第5話:黒船を煽り運転でデバッグするぜよ!
「サトウ、あれが……『バグの塊』かえ」
浦賀沖。坂本龍馬は、水平線の向こう側に鎮座する巨大な黒い影――ペリー率いる黒船艦隊を睨みつけながら、手元のフラスコを愛おしそうに撫でた。
今日の相棒は、サトウが茶葉の煮出し時間を限界まで延長し、高麗人参のエキスを強引にブレンドした**『リョーマ・エナジー v0.05(ブースト版)』**だ。もはや色は漆黒に近く、フラスコからは微かに「パチパチ」と静電気が弾けるような音がしている(気がする)。
「ええ。巨大で、鈍重で、一方的に通信を押し付けてくる。プロトコルを無視した最悪のスパムですよ」
サトウは、砂浜に係留された一艘の小舟を指差した。
見た目はただの和船だが、その内部にはサトウが「廃材」で組み上げた超高回転型蒸気エンジンが搭載されている。サトウ曰く、この時代の物理法則の冗長な部分を削ぎ落とし、最短ルートで出力を稼ぐ「最適化」を施したシロモノだ。
「坂本さん。相手の土俵で議論する必要はありません。まずは、あいつらの処理能力を圧倒して、システムをフリーズさせましょう。――燃料、いけますか?」
「……フフ、聞くまでもないぜよ」
龍馬は迷わずv0.05を喉に叩き込んだ。
生姜の辛みに人参の土臭さ、そして致死量寸前のカフェインが神経を直接蹂躙する。
「……っ!! 脳が、沸騰しちゅう! 血管の中を稲妻が走り抜けちゅうぜよ! サトウ、舵を貸せ! 日本の夜明けの『表示速度』を見せつけてやるぜよ!」
龍馬がエンジンを始動させた瞬間、小舟は和船の概念を置き去りにした加速度で水面を滑り出した。
――ッバァァァン!!
衝撃波で水飛沫を上げ、時速100キロを優に超える速度で黒船の周囲を旋回し始める。
黒船『サスケハナ号』の甲板では、ペリー提督がコーヒーカップを落として絶叫していた。
「オーマイガー! あの小型艇は何だ!? 蒸気の魔物か!? 我が艦隊の計算尺では、あの速度は説明がつかん! 物理の理が歪んでいるのか!?」
龍馬は、黒船の舷すれすれを猛スピードで通り過ぎる際、万年筆で大きく書いた紙を掲げた。
『おんしゃあ、遅すぎぜよ!(Low Latency required)』
黒船が慌てて砲塔を向けようとするが、龍馬の船はすでにその背後に回り込んでいる。
一秒間に黒船を三周半。まさに情報の波が脆弱なサーバーを蹂躙するように、龍馬はペリーの「威信」を物理的な速度差で完膚なきまでに叩き潰していく。
「サトウ! 楽しいぜよ! 奴ら、動きが止まって見えるがよ! 視界のフレームレートが上がりすぎて、風の形が見えるぜよ!」
「それが『速度の暴力』です、坂本さん。……さあ、仕上げにこれを一発。エラーメッセージを送ってやりましょう」
サトウが取り出したのは、火薬ではなく「高圧ガス」を用いた信号弾だった。
空高く打ち上がった光は、ペリーの瞳に「不可解なまでの圧倒的技術格差」を焼き付けた。
数時間後、ペリーは震える手で日記に記した。
『日本には、一人の狂った速度の男と、人知を超えた賢者がいる。彼らの前では、我が国の最新鋭艦もただの木屑に過ぎない。この東洋の島国は、我々が知る文明の順序を飛び越えてしまっている……』
砂浜に戻った龍馬は、空になったフラスコをガチガチと鳴る歯で噛み締めながら、まだ震える指先で次の書状を書き始めていた。
「サトウ……次、次のパッチを……。まだ、世界が遅すぎてイライラするぜよ……!」
エナドリジャンキーの目は、もはや人間が到達できない領域の輝きを放っていた。
○○大百科:黒船煽り運転事件
黒船煽り運転事件とは、幕末の国防における「最大かつ最速のオーバーキル」である。
概要
ペリーの黒船来航に対し、坂本龍馬がサトウ設計の超高速艇「リョーマ号」で挑んだ防衛戦。大砲を撃つのではなく、「相手の周りをひたすら超高速で回る」という精神攻撃により、ペリーに「自分たちの文明が旧式である」ことを痛感させた。
エナドリの効果
この時龍馬が摂取したv0.05は、あまりの副作用に「三日間、龍馬の周囲だけ時間が加速して見えた」という都市伝説を生んだ。
功績
ペリーを「トラウマによる早期撤退」に追い込み、日本側に圧倒的有利な条件を引き出した。これにより日本は「不平等条約」というバグを未然に回避することに成功する。




