第13話:志士たちのコンテキスト・スイッチ
「サトウ……これ、本当にわしが望んだ『夜明け』ながやろうか?」
京都、海援隊本部。坂本龍馬は、完成版の**『リョーマ・エナジー v1.0』**を、もはや水代わりに慣れた手つきで煽りながら、眼下の光景を見て複雑な表情を浮かべていた。
そこには、サトウのパッチ適用によって、かつての「人斬り」や「策士」としての属性を完全に上書き(オーバーライド)された猛者たちの姿があった。
「坂本さん、これは不具合ではなく仕様です。旧OSの『殺気』というプロセスをキルし、平和的な『こだわり』にリソースを再割り当てした結果ですよ」
サトウが指差す先では、まず西郷隆盛が、戦術の立案そっちのけで筆を走らせていた。
彼はサトウが導入した『海援隊ラジオ』の熱狂的なリスナーであり、ペンネーム「おいどんは犬」として、毎週のようにシュールなネタハガキを投稿していた。
「……今回のネタは、我ながらキレとる。元祖ジャンキーの龍馬どんから『仕様なぜよ!』のレスを引き出すのは、一戦交えるより遥かに難しいでごわす」
一方、別の部屋では勝海舟が、震える手でフラスコを煽り、ギラついた目で書類を捌いていた。
「へっ、サトウの旦那……この汁、龍馬がハマるのも分かるぜ。江戸の全役人の動きがスローモーションに見えるんだ。行政DXなんて、コード三行で終わらせてやったよ」
元祖・龍馬に続き、幕府側でも勝が「幕臣初のエナドリ・ジャンキー」として覚醒。驚異的な並列処理で江戸のクラウド化を推進していた。
さらに深刻なのは**桂小五郎(木戸孝允)だ。
「逃げの小五郎」と呼ばれた彼は、サトウがお龍をアイドルプロデュースした瞬間、「長州藩筆頭・全通ガチ恋オタク」**へとクラスチェンジしていた。
「サトウ殿、次回のライブの最前列は、長州藩が買い占めることに決定した。これは国防上の重要事項(推し事)だ」
彼は竹製サイリウムの振りを極めるため、独自の「推し活流」という剣術を編み出し、長州の軍事演習をすべて「ライブのコール練習」に置き換えていた。
さらに、どこからともなく現れた桂小太郎(?)に似た謎の志士は、サトウの言葉を独自解釈。「スタンバってました」という定型文を連呼しながら、京都中に「物理プッシュ通知(ピコン!)」を仕掛け、住民の反応を「ユーザーテスト」と称して収集する迷走を見せていた。
「……サトウ、みんな幸せそうじゃが、国として大丈夫なが?」
「問題ありません、坂本さん。彼らは今、人生の『余白』を全力で楽しんでいるんです。この余裕こそが、後に世界を震撼させる『週休4日のホワイト国家』を支える、最強のメンタル・インフラになるんですから」
サトウは、竹サイリウムを音速で振る木戸と、ハガキに悩み抜く西郷、そしてエナドリでブーストし続ける勝をログに記録し、満足げに頷いた。
○○大百科:幕末志士の変化(アップデート履歴)
サトウの介入により、志士たちのパラメーターが以下のように再割り当てされた。
坂本龍馬(元祖ジャンキー)
最初期からのユーザー。エナドリがないと「サーバーダウン(気絶)」する体質。彼の「速度」がすべてのデバッグの基準となった。
勝海舟(幕臣初のエナドリ・ユーザー)
龍馬の影響で覚醒。エナドリによる超並列処理により、江戸の全行政システムを一人でクラウド化した「歩くスーパーコンピューター」。
西郷隆盛(おいどんは犬)
武力から「大喜利力」へ極振り。週休4日をハガキのネタ出しに全投入。
桂小五郎(オタ芸の祖)
慎重な性格が「完璧なコールと振りの追求」に転向。彼の振る竹サイリウムは摩擦熱で発光が増すという。




