ローレンス視点
あれから、彼と仲良くなる為には、どうすればいいのかをずっと考えているのだが、どう接点を持てば良いのかが分からない。
前回は無意識に腕を掴むという失態をしているので余計にだ。
だから今出来る事は、もう少し物理的に近づいて観察する事しか、思い浮かばなかったのである。
そして、今日から彼は騎馬隊の訓練だ。
いつもは執務室で待機しているのだが、既に厩舎の木陰で待機中だ。
近くて良いポジションを探さなくてはいけないからな。
この間の木陰より、10メートル程、厩舎に近い木を探してスタンバイしていると、騎士達がやって来たのだった。
初日の為、馬との触れ合いから始めるらしい。
彼は馬の顔に触れ、何かを優しく語りかけている。
俺は、その光景に唖然とした。
女神が戯れているかのように美しい・・・。
・・・いや、彼は男だ。
だから、男神・・・か?
・・・大分、受け取り方が変わってしまうな。
と、そんなどうでも良い事が、脳内を駆けずり回る。
やはり、頑張って近い場所を探してよかった。
この調子で少しずつ、距離を詰めていければ、いつか、俺にも笑いかけてくれるだろう。
こうしてローレンスは、物理的な近距離作戦に出たのであった。
彼は、これがストーカーだとは、もちろん気付いていない。
そもそも、ストーカーの概念すら存在しているのかは、怪しいところだ。
今日もバッチリ観察ができて、満足げに執務室へ帰ろうと歩いていると『何をやっている!もっと右だ!』と兄上の声が聞こえてきた。
目を向けると、虫取り網を片手に、木に登る従者達へと指示を出している。
・・・何をやってるんだ?
俺は遠目から兄上の様子を見る。
すると、兄上本人が木に登りだしたではないか。
後ろから見ると、何とも間抜けな格好で木によじ登っていく。
俺は、見てはいけない物を見てしまったと思い、静かにその場を後にしたのだった。
兄上が、いい歳をして、虫取りに興味を持つなんて・・・。
現実逃避をしたくなるような、何か大変な事に、ぶち当たったのかもしれない。
俺は少しショックを受けながら、執務室へと戻ったのであった。
【レノン視点】
最近、ローレンス様の様子が、すごくおかしいのです。
窓に乗り出す事が日常と化すなんて、今まででは考えられませんでした。
それに、いくら止めても聞かないので、手摺をつける事になったのは、記憶に新しい出来事です。
そして今日も、執務中にいきなり立ち上がり『散歩』と言うではないですか。
散歩なんて、今までした事がなかったのに・・・。
やはり、何かがローレンス様に取り憑いているのではないか?と気が気ではないのです。
私は心配になり、追いかけようとしたら、向こうからレオナード殿下が虫取り網を片手に、ゾロゾロと従者を引き連れて行きます。
私は気になり、耳を澄ませると、レオナード殿下の声が聞こえてきました。
「ローレンスが鳥を欲しているのだ!
皆、良く聞け。
ローレンスは、今も鳥を求めては、窓の外を眺めている。
心の安寧の為にも、鳥を捕まえ、部屋で飼えるようにしようと思うのだ」
とそう言い、ゾロゾロと去っていきました。
・・・・・・。
知らなかった。
まさか、鳥に心を奪われていたなんて。
こんなにも近くに居たのに、何一つ見えていなかった自分の未熟さに落胆したのです。
・・・では今も、鳥を求めて散歩に行かれているのでしょうか。
・・・なんと、健気な!
私の心は最大級に震えました。
取り憑かれているなんて言った、私の馬鹿さ加減に、自分の頭を叩きたくなります。
それから私は、レオナード殿下が、鳥を捕まえられる事を祈ると共に、ローレンス様が帰ってきた時に、少しでも心癒されればと思い、レオナード殿下から頂いた本を、執務机の上へ、そっと広げて置いたのでした。




