ローレンス視点
今日は特殊部隊に配属された新人の紹介がある為、兄上の執務室へと来ている。
兄上と二人で横並びの椅子に腰掛けて待っていると、特殊部隊の副団長と配属された新人騎士がやって来た。
特殊部隊は兄上が良く活用しているが、俺は使った事がない。
だから、この場にいる必要はないと思うのだ。
早く終わる事を願い、手を握り床を見ながら思い悩む。
昨日、彼の配属先を調べようとして気が付いた事があるのだ。
・・・俺は彼の名を知らない。
と言う初歩的なミスを犯していた事に。
初恋に溺れ、迂闊にも名前を調べる事にさえ注意を払えていなかったのだ。
以前の俺では、まず考えられない。
残念すぎて、本当に自分自身の事なのかと疑いたくなる。
そして先程から兄上が、何やら副団長と話しているが、それどころでは無いのだ!
これ以上、間抜けな自分を知りたくはない。
と、そう思っていると・・・。
・・・うん?・・・・なんだ?
下を向いている俺の頭に、視線を感じたので顔を上げた・・・。
すると、彼がいたのだ。
だが、俺と目が合う事なく、逸らされたのには、少し傷ついてしまう。
・・・いや。今は、そんな事どうでもいい。
それよりも特殊部隊、だと?
【特殊部隊】
王宮の警備をする事が仕事内容となっているが、それは世間一般に対する表の顔なのだ。
実際、その任務は多岐にわたる。
情報収集や情報操作、はたまた暗殺など、彼等は戦を未然に防ぐ為、王家の影として動いているのだ。
まさか、彼が特殊部隊に選ばれるとは考えてもいなかった。
他の騎士とは違い、単独で潜入調査や暗殺を行う彼等は、生命の危機に晒される事も多い。
選ばれる者は、何かに特化して、自衛が出来る事を条件に選定されている。
だから、彼も何かに秀でていて優秀な人材なのだろう。
だが、それとこれとは別だ。
もし彼に何かあったら、生きていけない俺は、居ても立っても居られなくなった。
椅子から立ち上がり、兄上を見つめ口を開く。
「兄上。お願いがあります!
彼を俺に付けてくれませんか?」
兄上は、そんな必死な俺を見て、目が点になっている。
だが、すぐに気持ちを立て直したのか、こちらを向き、問いかけて来たのだ。
「どっちをだ?」
「赤い髪の彼です!」
その言葉で、兄上は気付いたのだろう。
口に手を当て、乙女のように息を呑んでいる。
兄上は馬鹿じゃない。
それに点と点の情報を繋げて、真実を見極めるのが得意だ。
俺の今までの行動と、全ての色が灰色にしか見えない事を知っている兄上は、俺が彼に特別な感情を持っていると分かったはずだ。
兄上は、まだ立ち直れないのか、先程と同じ体勢のまま、動こうとしない。
現実を受け止めたくないのだろう。
だから、俺は兄上から彼に視線を向けた。
彼は俺の言動の理由を探っているのか、目を見開きコチラを凝視している。
彼と、こんな間近で目が合うのは2回目だな。
と、物思いに浸っていたら兄上が復活した。
「ローレンス・・・。
ま、まさか、そんな筈、は、ない、よな?
・・・いや、待て!
やっぱり、まだ答えなくて良い!」
まだ認めたくないのか、左手で顔を覆い右手を振っている。
兄上が挙動不審だ。
余程、動揺したと見える。
まぁ、俺も認めるのに時間を要したからな。
と、そんな風に他人事のように思っていたら、少し落ち着いたのか、兄上が再度口を開いた。
「はぁ、ローレンス。
その話は今度しよう。
・・・では、話を戻す。
君達は王家の影の任務を行なってもらう。
表向きは王宮警備なので、仕事内容を口外しないように。
それと、其方の彼には、追って連絡をするので、よろしく頼む」
そして、俺と兄上以外が退出して行った。
「兄上、先程の件ですが——「待て待て待て!!」」
「ローレンス、今日は心の具合が悪いので、これ以上は無理だ。
・・・少し、時間をくれ」
そう言って、ヨロヨロと退室して行ったのだった。
・・・大丈夫だろうか?
ここは兄上の執務室なのに、いったい何処へ向かったのだろう。
そして、俺もここに一人で居ても仕方がないので、退出する事にした。
後日、心が回復したレオナードに、全てを包み隠さず話したローレンス。
またしても、心の具合が悪くなってきた兄を見て、勝機とばかりに、畳み掛けるローレンスが、放った一撃。
『彼がいないと生きられない!』と言う言葉と熱意に押され、心がポッキリと折れてしまったレオナードだった。
そして、情熱的なローレンスの話を聞くうちに、段々と(私の考え方が、古いのではないか?)
と思うようになってきたのだ。
最後には(男が好きでも良いじゃないか!
人として大事な者が出来たのだ。
兄として祝福してあげないなんて、出来ない。
ローレンスが楽しく、幸せに生きてくれれば、私は大満足だ!)
と満ち足りた気持ちになったのであった。
レオナードにゴリ押しして、そう思い込ませる事に成功したローレンスは、コッソリとほくそ笑んだのである。




