ローレンス視点
今日は休みの為、彼を観察する事が出来ない。
早く明日にならないかと思いながら自室でぼんやりとしていた。
すると・・・。
「ローレンス、入るぞ」
ノックも無く入って来たのは兄上だった。
片手には何やら本を持っている。
また何か分からない事でもあったのだろうか。
そう思い、ニヤニヤしながら近づいて来る兄上をボーっと見ていた。
「ローレンス喜べ。
今日はな、プレゼントがあるんだ!」
そう言って差し出して来たのは鳥の本だった。
・・・・・・。
これの、どこに喜べる要素があるのだろうか・・・。
よく分からないが、兄上がプレゼントしてくれたのだ、パラパラと捲って内容を確認する。
だが、鳥の絵が描かれているだけだった。
「どうだ?嬉しいか?」
俺は何と言って良いか分からず、首を傾げて兄上を見遣る。
そんな俺を見た兄上は、ブツブツと独り言を呟き『また出直す。邪魔したな』と退出して行った。
一体、何だったのだろう。
それに、この本はどうすればいいのか・・・。
考えても分からないので、考える事自体を止めたのだった。
そうして待ちに待った次の日となった。
騎士達が出勤してくる時間に執務室へと行き、窓を開けて待機する。
「最近のローレンス様は、時折、楽しそうで何よりです。お仕事に精を出して頂いて、私も嬉しく思います」
レノンは、またしても的外れな事を言っている。
仕事に精を出した覚えはない。
だが、訂正すると後々面倒なので、肯定も否定もせずに書類を黙々と捌いていくのであった。
そして威勢の良い声が聞こえてきたら、いつものように引き出しからオペラグラスを取り出し、窓から身を乗り出して外を見る。
最初の頃は、レノンに危ないから止めろと言われたが、言っても止めない俺に、匙を投げたようで、今は何も言わなくなった。
その代わりに、妥協案が出されたのだ。
窓に手摺を付ける事にすると言う。
それは俺にとっても有難い。
掴まる所があれば、もっと乗り出せるからな。
さて、今日の彼も美しいのだろうか。
そう思い、オペラグラスを覗き込むが見当たらない。
・・・そうか。
今日から違う場所での訓練か。
失念していたな。
・・・探さなくては。
「レノン、散歩に行って来る」
「少々お待ちください。お供致します」
「いや、いい。場内から出ないので大丈夫だ」
レノンが追いかけて来る前に、執務室を後にしたのだった。
先週は訓練場だったから、厩舎か弓場だろう。
オペラグラスを片手に握り締めてズンズンと厩舎へと向かう。
厩舎近くの木陰からオペラグラスで様子を窺うが、彼は見当たらなかった。
・・・よし、次へ行くか。
と思い、オペラグラスから目を離そうとした、その時。
「これはたまげた!
ローレンス殿下ではありませんか。再びお目にかかれて光栄です。
して、一体このような場所で、何をご覧になっているのですか?」
面倒な・・・。
振り向くと、ダントン伯爵の姿があった。
肥えた腹回りと、既に禿げ上がっているのにも関わらず、無理に隠そうとして、後ろの髪の毛を前に持ってきている。
いっそ隠さない方が清々しい。
前回会った時と変わらない姿が、そこにはあったのだ。
先日、兄上に脱税の件を伝えたのだが、まだ処分は下していないのだろう。
理由があって泳がせているのかもしれない。
・・・ここで、俺が何か言うのは得策ではないな。
「ダントン伯爵か。
久しいな。伯爵こそ、何故このような場所へ?」
「はい。本日レオナード殿下より召集がございまして、その帰りなのです。
歩いていたら、騎士達の声が聞こえてきたものですから、少し見学をしてから下城しようと思いまして」
兄上は、やはり何か動いているようだな。
「そうか。
・・・して、兄からの用件は何だったのだ?」
「はい。税収の件です。
いやはや、去年は我が領地が干ばつの為、見込みより収穫が減ってしまいましてな。
本当に参りました。
ですが、レオナード殿下も納得していただけましたので、幸いでございます」
これは真っ赤なウソだ。
俺は見聞きした事は全て記憶しているが、ダントン伯爵領地での干ばつは起こっていない。
もちろん、その事は兄上にも伝えてある。
・・・何処に金が流れたのか。
まぁ、そのあたりは兄上が調べるだろう。
「そうか。良かったな。
では、私は急ぐ為、失礼する」
そうしてローレンスは、自分が何をしていたのかをうやむやにして、その場を去ったのであった。
思ったよりも時間がかかったな。
急ぎ足で弓場へと向かった。
弓場付近は訓練場に近い為、見晴らしの良い、手入れされた草地だ。
彼に見つからないようにと、細心の注意を払い茂みへと隠れる。
そうして、オペラグラスを覗くと、彼がいた。
・・・あぁ、やっと会えた。
たった1日会えなかっただけで、この喪失感なのだ。
もう彼がいないと生きていけないのではないか?
そう考える自分に背筋が寒くなる。
日が経つにつれ、重症化しているではないか。
こんな感情があるなんて知らなかった。
それにしても、彼の赤い髪が草地に映えてとても綺麗だ。
出来れば顔を見せてくれないだろうか。
とその時、彼が振り向きオペラグラス越しに目が合った。
俺の念が届いたのだろうか。
意志の強いコバルトブルーの瞳がジッとこちらを見ている。
俺は気付かれまいと少し体勢を低くし、茂みの中に身体を隠してやり過ごしたのだ。
すると、隣の男が彼に話しかけている。
・・・なんだ?あいつ。
とその時、彼が男に微笑みかけたのである。
・・・・・・。
ショックだった。
初めて見た彼の笑顔は、この世の者ではないと思うくらいに神々しく、美麗過ぎて直視が出来ない。
彼のそんな顔を引き出せるあの男に嫉妬した。
こんなに何かを憎いと思ったのも初めてで、この気持ちをどう消化していいのかも分からない。
俺は居た堪れなくなり、逃げるように、その場を去ったのだった。
やはり、観察だけではダメだ。
俺も彼に微笑みかけて欲しい。
仲良くなるには、どうすればいいのかを考えなければ・・・。
そう思いながら、レノンが待つ執務室へと帰るのであった。




