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さぁ、気を取り直して、ローレンス様をどうするのかを考える。
ヴィンセルに目を向けると、鼻であしらわれてしまった。
これは、自分でなんとかしろと言う事だろう。
・・・。
嫌な沈黙が続く。
すると、ローレンス様が口を開いた。
「また、困らせてしまったのだろうか?
でも、絶対に迷惑はかけない。
だから、一緒に行っても良いか?
・・・アレンが、心配なんだ」
なんと、予想していなかった返答に驚いてしまった。
興味本位で付いて来たのかと思っていたのだが、まさか、心配されていたとは。
つくづく、使用人思いの人なのだと、心底感じてしまう。
だが、それとコレとは別だ。
と、考えているとヴィンセルが口を開いた。
「では、殿下はアレンと行動を共にしてください。
私は別で動きます」
と、面倒臭くなった様子のヴィンセルが、痺れを切らして言い放ったのだ。
え?
・・・これ、私の責任?
私が連れて来てしまった事は、重々承知しているのだが、押し付けられた感が半端ない。
そして振り返ると、ローレンス様の笑顔が目に入り『では、行くか』と言って来たのだ。
私は思わず、月が出ていない夜空を見上げてしまった・・・。
特殊部隊は、少数で動くので、互いに何かあれば知らせる事の出来る魔石を持たされている。
私とヴィンセルは魔石を持っている事を確認し、別れたのであった。
私とローレンス様は一階から。
ヴィンセルは3階から探す事にした。
そして、執務室を見つけたら魔石で知らせる事になっている。
一階の窓の鍵を、特殊な道具を使い解除して侵入する。
研修期間に、色々な潜入方法と道具の使い方を教わったのである。
難なく潜入出来た私達は、人の気配を探る。
・・・特に人の気配はない。
それからは、一部屋ずつ見て回った。
だが、一階は食堂、厨房などで、執務室は見当たらない。
私達が、2階に上がろうとした瞬間、足音が上からした。
私は隠れる場所を探していると、ローレンス様が私の手を取り、階段下にある物置へと入れられたのである。
そして、もちろん、その後を追うようにローレンス様も入って来た。
物置の広さは、階段幅程あるのだが、荷物が入っている為、かなり狭い。
ローレンス様が荷物に手を付き、私はその間に収まった。
いや、近過ぎる。
私との身長差がある為、顔を突き合わせる事は無いが、ローレンス様の胸が私の鼻に当たりそうだ。
そして、香水の匂いなのだろうか。
爽やかで、少しスパイシーな香りがする。
・・・なんだか、安心するな。
一瞬、任務中である事を忘れそうになってしまった。
すると、ローレンス様が少し屈み、鼻先を私の頭に近づけてきたのだ。
え?なに!?
「ローレンス様、一体、何をしているんですか?」
私は小声で問い掛けると・・・。
「・・・。
いや、良い香りがすると思って。思わず確かめてしまった」
その言葉に、私は何と答えて良いのか、分からなかったのである。
だって、自分もローレンス様の匂いを嗅いでしまったのだから・・・。
すると、階段から降りて来る音と共に、話し声が聞こえて来たのだ。
「本当にダントン伯爵のお陰です。感謝してもしきれません」
「そうだな。
そう思うのなら、今以上に頑張ってくれ。
今日のも、上手く捌くんだぞ」
そう言って、エントランス方面へと向かって行ったのであった。
こんな夜更けに、しかも別邸で密会しているのだ。
やはり、ダントン伯爵が関わっている事は間違いない。
そう考えていると、呼び出しの魔石が震えた。
きっと、ヴィンセルが執務室を見つけたに違いない。
「ローレンス様、ヴィンセルが執務室を見つけたようです」
と話すと同時に、抱きしめられたのだ。
!?
「ロ、ロロロロ、ローレンス、様?
あ、あの、えっと、どうしました?」
しどろもどろで聞き返す私に『悪い。抱きしめたくなった』と言うではないか。
しかも、私の頭に頬擦りまでしている。
この短い時間に、どんな心境の変化があったというのだ。
私は、異性に抱きしめられる事のドキドキと、女とバレるのではないか、というドキドキに苛まれたのであったのだが・・・。
・・・ん?
・・・あれ??
と言うか、今の私は男だ。
男同士で、恋人のような抱擁をするのだろうか?
「あの、私は男ですが」
「知っている。だが、そんな事は関係ないんだ」
そう言って少し離れてから目を合わせてきた。
えっと、ローレンス様は。男が好き?と言う事か?
これは、知ってはいけない事を、知ってしまったのではないか?
私は『あの、ここは狭いので、出ましょうか』と言い、気付かないフリをしたのである。
その後は、ヴィンセルと合流をして、ダントン伯爵とのやり取りの記録を魔石に残す事に成功した。
そして帰りに、乱雑に置かれていた紛い物の魔石を数個頂戴してから撤退したのである。
初めての潜入調査にしては、上手く行ったと言ってもいいほどの収穫があった。
そして、帰り道
ヴィンセルは寄るところがあると言い、私達2人を残して先に行ってしまった。
さっきの事がある為、少し気まずいが『では、私達も、帰りましょうか』と声を掛けたのだ。
すると・・・。
「アレンは、俺の事をどう思う?」
やっぱり、気付かないフリは出来そうもない。
それと、一人称が変わってないか?
そう思い隣を見上げると、ローレンス様の赤い瞳が、私を真剣に見ていた。
「私は、ローレンス様を自分が仕える主だと思っておりますよ」
そうとしか答えられない。
だって、私は女なのだ。
男の私が好きなローレンス様には、どうやったって応えられない。
私の言葉を聞いたローレンス様が、赤い瞳を一度伏せてから、再度口を開いたのである。
「アレンが私の生きる理由なんだ。だから、恋心でなくても構わないから、傍に居ることを許してくれないだろうか」
想像を絶する言葉に唖然としてしまう。
生きる理由って相当だ。
とても、無下にしていい気持ちではない。
だから私は、正直に答えたのだ。
「専属でいる限りは、ずっと、お傍におります」と。
するとローレンス様は『今はそれで良い』と言い、王宮へと歩き出したのであった。




