20
みんなとは寮の前で別れ、私は1人で王宮へと向かう。
今はローレンス様の専属とあって、当初予定していたお給料よりは大分多く頂いている。
もちろん、特殊部隊の危険手当も上乗せされるので、任務を熟せば熟す程に増えていく。
だから、2年でも何とかなるかもしれない。
そんな事を考えながら歩いていると、王宮のエントランスで師匠とバッタリ会った。
「よう。
飲みの帰りか?」
「はい。
師匠は今帰りですか?」
「ああ。久々に帰って来た俺に、トーマスが大量に仕事を振って来るからな」
・・・トーマス?
誰だっけ?
そう思っていると『副団長だ』と呆れ顔で師匠に言われたのである。
「まぁ、いい。少し時間あるか?」
「師匠の奢りなら付いて行きます!」
すると、ははっと笑い『本当に相変わらずだな』と言って、私達は街へと繰り出したのだ。
師匠は『腹減ったからメシ食うぞ』と言い、少しお高めな食事処に連れて来てくれた。
私は今日も飲みに徹していた為、今頃になってお腹が空いてきたのだ。
メニューを見ると、何の料理だか分からない名前の物ばかりだ。
すると『エビは食えるか?』と聞かれたので頷くと、師匠が適当に頼んでくれたのである。
2人で話すのは、いつぶりだろうか。
そして私は、再開してからずっと、気になっている事を聞いた。
「師匠は、おじさんじゃなかったんですね?」
「お前、開口一番がそれか?
つーか、おじさんじゃないって言ってあったろ?」
はて?
・・・そうだったか?
「はぁ。お前、よくそんなんで任務を熟して来たな」
・・・聞き捨てならない。
「あと、もう一つあるんですよ!
私を最初から特殊部隊へと入れるつもりだったのなら、何故、弓の練習に2年も費やしたんですか?
今、弓を使う事ないんですけど」
すると、師匠は当たり前の顔で言い放ったのだ。
「いやな、適正訓練の時に、何も出来ないと可哀想だろ?だから、自信を付ける為にも、弓にしたんだよ」
なんと!?
そんな可哀想という理由で、私の2年は使われたらしい。
「・・・師匠。
2年は、長いですよ」
私の万感の思いが伝わったのだろう。
「・・・そうだな。2年は、やり過ぎたかもしれない」
そうバツが悪そうに返してきたのだった。
そして、師匠が話題を変えてきたのである。
「アレン、何故ローレンス殿下の専属になったんだ?」
「何故と言われましても・・・。
指名されたんですよ」
すると師匠は目を見開き『アイツがか?どうやって言ってきた?』とローレンス様をアイツ呼ばわりしている。
私はその時の事を振り返り『赤い髪の彼だって言われました』と話すと、師匠は一瞬言葉に詰まり『そうだったのか』と何かを考えていた。
すると、料理が運ばれて来たのだが、エビがもの凄く大きい。
こんなエビを見た事ない。
それから、見た目が綺麗な料理が、テーブルの上に所狭しと並べられた。
これは、ウチの食卓では絶対に出て来ない物だった。
「師匠?こんなに凄い料理を毎日食べているんですか?」
「ああ?別に普通だろうが。
そんなに高くないから、遠慮せず食べろ」
そう言って、完璧なテーブルマナーで食べ進めている。
これだから、金持ちは・・・。
では、お言葉に甘えて、遠慮せずに頂きますか。
私も淑女教育で培った知識を総動員して食べ始めた。
「にしても、ちゃんと男がやれてんじゃないか」
ナプキンで口を拭った師匠が話しかけて来た。
「それが、そうでもないんですよ。
今日気付かされました」
「なんだ?どうした?」
「久々に同期と会ったんですが、この5ヶ月で凄く大きくなっていたんです。
私なんて、殆ど変わらないのに・・・」
すると、師匠は呆れたように目を細めて小声で話してきた。
「あのな、前々から言ってはいるが、お前は女なんだ。
それに、その年頃の男は、何もしなくてもメキメキと大きくなるんだよ。
だから、そんなに気にする事じゃない」
そんな事分かってる。
けど、理屈じゃないのだ。
「女ってバレませんかね?」
「お前・・・。
見落としているみたいだから、言っておくが、先輩にお前より小さい奴がいるだろ?」
・・・・・!!?
いた!?
ビンゼフ子爵の情報を持ち帰って来た先輩だ!
私よりも小さく、身のこなしが軽い。
「・・・はぁ、よかった。
バレちゃうんじゃないかと、ヒヤヒヤしていたんです」
「・・・本当にそんなんで、今まで平気だったのかが不思議だよ」
そう言って、頬杖を付いている。
机を見ると、半分以上の料理が無くなっていた。
え?いつの間に!?
「ほら、早く食べろ。明日は仕事だろ?」
「はい!」
そうして、私は見た事もないエビを平らげ、初めて食べる料理に舌鼓を打ったのだった。
すると、師匠がソワソワしながら、聞いてきた。
「ヴィンセルとはどうだ?上手くやれているか?」
私は口の中のご飯を飲み込み、ナプキンで口を拭った。
「いやぁ。
なんか、身に覚えがない敵対心を向けられています」
「・・・そうか。
まぁ、悪い奴じゃない。
出来るだけ、仲良くしてやってくれ」
そう言う師匠は、叔父の顔をしていた。
それから私達は、他愛ない話をして『ローレンス殿下に、女とバレるヘマをするなよ!』と釘を刺されてから、解散したのである。
ローレンス様の部屋の扉を開けると、まだ起きていたようで、話しかけられた。
「アレン、おかえり。
休日は楽しんだか?」
「はい。
久々に同期と会って来たんです」
すると、ローレンス様が私に近寄って来て、いきなり抱き締めて来た。
は!?
驚き過ぎて唖然とする私に『ジェラルドの匂いがする』と言い放ったのだ。
ローレンス様は、犬か何かなのかな?
って、そんな事、今はいい。
「ローレンス様!?
取り敢えず、離れてください!
師匠、いえ、団長にも帰り道に会ったんですよ」
「そうだったのか。
・・・悪い。
また、困らせてしまった」
「いえ、驚きましたが、困ってはいません」
すると、私を見つめて問いただしてきたのだ。
「それは、本当か?
嫌ではないって事で、いいんだな?」
「は、はい。
嫌ではありません」
あまりの真剣さに押されてしまう。
そう答えると、愛おしさに目を細めたローレンス様が『そうか。とても嬉しいよ』と返してきたのだった。
!!?
こ、これはいかん!
退避ー!退避しなくては!
・・・心臓がやられてしまう!!
「えっと、ローレンス様?そろそろ失礼致します」
すると、トドメとばかりに、満面の笑みで『ああ、おやすみ。良い夢を』と食らわせてきたのである。
私は急いで自室へと入り、戸に背を付き屈み込む。
心臓がドキドキする。
はぁ。と息を吐き、落ち着かせる為に、他の事を考えた。
・・・そうだ!手紙!
私はカバンから手紙を取り出して封を開けた。
おっちゃんからは、近況と師匠は引っ越したと書いてあった。
実は、再会したんだよ、おっちゃん。
と心の中で呟いたのである。
それから、家族の手紙を全て読んだ。
家族からは、近況と返信がない事への心配、それと、手紙を送ってから3週間の内に返信がない場合は、王都へ行くと書いてあった。
・・・え?
私は手紙の消印を見る。
すると、既に2週間は経っていた。
や、やばい!!
明日出せば、ギリギリ間に合うか?
すぐに手紙を書く準備をして、なんとか、書き上げたのである。
そして、その頃には、ローレンス様へのドキドキは鳴りを顰めていたのであった。




