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魔法少女しか見えない怪物を、天才中学生が科学で観測してしまった  作者: 悪癖


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第1話 見えない怪物

夜でもないのに、天霧市の空はどこか落ち着かない色をしていた。


街の人間はもう慣れている。

数か月前から、空に奇妙な歪みが現れるようになったからだ。


そしてそれが現れると、必ず警報が鳴る。


だが――


天霧中学校の旧校舎三階、科学部の部室では、その警報とは無関係に静かな時間が流れていた。


部室の机にはノートパソコン、分解されたラジオ、半田ごて、ドライバー、電子部品の小袋。

そして机に座る少年。


天原理久。


天霧中学校一年生。

そしてこの科学部の唯一の部員にして部長でもある。


理久はパソコンの画面を閉じ、小さく息を吐いた。


「……なるほど」


つぶやきながら、ノートをめくる。


そこには数式とメモがびっしり書かれていた。

大学の講義ノートのような内容だが、書いたのは中学生である。


理久は小学校の理科の授業で、科学に魅了された。


それからというもの、教科書では足りなくなり、本を読み、論文を読み、ネットで情報を集めた。

結果として、東大理三の入試範囲に出てくる内容はすでにすべて理解してしまっている。


だからといって、それを誰かに自慢する気もない。


学校ではただ、テストで満点を取るだけの生徒。

それが天原理久だった。


「さて」


理久はノートを閉じる。


「……次は何を知るべきか」


新しい知識を探すこと。

それが彼の唯一の趣味であり、目的でもある。


そのときだった。


――――――――――――――――


《警報。警報。》


《天霧市上空に空間歪曲反応を確認。》


《住民は速やかに安全な場所へ避難してください。》


――――――――――――――――


サイレンが鳴り響いた。


理久はゆっくり顔を上げる。


「またか」


驚きはない。


この警報は最近、よく鳴る。


理久は椅子から立ち上がり、窓へ歩いた。


旧校舎の三階からは、校庭と街並みがよく見える。


空を見上げる。


そこには、確かに奇妙な光景があった。


空間が、歪んでいる。


まるでガラスの向こうに何かがあるような、揺らぎ。


ニュースではそれをこう呼んでいた。


異次元虚界。


そこから現れる存在。


人々はそれを――


ヴォイドと呼んでいる。


理久は目を細めた。


だが彼の目には、何も見えない。


ただ、空が歪んでいるだけだ。


そして。


校庭の中央に、一人の少女が立っていた。


「……」


理久は少しだけ驚く。


見覚えがある。


天霧中学校二年生。


星川澪。


だが、普段の制服姿ではない。


白と青を基調とした、不思議な衣装。

そして手には、光る杖のようなもの。


彼女は何もない空間に向かって叫んだ。


「はあっ!」


振り下ろされた杖から、光が走る。


空中で何かが弾けた。


だが理久には、それが何なのか分からない。


見えているのは。


何もない空間に向かって戦う少女。


ただそれだけだ。


「……なるほど」


理久は腕を組んだ。


「つまり」


思考が回り始める。


ニュースではこう言っていた。


ヴォイドは存在する。


だが、ほとんどの人間にははっきり見えない。


そしてそれと戦う――


魔法少女。


「つまり」


理久は小さくつぶやいた。


「人類は、敵の正体を観測できていない」


科学において、それは致命的だ。


観測できない現象は、理解できない。


理解できないものは、対処できない。


窓の外では、澪が空中の何かと戦っている。


光が弾け、衝撃が広がる。


だが、肝心の敵は見えない。


「……面白い」


理久の口元が、わずかに上がった。


「これは、人類の誰も知らない現象だ」


つまり。


誰よりも先に解明できる可能性がある。


理久は机に戻り、パソコンを開いた。


検索。


ニュース記事。


動画。


SNS。


投稿。


目撃情報。


断片的な情報を集めていく。


魔法少女。

見えない怪物。

空間の歪み。


そしてもう一つ。


「……見える人間がいる」


魔法少女たちは、敵を見ている。


ということは。


「可視化の条件が存在する」


理久はメモを書き始めた。


仮説。


・異なる位相の存在

・光学的不可視

・脳内認識フィルタ

・電磁波領域外


「ならば」


ノートを閉じる。


理久は部室の棚を開けた。


古い双眼鏡。

サングラス。

偏光フィルター。

スマートフォンのレンズ。

分解したVRゴーグル。


そして家から持ってきた工具箱。


「観測装置を作ればいい」


答えは単純だ。


存在するなら、観測できる。


観測できるなら、再現できる。


理久は眼鏡フレームを机に置いた。


そこにフィルターを組み込み、レンズを調整する。


配線。


小型基板。


スマホカメラ。


半田ごての煙が上がる。


時間は、三十分もかからなかった。


理久は完成したそれを手に取る。


普通の眼鏡にしか見えない。


だが彼は静かにつぶやいた。


「仮称」


眼鏡をかける。


位相観測眼鏡フェーズグラス


そしてもう一度、窓の外を見た。


次の瞬間。


理久は初めて、それを見た。


空中に浮かぶ黒い影。


ねじれた身体。


裂けたような輪郭。


それが澪に襲いかかっている。


「……なるほど」


理久は静かに言った。


「これが」


人類がまだ観測していない存在。


ヴォイド。


そして澪の肩のそばには、小さな光の生き物が浮かんでいた。


星のような、小さな存在。


「ピクシス……か」


理久はノートを開き、ペンを走らせる。


「観測成功」


その瞬間だった。


澪の視線が、窓の方へ向いた。


そして彼女は目を見開いた。


「……え?」


科学部の窓。


そこに立つ一年生。


そして――


ヴォイドを見ている目。


澪は思わず叫んだ。


「なんで……見えてるの!?」


理久は答えた。


淡々と。


「簡単だ」


彼は眼鏡を指で押し上げる。


「観測装置を作った」


こうして。


誰にも見えなかった戦場に。


科学が介入した。

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