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1週間が過ぎ、今日から王子の部屋にある一室で暮らす事になる私は、朝から挨拶をしに来た。
実は、荷物の搬入をレノンさんが手配してくれたおかげで、1日で終わったのである。
そして、この1週間は特殊部隊の仕事があり、王子と会うのは先日の挨拶以来だ。
やはり、王族と会うのは緊張する。
それに、今日から四六時中、一緒にいる事になるのだ。
部屋は別だとしても、同じ空間にいる事になるのだから、気が休まらないだろう。
私は深呼吸をして扉をノックした。
すると、レノンさんが扉を開けて、中へと招いてくれたのだ。
そのまま、王子の部屋へと案内されると、椅子に座り、コチラを見ている王子が居た。
「朝早くから失礼致します。
本日から、どうぞ宜しくお願い致します」
そう話してから頭を下げている私に、王子が口を開いたのである。
「こちらこそ宜しく頼む。顔を上げてくれ」
その言葉に顔を上げると、真っ赤な瞳と目が合った。
そして、王子は微笑み『私をローレンスと呼べ』と言った、その時。
ガチャ、バシャン!
と何かが落ちる音がして振り返ると、レノンさんの足元にはティーカップが転がっており、床にシミが出来ていた。
「し、失礼しました。すぐに片付けます」
と、そう言って素早く片付け、雑巾を取りに外へと行ってしまったのだった。
部屋には、私と王子の2人きり。
どうしていいのか分からず、立ったままで居ると、王子が『ここに座ると良い』と言い、目の前の椅子を勧めてくる。
だが、私は護衛も兼ねているのだ。
座ったら、いざ何かあった時に対処が出来ない。
「王子殿下、私は護衛も兼ねております。
ですので、座る事は許されておりません」
「ローレンスだ。
それに、私が許すのだから誰も文句は言うまい」
そう言って、再度勧めてくる。
だから私は、おずおずと腰掛けたのだった。
すると、王子は嬉しそうに笑い『君の事を知りたいのだ』と言ったのである。
その言葉に、私の心臓は跳ねた。
もしや、女だとバレているのではないか?
もしバレていたら、どうなるのだろうか・・・。
良くて辞職。
悪いと・・・・・・処刑?
そう思ったら、冷や汗が止まらない。
ドキドキして言葉に詰まっていると、王子が再び話し始めた。
「アレンにも、私の事を知って欲しいのだ。
だから毎日、こうやって会話の時間を設けよう」
そう言って両手を組み、こちらをジッと見つめている。
・・・これは、私のは早とちりだったのか?
唾をゴクリ飲み込み『あの、私で本当に良いのでしょうか?』と問い掛けてみたのだ。
すると、王子は一度目を閉じてから話し始めたのである。
「アレンだけが、美しく見えるんだ」
・・・ん?
どう言う意味だ?
「あの、美しいとは?」
「ああ、そうか。
話していなかったな。
私は、全てのものが灰色に見えるんだ。
だが、アレン。
君だけが、私の中で色付いて見えるんだよ」
そう言って微笑み『君だけが、特別なんだ』と言う。
どう返していいのか分からず『そうなんですね。答えて頂き、ありがとうございます』としか言えなかった。
そうして、今日の勤務時間が終わり、隣の部屋へと帰る。
まだ荷解きをしていない為、ダンボールが乱雑に置かれていた。
私は早速風呂へ行こうと思い準備をする事にしたのだ。
箱の中をガサゴソと探していたら、師匠へと書いた手紙が手に触れた。
・・・師匠の事が気になる。
そして、騎士になる前、最後に会った日を思い出した。
「アレンシア、お前はもう大丈夫だ。
だから自信を持て!何たって、俺が教えたんだからな!」
私の髪を切りながら自信満々に言う師匠に『師匠のお陰です。本当にありがとうございました』と心から伝えたのだ。
「今日は随分と素直だな。
まぁ、これが別れじゃない。
また、いずれ会えるからな。
だから、そう、泣く事はない」
そう言って、私のサッパリとした頭をグリグリと撫でたのである。
涙が私の膝上にポタポタとシミを作っていた。
そんな風に泣く私に『ほら!さっさと立て!片付けられないだろ?それと、髪の毛で付け毛を作るんだぞ。でないと、実家に帰れないからな』とそう言って、髪の毛を押し付けてきたのだ。
・・・なんだろう。
泣いている自分が、馬鹿みたいではないか。
私は、涙を拭ってから髪の毛を受け取り、袋へと仕舞う。
すると師匠は手紙を一通渡して来たのだ。
「これは、試験官に渡せ。
中は見るんじゃないぞ!分かったな?」
受け取った手紙を懐へとしまい『分かりました』と頷いたのだ。
そして、立ち上がり、笑顔で伝えた。
「では、行ってきます」と。
師匠は引っ越すとは言ってなかったし、また会えるとも言っていたのだ。
それに、師匠は出来ない約束をする人ではない。
それは、私が一番よく知っている。
やっぱり何かあったのかもしれない。
でも、今の状況だと、当分は実家へと帰れそうもない。
そうだ!屋台のおっちゃんに聞いてみるか。
そう思いついた私は、まだ返信がない、おっちゃんへと追加で手紙を書く事を決めたのだった。
そして、風呂の準備が整い部屋を出ると、王子から声を掛けられたのである。
「アレン」
「!?
どうなさいました?」
「湯殿に行くのなら、ここのを使えばいい。
別棟は距離があるからな」
と、何でもない事のように言う。
いやいや、王族と同じ風呂を使う事など考えられない。
「あの、王子殿ーー「ローレンスだ」」
・・・・・・。
「ローレンス様?ご提案頂き、大変有難いのですが、流石にそれは難しい事かと。
なので、遠くても別棟へと行って参ります」
そう言い切り『御前、失礼致します』と部屋を出たのであった。




