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今回は特殊部隊総出で任務に当たる重要な案件らしい。
私とヴィンセルは、ここ数ヶ月前に、ダントン伯爵名義で借りているという、とある屋敷へと潜入する事になった。
場所が遠い為、泊まりがけでの任務になる。
それに対してローレンス様は『危ないから一緒に行く』と言ってきたのだが、レノンさんに捕まったのだった。
昼から出立する私は、ローレンス様に挨拶をすると、面白く無さそうな顔をレノンさんに向けてから、私に『くれぐれも気をつけるように』と告げたのであった。
師匠からも『危ないと思ったら、すぐに退避しろ』と言われている。
今回は、お金の流れと紛い物の魔石との関係性があるのかを調査するのだ。
私は屋敷内部全般を、ヴィンセルは帳簿を探す事を第一に動く事を決めた。
日が沈み、夜深くなるまで様子を伺い待機する。
そして、時間を持て余したのか、ヴィンセルが珍しく話し掛けてきた。
「なぁ、叔父上からの訓練はどうだったんだ?」
「どうって言われてもな。
八百屋へ行ったり、避ける訓練をしたりとかかな」
すると、眉を寄せて怒り始めたのだ。
「はぁ?何言ってんの?
そんなの訓練じゃないだろ?嘘つくなよ」
はぁ。面倒くさい。
ヴィンセルとバディを組んでから半年以上。
私達はソリが合わないようだ。
「嘘つく訳ないだろ?
そんな事で嘘ついて何の意味があるんだよ。
疑うのなら、団長に聞いてくれ」
そう投げやりに答えてしまった。
・・・そのまま沈黙が続く。
するとヴィンセルが口を開いた。
「だって、狡いじゃないか!
アンタだけ叔父上から教わるなんて。
オレだって、教わりたかったのに・・・。
アンタのせいで、全然帰って来なかったんだからな!」
・・・ああ、なるほど。
私への当たりが強いのは、この事かと分かったのである。
確かに、師匠は私につきっきりで教えてくれた。
けど、それを決めたのは師匠である。
私は頼みはしたが、強要した訳ではない。
なので、私に言うのは、お門違いだ。
「それ、団長に言った事はある?」
「そんな事、言える訳ないだろ?」
「そう。
けど、それを私に言って、何か変わるのか?」
すると、ヴィンセルが悔しそうに拳を握り締めて何かを考えている。
私は、静かになったと思い、屋敷へと目を向けたのだ。
そして夜も深くなり、虫の声しか聞こえない。
そろそろ始める時間だ。
私は振り返り、不貞腐れているヴィンセルに話しかけた。
「呼び出しの魔石は持った?」
「・・・持った」
「じゃあ、行くよ」
そう伝え、それぞれの任務にあたる。
私は三階建ての一階から見て回った。
調理場を抜けて、一部屋ずつ確かめていく。
紛い物の魔石や、金目の物などが無いかを確認するのだ。
そして、一階は特に何も見当たらないので二階へと移動する。
人の気配がないかを注意しながら階段を上がると、突き当たりの部屋で物音がした。
すると、その直後に子供の悲鳴が聞こえたのだ。
こんな夜中に、子供の叫び声が聞こえるなんて、只事ではない。
私は辺りに注意しながら、問題の部屋へと向かった。
部屋の扉からは、ぼんやりと灯りが漏れている。
隙間から覗くと、男が一人に、子供が三人いた。
逃げないようにだろうか、子供達には足枷がしてある。
「おい!早くしろ!これにも魔力を込めるんだ!」
「・・・もう、無理、です」
「この役立たずが!ダントン様に怒られるのは俺なんだぞ!死ぬ気でやれ!」
そう言って、男は鞭を振り上げ、男の子を打った。
悲痛な叫び声が上がる。
とても見ていられない。
・・・どうする?
ここで問題を起こせば、ヴィンセルも危ない。
だが、見過ごす事も出来ない。
私が考えていると、男と目が合った。
しまった!
油断していた。
気配を消せきれて無かったのだ。
私は身を翻し廊下を直走る。
すぐに呼び出し用の魔石に触れてヴィンセルに危険を知らせた。
だが、相手も追ってくる。
そして、逃げた先が行き止まりだったのだ。
これは戦わなくてはならない。
そう思い、短剣を握り戦闘体制に入る。
相手の男は鞘から剣を抜き、斬りかかって来たのだ。
だが、師匠の棒と比べると、全く話にならない。
余裕で避けられる、とそう思っていた。
だがその時、左耳のピアスが燃えるように熱くなり、私の耳に焼き切れそうな痛みが走った。
いたっ!
その瞬間、体制を崩し、出遅れてしまった私の胸元に剣が掠ったのだ。
隊服は裂け、サラシが露わとなる。
「・・・へぇ。
お前、女なのか。
よく見ると別嬪じゃねぇか。
へへっ。少し、楽しませてくれよ」
男はそう言い、卑下た笑いを浮かべながら、手を伸ばしてきた。
早く、逃げなければ。
そう思うのだが、耳が痛過ぎて動く事が出来ない。
とその時、カツンとピアスが砕け落ちた。
すると、目の前にまで迫っていた男の手が燃え始めたのだ。
え?
「うわ!何だコレ!?
熱いっ!あ!?ギャー!!」
男の断末魔はすぐに止み、烈火に包まれたのであった。
そして、火だるまになった男は、もがき苦しみ絶命したのだ。
・・・な、に?
一体、何が起こったの?
心臓がバクバクいっている。
極度の緊張のせいで『はっはっはっ』と息の吸い方が分からない。
その場から逃げることも出来ずに、へたり込んでしまった。
・・・気持ち悪い。吐きそうだ。
目の前で人が息絶えるのを初めて見た私は、極度のストレスからか、胃液が上がってくるのを堪える。
そして、何とか治まった、その時『アレン!無事か!?』とヴィンセルがやって来た。
だがすぐに、ヴィンセルの息を呑む音が聞こえた。
「アンタ、女、だったのか?」
私は気が動転していて、前を隠す事もせず、ヴィンセルに『この事は言わないで!お願いだから!』と、しがみ付いたのだ。
すると、ヴィンセルは自分が着ていた上着を私に掛けてから気まずそうに口を開いた。
「分かったから、取り敢えず離れてくれないか?
それと、怪我は?って、耳から血が出てるじゃないか!」
と、あたふたしているヴィンセルに、私は『大丈夫』としか返せなかった。
「ねえ、聞いていい?
この焼死体は、君がやったの?」
「・・・知らない。何も分からないんだ」
「・・・そっか。
あと、帳簿はなかった。
けど、魔石は手に入れたから、このまま退避しようと思う。
・・・歩ける?」
私はコクリと頷いた。
ヴィンセルは『この男を処理するから、君は自力でついて来て』と言い男を担いだ。
私もヴィンセルの後に続き、窓から脱出したのであった。




