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あれから時は少し経ち
今日は団長がバカンスから復帰するとの事なので、顔合わせの為、特殊部隊室へと行こうとしたら、ローレンス様が『俺も行く』と言ってきたのだ。
「ローレンス様、ご自身のお仕事を優先してくだいさい」
「もう終わった。
それに、アレンと一緒にいたいんだ」
と、人目も憚らずに好意を伝えて来るローレンス様に、どう対処して良いのか分からない。
私はレノンさんに目を向けると、コクリと頷いている。
これは、一緒に連れて行けと言う事なのだろう。
「では、ローレンス様。一緒に行きましょうか」
すると、嬉しそうに付いて来るのだ。
その顔を見ると罪悪感が湧く。
私が、彼を騙している事に・・・。
きっと、本当の事を知ったら、今と同じ態度を見せてはくれないのだろう。
そう思うと、寂しいと、嫌だと、心が思う。
騙している癖に、本当に自分勝手で嫌になる。
そしていつか、本当の事を話せる日が来たら、私は精一杯の言葉を尽くし、誠意を込めて謝罪をしようと思う事で、この罪悪感から目を逸らした。
そうして、特殊部隊室へと着き、戸を開けるとヴィンセルが目に入った。
そして、他の先輩方が一斉にコチラを凝視している。
・・・そうだった。と思い、横を見る。
ローレンス様が来た事に皆、驚いているのだろう。
だが、ヴィンセルは何の反応もない。
それには訳があるであった。
あれから私達は、何回か潜入調査を熟してきたのだが、そのうちの数回程、人目を盗んで、ローレンス様が付いて来たのだ。
初めの頃は、危ないからと説得していたものの、言う事を聞かず、付いて来るローレンス様に、私も、ヴィンセルも、いつの間にか一緒に任務にあたる事が普通となってしまったのである。
しかも、ローレンス様は本当に強かった。
一度、見張りに見つかった事があるのだが、一瞬で相手を昏倒させるのを見た時には、開いた口が塞がらなかった。
ヴィンセルや私よりも強いのでは?
そう思わずには、いられなかったのである。
そして、入り口に立っている私達の前に副団長がやって来た。
「ローレンス殿下?何か、ご用命でしょうか?」
「いいや、アレンの付き添いだ」
そうローレンス様が告げると、ヴィンセル以外の全員が、一斉に私を見た。
使用人に付き添う王子など、見た事も聞いた事もない。
私は、居た堪れなくなり、そっと目を逸らしたのである。
それから、ローレンス様には椅子が用意され、私達、新人2人は立って待つ事になった。
すると、後ろの扉からガチャリと音がして入って来たのは、灰色の髪を短く切り揃えた、男性だった。
そして振り向くと、この人が団長?
と思う程に若い人だったのだ。
年齢は27.8ぐらいだろうか?
副団長よりも若い。
どことなく、ヴィンセルに似ている。
そして、団長が私達を見て口を開いたのだ。
「私はジェラルド・マクガディだ。
ここの団長を務めている。
君達の活躍は副団長から聞いた。
これからも、職務に励んでくれ」
そう言って、貴族らしい微笑みを浮かべた。
と言うか、マクガディって、ヴィンセルの家名だよな?
とそう思っていたら、ヴィンセルから『叔父上』と聞こえて来たのだ。
すると、団長は『仕事の時は団長と呼ぶんだぞ』と少し砕けた話し方をしている。
なるほど、親戚なのか。
私は2人のやり取りをぼーっと見ていると、団長が私の前に来たのだ。
きっと、何か一言掛けてくれるのだろう。
私は言葉を待っていると・・・。
「よう。
元気にしてたか?」
と、粗雑な言葉使いに顔を上げた。
オレンジの瞳をジッと見る。
髭は生えていない。
髪の毛も短い。
でも、まさか?
・・・師匠、な、のか?
心臓がドキドキして、なかなか言葉が出て来ない。
あの日、手紙が届かずに返って来た日から、ずっと心配していたのだ。
黙ったままいる私に『なんだ?恩ある師匠の顔も忘れるくらいに、ここの生活は楽しかったのか?』と、揶揄うように言った。
本当に師匠なのだ!
名前も違うし、オジサンではないしで、全く前の師匠の面影は無い。
けど、そんな事はどうでもいい。
師匠の無事が分かったのだから!
「師匠!
手紙、書いたのに届かないし、とても心配してたんですよ!」
「あー、悪いな。
色々事情があるんだよ。
特殊部隊の任務をしているお前には、分かるんじゃないか?」
そう言いながら、ポリポリと頭を掻いている。
多分、私の住んでいる町の近くで、何かを調べていたのだろう。
周りに溶け込んでいた事から、長期の密偵業務をしていたと思われる。
「少しは教えて欲しかったです」
そう言うと、師匠は私の頭をグリグリ撫でながら『今、教えただろ?』と白い歯を見せて笑ったのであった。
こうして、私と師匠は再会を果たしたのである。
そしてこの時、気付かなかったのだ。
ローレンス様が、喜んでいる私の姿をジッと見ていた事に。




