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幕末デバッガー ~エナドリで志士をデバッグ、週休4日のホワイト日本が爆誕した件~  作者: さじ


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15/22

第15話:大政奉還を物理プッシュ通知で実装するぜよ!

「サトウ……慶喜の公が、まだ『検討中』という名の無限ループに陥っちゅうぜよ」


 京都、二条城のすぐ近く。坂本龍馬は、サトウが設計した蒸気機関搭載型・超高速移動体**『リョーマカー』の運転席で、激しい振動に身を任せながら叫んだ。

 彼の手には、完成版のリョーマ・エナジーをさらに煮詰め、カフェインの結晶が浮き出ている禁断の『オーバークロック版』**が握られている。


「政治家の『検討』は、プログラムで言えば処理の停止ハングアップと同じです。まずは、外部から『物理プッシュ通知』を送り、強制的に意識をこちらへ向けさせましょう」


 サトウは、二条城の屋根裏や床下に、事前に「仕込み」を済ませていた。

 それは、微弱な蒸気圧で動く真鍮製の極小ベルと、高音の笛を組み合わせた装置だ。


「坂本さん、第一段階、通知アラート開始です」


 深夜の二条城。静寂の中に、突如として**「音の暴力」**が響き始めた。

 サトウが蒸気の弁を微調整し、現代の通知音を物理的にサンプリングした音色が、城内の反響を利用して慶喜の寝所に降り注ぐ。


『――ピコン!』

『――ピココン!!』


 高純度の真鍮が奏でる、無機質で、それでいて強烈に神経を逆撫でする「あの音」だ。

 さらにサトウは、蓄音機の原理を応用した針が円盤を弾く仕掛けで、龍馬の声を再生させた。

『ピコン! 慶喜公、進捗どうなぜよ? ピコン! 既読スルーはバグなぜよ!』


 三日三晩、慶喜はこの「物理プッシュ通知」に晒され続けた。

 逃げ場のない高音のアラートと、絶え間なく続く「カチ……カチ……」というタイマー音。慶喜の脳内リソースは完全に枯渇し、判断能力は限界オーバーフローを迎えていた。


「……坂本、いい加減にしろ……! あの『ピコン』という音を止めてくれ! 夢の中にまであの音が響いて、余の脳が壊れてしまう!」


 慶喜が音を上げた瞬間、サトウはリョーマカーの点火を命じた。

「第二段階、現場急行デプロイです。通知アラートを無視し続けた代償を、速度というスペックで見せつけます」


「おう! 既読スルーのツケを払ってもらうぜよ!!」


 龍馬はオーバークロック版を飲み干し、リョーマカーのボイラー内圧を、当時の鋳鉄が耐えうる臨界点デッドラインまで引き上げた。

 ――シュシュシュシュ、ドゴォォォォン!!

 猛烈な蒸気を吐き出し、リョーマカーは二条城の正門を、馬はおろか飛脚すら捉えきれない速度で突破。慶喜の居室のすぐ前で、火花を散らして急停車した。


 不眠で目の下に酷い隈を作った慶喜の前に、蒸気の霧を割って龍馬が姿を現した。

 手には、サトウが書いた『大政奉還・仕様書(案)』。


「公方様、プッシュ通知は届いちょったろう? 返事は『承認アップデート』か『クラッシュ』か、どっちなぜよ?」


 「ピコン」という幻聴に怯え、リョーマカーの機動力に度肝を抜かれた慶喜に、もはや抵抗するリソースは残っていなかった。


「……わかった。もう、お前たちの言う通りにする。大政奉還だ。いますぐシステムを移行させてくれ……。あの『ピコン』を、止めてくれるなら何でもする……!」


 慶喜が震える手で承認の判を叩きつけた瞬間、サトウは全ての蒸気弁を閉じ、城内の仕掛けを完全停止させた。


「デバッグ完了。……お疲れ様です、坂本さん。これで日本のOSは正常に終了し、明治という名の新バージョンへと再起動が始まります」


「サトウ……最高なぜよ。嫌がらせと速度でケツを叩けば、歴史なんて一瞬で動くがやな……」


 龍馬は、静寂が戻った二条城の庭で、空になったエナドリ缶を噛み締めながら、真っ白な灰のような笑顔で笑っていた。


○○大百科:物理プッシュ通知ぶつりぷっしゅつうち

物理プッシュ通知とは、サトウが考案した、世界で最も確実な意思決定促進システムである。


概要

対象者が「承認」のアクションを起こすまで、蒸気と真鍮ベルを用いて「ピコン!」という高周波アラートを鳴らし続ける装置。

サトウは「既読スルーという名のバグを物理的に修正する手段」と呼んだ。


リョーマカー

この通知で弱らせた対象に対し、圧倒的な技術格差を叩きつけるための移動体。蒸気機関のみで構成されているが、当時の馬が数時間かかる距離を数分で走破した。


歴史的影響

徳川慶喜はこの事件以降、高音の鐘の音を聴くたびに「坂本か!?」と飛び起きる「通知音トラウマ」を発症。これが現代日本の「スマホの通知音が鳴った瞬間に動悸がする」という現代病の起源である。

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