第9話:幕末海援隊ラジオで薩長同盟をデバッグ!
「……サトウ、おまんの言う通りぜよ。薩摩も長州も、お互いの『ログ』が見えんきに、疑い合うてばかりぜよ」
京都の一角。坂本龍馬は、サトウが真空管(の代用品)を組み合わせて作り上げた無骨な機械――「海援隊式・全土放送機」の前で、ガチガチと歯を鳴らしながら呟いた。
彼の手には、重曹を倍増させ、喉を刺すような刺激を追求した**『リョーマ・エナジー v0.5(強炭酸・β版)』**が握られている。
「情報は同期させなければ腐ります。薩摩が何を思い、長州が何を恐れているか。それをリアルタイムでブロードキャスト(一斉放送)すれば、密約なんていう非効率なバグは消滅します」
サトウは調整ダイヤルを回した。
幕末というオフラインの世界に、初めて「同時性」という概念が持ち込まれる。
「坂本さん、燃料を。……これから、日本中の耳をハックします」
「おう、わかっちゅう……! ぶはぁっ!! 喉が、喉が爆発しちゅうぜよ!!」
龍馬はv0.5を一気に飲み干した。
あまりの強炭酸に涙を流しながらも、カフェインの暴力的な覚醒により、彼の思考速度はピークに達する。
彼はマイク(鯨の髭と電磁石の自作)に向き直り、狂気すら孕んだ笑顔で喋り始めた。
『――夜明けぜよ! 薩摩の西郷、聴きゆうか! 長州の木戸、おんしゃあもぜよ! 今からわしが、この日本の仕様書を読み上げるきに、耳の穴デバッグして聴けよ!』
京、大阪、そして遠く離れた薩摩や長州の各藩邸に設置された受信機から、龍馬の怒鳴り声が響き渡る。
当初は「天の神の声」と恐れていた志士たちも、龍馬が語る圧倒的なロジック――サトウが整理した「薩長が手を組んだ際のメリット(報酬系)」の話に、次第に引き込まれていった。
「サトウ、あいつら……返信がねえぜよ。反応が遅すぎる!」
「落ち着いてください、坂本さん。あちらはまだアナログ人間です。……よし、西郷さんの屋敷から『続きを聴かせろ』と伝令(物理ACK)が来ました。同期完了です」
龍馬は二本目のv0.5を煽り、さらに加速した。
彼はラジオを通じて、両藩のわだかまりを一つずつ「論破」ではなく「デバッグ」していく。過去の遺恨という名の不要なデータを削除し、未来の共通目標という名のプログラムを上書きしていく。
数時間後。放送を聴き終えた西郷隆盛は、呆然と空を見上げていた。
「坂本の声が……耳から離れん。あんな熱量で、あんなに理詰めで語られたら……もう、組むしかごわんせん」
こうして、歴史上最も困難と言われた薩長同盟は、たった一晩の「深夜ラジオ番組」によって成立した。
サトウは、狂ったようにマイクに叫び続ける龍馬の横で、静かにエナドリの空き瓶を片付けた。
「お疲れ様です、坂本さん。これで情報のラグというバグは、この国から消え始めました」
「サトウ……次、次ぜよ。もっと、もっと『シュワシュワ』を強くしてくれ……。わし、この泡の刺激がないと、もうマイクの前で喋れん身体になっちゅうぜよ……」
龍馬の瞳には、もはや現代の配信者のような、奇妙な高揚感が宿っていた。
○○大百科:幕末海援隊ラジオ
幕末海援隊ラジオとは、坂本龍馬をメインパーソナリティに据えた、世界最古の公共放送である。
概要
サトウが「通信レイテンシの解消」を目的に開発。京都を中心とした広範囲に電波を飛ばし、政治的交渉を「一対一の密談」から「リスナー全員への公開デバッグ」へと変貌させた。
名物番組
『坂本龍馬のオールナイト・バクマツ』
『西郷隆盛のハガキ職人への道(※後に西郷が放送にハマり、偽名でネタ投稿を始めたことから)』
エナドリの進化
v0.5(強炭酸・β版)。龍馬が「喉の中で侍が合戦しちゅう」と評したほどの刺激。これが現代の『リョーマ・エナジー』の代名詞である「喉越し」の原点。




