの目的」


 小さく笑う。


「どうせ」


「キミ」


「聞くまで帰らないでしょ」


 僕は即答した。


「帰らない」


 星川がため息をつく。


「……だと思った」


 夕方の屋上。


 風が吹く。


 そして僕は。


 人類で初めて。


 魔法少女の戦場の“裏側”を聞くことになった。

お読みいただきありがとうございました!


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