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灰色王子のバラ色観察日記  作者: こさか りね


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6

さっきのは一体、何だったんだ?


いきなり知らない人に腕を掴まれたら、誰だって驚くだろう。

私は掴まれた腕をさすりながら、集合場所へと向かった。


そう言えば、私の髪色と同じ瞳だったなぁ。赤い瞳って初めて見た。


それよりも、穴が開くほど見るって、ああいう事を言うのだろう。


私の顔に、何か付いていたのか?

・・・なんとなく気まずい。


それとも、私が何かしたとか?

バレない為とは言え、時間差で用を足しに行ったのが、いけなかったのか・・・。


もしかしたら、サボっているって思われたのかもしれない。


アレンシアは、悶々(もんもん)と全く見当違いの事で悩むのであった。


そして今日は盾や剣、接近戦を主とした重騎士の訓練だ。

私が最も苦手とする分野の為、早く1週間が過ぎないかと祈るばかりである。


チーム分けでゲイルと一緒になった。

ビルは弓騎士、アルトは騎馬隊へと行っている。


すると、先輩重騎士が鎧の身に付け方から、心構えまで丁寧に教えてくれた。

だが、この重装備が重すぎて、立ったまま一歩も足が前へ出ない。


その時、鎧を身に着けたゲイルが、ガチャガチャと音を立てて近づいて来た。


「アレン大丈夫?」


ゲイルは上背はあるが、痩せていて、筋力があるようには見えない。

だから、普通に動ける事に驚いてしまったのだ。


私は『大丈夫』と答えて歯を食いしばり、一歩また一歩と前に足を出す。


幸いにも、顔まで覆う兜を被っているので、表情は分からない。

無理をして動いているとは、誰も気付かないだろう。


なんとか集合場所に集まり、ここで重装備を解く事になった。


・・・本当に、死ぬかと思った。


鎧を脱いだ私の顔を見て、ゲイルが『顔が真っ赤だよ!熱があるんじゃない?』と心配そうにしているが、まさか生死の(さかい)彷徨(さまよ)うほどの、火事場の馬鹿力を出していたとは言えない。


なので『ちょっと暑かったのかな?』と言って誤魔化したのであった。


そうして少し落ち着いて来た頃、先輩がみんなに話し始めた。


「どうだ?重かったろう?

だがな、これだけじゃない。

剣も盾も、持たなくてはならないのだ。

重騎士は常に筋力トレーニングを欠かしてはならない。それに、我々は守りの(かなめ)だ。

この重さが、戦う(みな)の命を支えている。だから、絶対に倒れてはならない。

分かったか?」


先輩の話は、とても心に響いた。

歩兵は騎兵のように華やかではないし、弓兵のように先制攻撃が出来る訳ではない。


だが、彼らがいなければ、他の兵は思う存分に戦えないのだ。

彼らが倒れたら、勝利はないだろう。

改めて重騎士の重要性を認識したのであった。


そうして、その日は剣と盾の持ち方も教わり、実際に振ってみた。

やっぱり鎧と同じで重くて、私は片手で持つのがやっとだったのに対し、ゲイルは()()はないとしても、何回か振れている。


他の新人騎士もゲイルと似たり寄ったりだった。


筋肉量の違いを実感した私だったが、まだ始まったばかり。


この1週間は、出来る限りの最善を尽くそうと思ったのである。


そうして訓練が終わり、寮へ帰る道すがら、ビルとアルトに会った。

これから、ご飯を食べに行くとの事で、誘われたのだが、自炊をすると伝えると、何故かゲイルも私と一緒に作る、と言うではないか。


これって、私が1人で作る事になるよね・・・。

ゲイルにも出来る簡単な料理ってなんだろう?

と考えていたら、あっという間に寮へと着いたのだった。


部屋へと戻り、制服から私服へと着替えてキッチンへ行く。

すると、既にゲイルが椅子に座って待っていた。


「お待たせ。

じゃあ、今日はポトフにしようと思うんだけど、それでいい?」


私はゲイルの了承を得たので、材料を用意して早速スタートする。


ポトフの良い所は、切って煮るだけで出来るので、疲れている日には最適な料理だ。

ゲイルは野菜を切ってくれているので、私はウインナーをオリーブオイルで炒める。


野菜を鍋に投入していき、水を入れて火にかける。

焼き色が付いたウインナーと調味料を入れて後は煮込むだけなので、このまま放置で大丈夫だろう。


そして、ゲイルを見るとレタスを(むし)っていたので聞いてみた。


「料理を作った事ないの?」


「そうだね。家には料理人がいたから、した事ないな」

と毟る手を止めずに答えてくれた。


やっぱり、お金持ちはそうなんだなぁ。

・・・羨ましい。


そう思いながら鶏肉を茹でる。

今日はチキンサラダにするのだ。


ゲイルは思う事があるのか、再度口を開いた。


「でもさ、昨日はみんなで料理をして、食べて。

とても楽しかったんだ。

だから、やった事なくて、足手纏いなのは分かってるんだけど、頑張るから教えてくれないかな?」


そう言われたら、嫌だとは言えない。


じゃあ少しずつ頑張っていこう、と話していたら鶏肉が茹で上がった。


早速、ゲイルに鶏肉とフォークを2本渡して、()いてもらう。


ゲイルは、フォークを2本持って首を(かし)げていたが、やり方を教えると覚束(おぼつか)ない手で、一生懸命に肉を裂いていた。


裂いた肉をサラダに乗せ、ポトフとカンパーニュを用意したら完成だ。


出来る事が1つ増えて嬉しいのだろう。

ゲイルが食べながら話しかけて来た。


「今日の重騎士の訓練はすごかったね。もう筋肉痛になってきてるよ。

先生からも、結構(きた)えられたと思ったけど、それ以上だった」


ゲイルは『ははっ』と笑って、カンパーニュに手をかける。


「アレンの先生は、どんな感じだったの?」

と聞かれて師匠の顔が浮かんだ。


どんな感じって言われても・・・。


おじさんで、訓練中は何だかんだで、教えてくれるけど、訓練が終われば、すぐにお酒飲み始めて、自意識過剰で態度がデカくて。

・・・って、変な事しか思い浮かばない。


思わず『普通の人だよ』と的外れな事を言ってしまった。


その後、世間話をしていたら、ゲイルも弓希望だと言う。


そうして、あっという間に食べ終わり、食器類を一緒に片付けて、部屋へと戻り、寝支度をして、すぐにベッドへと滑り込んだのであった。


師匠に対する印象は、さっきゲイルに話した通りだが、それでも、何の見返りもない私に、指導してくれた事は、感謝してもしきれない。


そして私は、師匠と出会った後の事を、思い返したのである。

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