第3話:万年筆無双!十倍速で幕府をデバッグするぜよ!
「……サトウ、おまんの言う通りぜよ。筆と墨は、あまりにも『重い』」
京都、薩摩藩邸の一室。坂本龍馬は、サトウが差し出した万年筆のペン先を凝視しながら、低く掠れた声で呟いた。
彼の前には、山のように積まれた真っ白な紙。そしてその横には、サトウが「デバッグ中」のラベルを貼った、怪しげな茶褐色の液体が入ったフラスコが置かれている。
「気づきましたか。墨を磨り、筆を整え、一文字ずつ丁寧に『描く』。それは芸術としては正解ですが、情報のパケット送信(伝達)としては致命的な欠陥です」
サトウは無表情に、だが確信を持って告げた。
この時代の政治は、あまりにも情報の往復が遅い。一通の書状を書き、飛脚が走り、相手が読み、また返事を書く。その間に、世界は刻一刻と変化しているのだ。
「今の日本に必要なのは、綺麗な文字じゃありません。圧倒的な『物量』と『速度』です。坂本さん、まずはその……試作品を。キレ(刺激)は保証します」
龍馬は迷うことなくフラスコを掴んだ。
今回の試作品**『リョーマ・エナジー v0.01』**。
サトウが土佐の生姜を極限まで濃縮し、蜂蜜で無理やり甘みをつけ、そこに茶葉から特殊な製法で抽出した「純粋なカフェイン」を致死量(SEの感覚)手前までぶち込んだ代物だ。
龍馬はそれを一気に煽った。
「……っ!! ぐ、ふぅ……っ!!」
龍馬の全身の毛が逆立ち、机を叩く指が小さく痙攣する。
劇薬じみた生姜の辛みと、神経を直接殴りつけるようなカフェインの衝撃。
「……これぜよ。これがないと、もう思考の同期が間に合わんぜよ!」
龍馬はギラついた瞳で万年筆を握り直すと、紙の上で「爆走」を始めた。
ガリガリ、ガリガリガリ!
静かな部屋に、ペン先が紙を削るような異様な音が響き渡る。
サトウの目には、龍馬の指先が残像を伴って動いているように見えた。
通常の十倍。いや、エナドリのブーストがかかった今の彼は、それ以上の速度で「情報」を紙に定着させていく。
一通、二通、十通――。
薩摩の西郷、長州の木戸、果ては幕府の中枢まで。龍馬はそれぞれの思考の穴を突き、自分たちの仕様(構想)へ書き換えるためのパッチを、猛烈な勢いで量産していく。
「坂本さん、行間を空けてください。後で相手が反論してきた際、そこに追記(パッチ適用)しやすくするためです」
「おう! わかっちゅうぜよ! 次から次へと、言葉が溢れて止まらんがよ!」
龍馬は左手で二本目のフラスコ(予備)を探りながら、右手は一度も止めない。
もはや書状を書いているというより、幕府という名の巨大なサーバーに「同時多発スパム(書状量産)」を仕掛けているに近い。
数日後。
江戸、老中・板倉勝静の元には、一日に数百通という異常な数の坂本龍馬からの書状が届いていた。
「……また坂本か! 奴は一体、何本の腕があるというのだ! 読み切れるわけがなかろう!」
幕府の受付窓口は完全にオーバーフローした。
情報の物量攻撃の前に、旧態依然とした官僚機構は機能不全に陥る。
万年筆という「最強のペン」と、エナドリという「禁断の燃料」を手に入れた一人の男が、物理的に幕府のシステムをパンクさせていた。
「サトウ……次ぜよ。次の汁を出せ。まだ、刺激が足りん……日本中の脳みそをデバッグするには、もっと、もっと熱いのが必要なぜよ!」
空になったフラスコを放り投げ、血走った目で笑う龍馬。
サトウはその姿に、少しだけ「やりすぎたか?」というエンジニア特有の良心の呵責を感じたが、すぐにそれを「仕様」として処理した。
「承知いたしました。次は……『炭酸』の実装を試みます」
○○大百科:リョーマ・エナジー v0.01
リョーマ・エナジー v0.01とは、人類史上初の「エナジードリンク」のプロトタイプである。
概要
謎の人物・サトウが幕末の素材だけで「聖なる赤缶」の覚醒作用を再現しようとした試作品。
主成分は生姜、蜂蜜、そして異常な濃度のカフェイン。
当時の記録では、あまりの辛さに「飲んだ瞬間に声が裏返るが、直後に目が百合の紋章(あるいは牛)のように開く」と言われた。
ジャンキー・エピソード
龍馬はこの試作段階から既に「これがないと手が震えて万年筆が握れん」と漏らしていたという説がある。後のリョーマ・エナジー信者(マヨラー兼任)からは「原点にして頂点の劇薬」として神格化されている。
功績
幕府の官僚機構に対し、物理的な書状の物量による「DDos攻撃(書状スパム)」を成功させた。




