ローレンス視点
・・・アレンがいない。
俺は執務机で項垂れていた。
全てを取り上げられたような感覚に、何もやる気が起きない。
「ふう」
「・・・ローレンス様?元気がないようですね。
では、気晴らしに、バードウォッチングでもしましょうか?」
・・・・。
こんな時に・・・。
また、レノンの鳥好きが始まってしまった。
いつもは軽く聞き流すのだが、やさぐれている今の俺には、癇に障る。
「・・・レノン?
コレを貸すから、一人で見て来い」
そう伝え、オペラグラスを差し出したのだ。
すると、レノンがとぼけた顔をしているではないか。
・・・なんだ?その顔は・・・。
「いえ、失礼致しました。
ローレンス様が大丈夫であれば、私も大丈夫です」
そう言って、レノンはお茶の準備をすると言い、退出して行ったのだった。
本当に、なんだったんだ?
だが、もうレノンの事はどうでもいい。
アレンは、上手くいけば今日の夕方頃に帰ると言っていた。
怪我せずに帰って来てほしい。
心配で昨日は眠れなかった。
その後は、早く早くと急く気持ちを原動力にして、執務を熟したのであった。
【そして夕方】
アレンが帰って来ない!
やっぱり何かあったのだ。
居ても立っても居られない俺は、レノンに『出掛けてくる!』と言い残し、扉を開いたのである。
すると、目の前にアレンの姿があったのだ。
安堵で、思わず抱き締めてしまった。
(ガチャガチャ!パシャン!)
と背後から、けたたましい音が聞こえてきたのだが、レノンが何かしたのだろう。
俺はそのまま、抱き締め続けたのだ。
「ロ、ローレンス様!苦しいです!
少し、落ち着いてください!」
プハッと俺の胸から顔を上げたアレンと目が合う。
嬉しさのあまり『おかえり』と伝えたのだ。
(ガタガタ!ドカン!!)
・・・今日のレノンは、どうしたんだ?
鳥を見られなかった不満を物音で主張しているのではないか?と思う程に煩い。
そして、後ろを振り向くと、配膳台が壁に突っ込み、大変な惨事となっていた。
「た、大変失礼致しました。すぐに片付けますので」
と言い置き、俺達の横を通り抜けて行ったのである。
・・・そのまま放置して、いったい何処へ行くのか・・・?
・・・まぁ、いい。
これで、アレンと二人きりだ。
「あの、ローレンス様?
離してくれませんか?」
「・・・嫌ではないのだろう?」
するとアレンは、きまりが悪いのか、さっきまで合っていた目を逸らしながら、口を開いた。
「・・・。
嫌ではないですが、人目を憚らず、こういう事をされるのは嫌です」
・・・なるほど。
人前でなければいいんだな。
俺は、アレンの言葉を脳に焼き付けた。
・・・では、今はいいのではないか?
そう気付いた俺はそのまま伝えたのだ。
すると、顔を真っ赤にしたアレンが、あたふたしながら返してきたのだった。
「へ・・・?
・・・え!?いや、その。
それは、言い間違えです。取り敢えず離れて下さい」
と、よく分からない事を言っている。
間違えなら、その間違えを教えてほしい。
俺の腕の中で、ジタバタしているアレンを離してやった。
そしてよく見ると、いつも着けているピアスがなく、怪我をしたであろう処置が施されていた。
!!?
「怪我をしたのか!?何があったんだ!?」
「大した事はありません。
ピアスが壊れてしまっただけなんです」
本当にそうなのだろうか・・・。
それになんだか、元気がないようにも見える。
「アレン。
俺は、人の機微には疎いが、君に対しては、そうありたくないと思っている。
・・・だからだろうか。
アレンに元気がないように見えるんだ。
本当に、何もなかったのか?」
すると、アレンから息を呑む音が聞こえた。
そして目線を下に向けて『ありがとうございます。けれど、何もないです』と早口で伝えてきたのであった。
・・・やっぱり。
何かあったのだろう。
けれど、このまま聞き続けても、きっと平行線だ。
だから俺は『そうか。何かあれば相談してくれ』と返した。
その後、アレンは部屋へと戻って行った。
そして俺も、そろそろ寝支度を頼もうかと思った時に、兄上の侍従が、執務室へ来てほしいという伝言を持ってやって来のだ。
俺は急いで、レノンを呼び戻し、共に、兄上の執務室へと向かったのであった。




