第15話:大政奉還を物理プッシュ通知で実装するぜよ!
「サトウ……慶喜の公が、まだ『検討中』という名の無限ループに陥っちゅうぜよ」
京都、二条城のすぐ近く。坂本龍馬は、サトウが設計した蒸気機関搭載型・超高速移動体**『リョーマカー』の運転席で、激しい振動に身を任せながら叫んだ。
彼の手には、完成版のリョーマ・エナジーをさらに煮詰め、カフェインの結晶が浮き出ている禁断の『オーバークロック版』**が握られている。
「政治家の『検討』は、プログラムで言えば処理の停止と同じです。まずは、外部から『物理プッシュ通知』を送り、強制的に意識をこちらへ向けさせましょう」
サトウは、二条城の屋根裏や床下に、事前に「仕込み」を済ませていた。
それは、微弱な蒸気圧で動く真鍮製の極小ベルと、高音の笛を組み合わせた装置だ。
「坂本さん、第一段階、通知開始です」
深夜の二条城。静寂の中に、突如として**「音の暴力」**が響き始めた。
サトウが蒸気の弁を微調整し、現代の通知音を物理的にサンプリングした音色が、城内の反響を利用して慶喜の寝所に降り注ぐ。
『――ピコン!』
『――ピココン!!』
高純度の真鍮が奏でる、無機質で、それでいて強烈に神経を逆撫でする「あの音」だ。
さらにサトウは、蓄音機の原理を応用した針が円盤を弾く仕掛けで、龍馬の声を再生させた。
『ピコン! 慶喜公、進捗どうなぜよ? ピコン! 既読スルーはバグなぜよ!』
三日三晩、慶喜はこの「物理プッシュ通知」に晒され続けた。
逃げ場のない高音のアラートと、絶え間なく続く「カチ……カチ……」というタイマー音。慶喜の脳内リソースは完全に枯渇し、判断能力は限界を迎えていた。
「……坂本、いい加減にしろ……! あの『ピコン』という音を止めてくれ! 夢の中にまであの音が響いて、余の脳が壊れてしまう!」
慶喜が音を上げた瞬間、サトウはリョーマカーの点火を命じた。
「第二段階、現場急行です。通知を無視し続けた代償を、速度というスペックで見せつけます」
「おう! 既読スルーのツケを払ってもらうぜよ!!」
龍馬はオーバークロック版を飲み干し、リョーマカーのボイラー内圧を、当時の鋳鉄が耐えうる臨界点まで引き上げた。
――シュシュシュシュ、ドゴォォォォン!!
猛烈な蒸気を吐き出し、リョーマカーは二条城の正門を、馬はおろか飛脚すら捉えきれない速度で突破。慶喜の居室のすぐ前で、火花を散らして急停車した。
不眠で目の下に酷い隈を作った慶喜の前に、蒸気の霧を割って龍馬が姿を現した。
手には、サトウが書いた『大政奉還・仕様書(案)』。
「公方様、プッシュ通知は届いちょったろう? 返事は『承認』か『クラッシュ』か、どっちなぜよ?」
「ピコン」という幻聴に怯え、リョーマカーの機動力に度肝を抜かれた慶喜に、もはや抵抗するリソースは残っていなかった。
「……わかった。もう、お前たちの言う通りにする。大政奉還だ。いますぐシステムを移行させてくれ……。あの『ピコン』を、止めてくれるなら何でもする……!」
慶喜が震える手で承認の判を叩きつけた瞬間、サトウは全ての蒸気弁を閉じ、城内の仕掛けを完全停止させた。
「デバッグ完了。……お疲れ様です、坂本さん。これで日本のOSは正常に終了し、明治という名の新バージョンへと再起動が始まります」
「サトウ……最高なぜよ。嫌がらせと速度でケツを叩けば、歴史なんて一瞬で動くがやな……」
龍馬は、静寂が戻った二条城の庭で、空になったエナドリ缶を噛み締めながら、真っ白な灰のような笑顔で笑っていた。
○○大百科:物理プッシュ通知
物理プッシュ通知とは、サトウが考案した、世界で最も確実な意思決定促進システムである。
概要
対象者が「承認」のアクションを起こすまで、蒸気と真鍮ベルを用いて「ピコン!」という高周波アラートを鳴らし続ける装置。
サトウは「既読スルーという名のバグを物理的に修正する手段」と呼んだ。
リョーマカー
この通知で弱らせた対象に対し、圧倒的な技術格差を叩きつけるための移動体。蒸気機関のみで構成されているが、当時の馬が数時間かかる距離を数分で走破した。
歴史的影響
徳川慶喜はこの事件以降、高音の鐘の音を聴くたびに「坂本か!?」と飛び起きる「通知音トラウマ」を発症。これが現代日本の「スマホの通知音が鳴った瞬間に動悸がする」という現代病の起源である。




