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灰色王子のバラ色観察日記  作者: こさか りね


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7

師匠と初めて会った次の日


どうしても諦めきれない私は、師匠を探す事にした。


もちろん、道ですれ違った人と、そう簡単に会えるとは思っていない。

時間がかかっても、他に当てがない私には、師匠に教えてもらうと言う事に、賭けるしかなかったのだ。


だが、まさか探し始めた初日で、会えるとは思わなかった・・・。


だって寒い真冬に、昼から広場にある屋台で串肉(かじ)りながら、お酒を飲んでいたら嫌でも目に入る。


おじさんは、私に剣技を教える運命なのかもしれない。


そう思ったら、嬉しくなり『おじさん!剣技教えて!』と前回と同様に前へ(おどり)り出たのだ。


いきなり出て来た私の勢いに驚き『うわっ』と言って、肉とお酒を落としそうになったおじさんは、再度私を見てため息を吐いた。


「また嬢ちゃんか。つーか、いきなり出てきたら危ないだろ。そんなに俺が好きなのか?」


すごくイラっとするが、教えてもらう身だ。


我慢、我慢。


『ふぅっ』と息を吐き、気持ちと表情を立て直す。


『好きなのか?』は軽く受け流して、本題に入る事にした。


「騎士になりたくて。教えてくれる人を探しているんです」


「・・・。

あー、悪い。

・・・坊主だったんだな?

髪下ろしてピアスしてるから、てっきり嬢ちゃんかと思ったよ」


勘違いしていた事を後ろめたいのか、頭を掻きながら視線を泳がせている。


「・・・。

いいえ、嬢ちゃんで合ってます。

男装すれば騎士になれるかと思って」


そう言った私を見て、よほどビックリしたのか、こめかみを押さえながら問いただしてきたのだ。


「・・・どっからくるんだ?その発想は。

どうして騎士に(こだわ)る?」


「騎士が高収入だからです」

もうここまで話したら、変に嘘をつく必要もない。これまでの経緯を洗いざらい話した。


「そうか・・・また無茶な事を考えるもんだな。

それで、本気なのか?」


「はい。だから力を貸してください。頼めるのが、おじさんしかいないんです」


私がおじさんの目を見つめて真剣に伝えると『はぁ』とため息をついて『名はなんと言う?』と問いかけてきたのだ。


「アレンシアです。13歳になります」


おじさんは腕を組み瞳を閉じて考えている。

私もそれを見ながらじっと待った。


難しい事は十分に分かっている。でも諦められない理由があるのだ。


一縷(いちる)の望みを託して待っていたら、結論が出たのか、(ようや)く目を合わせてくれた。


「・・・では、まず初めに言っておくが、子爵家の娘だとしても、師匠の俺の言う事は絶対だ。

俺は、お前に気を遣うつもりはないからな。

分かったか?」


まさかOKが出るとは思わなかったので『え?弟子にしてくれるって事ですか?』とアホな返事しか出てこなかったのだ。

すると、おじさんは半眼で見据えて口を開いた。


「今そう言っただろう?

それと、俺が出した指示には絶対文句を言うな。

いいな?」


「はい。はいっ!よろしくお願いします。」


嬉しくて二回も返事をしてしまった。

そうやって喜んでいる私を、おじさんが面白そうに見ていた事には、全く気が付かなかったのである。


こうして師弟関係が生まれたのであった。


明日から訓練を開始するとの事なので、時間と待ち合わせ場所を決めてから今日は解散となった。


帰り道は嬉しすぎて、寒さも忘れた私は、鼻歌を歌いながらスキップでお家へと帰ったのだ。


【そして、待ちに待った次の日】


雲一つない冬空が広がっている。


待ち合わせをした、昨日の広場へとやって来た。

冷たい空気を目いっぱいに吸い込み、深呼吸をしていると、おじさんがズボンのポケットに手を突っ込みながら、ダルそうにやって来たのだった。


「よう。今日も元気だな。

じゃあ早速、行くか」


私は『お願いします!』と挨拶をして、おじさんの後ろを小走りでついて行く。


歩いて行くと、ウインターマーケットを抜けて商店街へとやって来た。

お店を見ると昼時(ひるどき)で、どこもとても賑わっている。


ここに何があるんだろう?


疑問に思う私を余所(よそ)に、おじさんは脇目も振らず、目的地へとズンズン進んで行く。


「今日の訓練は、これだ」


そう言われて連れて来られたのは、一軒の八百屋だった。


「いいか?

ここで判断力と瞬発力、記憶力を養う訓練を行う。

接客、品出し、会計。

瞬時に判断して、全てを一人で(こな)してみろ。

時間は一時間だ。

ほら、行ってこい!」


「え?これ訓練なんですか?」


戸惑う私に『文句は言わないって、言ったろ?』とニヤっと笑って返して来た。


えー!なんか思っていたのと全然違うけど。って思っていたら、次から次にお客様が来る。


会計していたら、ダイコンはどこかと聞かれて、品出ししていたら、会計が長蛇の列になって怒られるわで、散々だった。


てんてこ舞いしていたら、おばちゃんが休憩から戻って来た。


八百屋の神が降臨(こうりん)されたのかと錯覚してしまう程に、クタクタで追い詰められていたのである。


その後、師匠はおばちゃんから何かを(もら)い、(ふところ)へと入れていた。


え!?

・・・今、お金もらってたよね。

もしかして、良いように利用されてない?

と疑心暗鬼になってしまった。


そうして訓練?も終わり屋台のある広場へと戻って来たのである。


おじさんは串肉とホットワイン。

私にも串肉とホットレモネードを買ってくれたので、お礼を言い受け取ったのだ。


「おじさん、さっきの八百屋はなんだったんですか?」

と聞かずにはいられなかった。


「ん?ああ。もちろん、訓練だぞ。

あと、俺の事は師匠と呼べ。

そして俺は、おじさんじゃない」


そう言うと、焼き立てアツアツの串肉に(かぶり)り付いている。

肉のタレが口元に付いたのか、親指で拭い、話し始めた。


「それとアレンシア。

いきなり剣を握れるとでも、思ったのか?」


私が納得していないと分かったのだろう。容赦なく私の願望を切り捨てて来たのだ。


「・・・いいえ。

・・・けど、基礎運動くらいは、すると思ってました」


私はホットレモネードを握り締めながら言った。

それを見ていた師匠は、何でもない事のように返して来たのだ。


「しただろ?今日は頭も身体も使ったじゃないか」


「そう言うのじゃなくって、もっと実戦的な事です。力もつけなきゃ、騎士にはなれない」


落胆している私に、師匠はため息を吐きながら言った。


「なぁ、アレンシア。

お前は女で、男とは違う。

いくら筋力を付けようと、男には敵わないんだ。

だったら、お前にしかない長所を伸ばせば良い。

自分の長所は分かるか?」


両手を頭に当てて考えてみるが、足が速い事くらいしか思い浮かばない。

だから、そのまま伝えたのだった。


「そうだな。

それと、動作が素早く気配がない。

これは凄い利点だぞ!相手から読まれにくいし、奇襲にも向いている。

要するにだな、実戦も大事だが、日々の生活の中にだって、視点を変えれば訓練の一環になるんだ。

もっと視野を広く持て。

それに、俺は引き受けた以上、適当な事はしねーよ。

だから、安心してついて来い」


師匠がとても頼もしく見える。

師匠を選んでよかった!


それからの私達は、毎日毎日商店街へ行き、訓練に(いそ)しんだ。


それに(ともな)い、師匠の懐具合も潤っていったのだった。


訓練を始めて4ヶ月


寒さも和らぎ、鳥の(さえず)りを感じるようになった頃。


私は、八百屋のベテラン店員となっていた。

もう、お客様を待たせて怒られる事はないし、野菜の値段、バックヤードの品数まで網羅(もうら)している。


今日もいつもの調子で頑張り、広場へと来たのだ。

すると、師匠が何かを持っていた。


「文句も言わず、良く頑張ったな。

・・・褒美だ」


そう言って渡してくれたのは、ショートソードだった。

まさか(もら)えるとは思わず、嬉し過ぎて剣に頬擦(ほおずり)りをしようとしたら『刃物だから止めろ』と止められてしまった。


だが、それほどに嬉しかったのだ。

私は師匠に、何度もお礼を告げたのであった。


それから、なんと実戦を教えてくれると言うではないか。

もう八百屋へ行かなくていいらしい。


八百屋も楽しかったけど、何だか肩の荷が下りた気がしたんだっけ・・・。



懐かしい思い出に浸っていたら、結構な時間が経っていた。

そう言えば、師匠から(もら)ったショートソードをどの箱に入れたかな。


探したいところだけど、明日も体力的にキツイ重騎士の訓練だ。


今度の休みに探す事にして、今日はそろそろ寝るか。

そうして、私は夢の中へと旅立ったのである。


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