源の掘り出し物
「夏に柚子ポン合うわー!」
「お兄ちゃん、野菜も食べようよ」
「遥さんや、豆腐入れてくれないか?」
「はあい。あら?繁さん?食べないの?」
「いや、食べるけどさ……」
異世界拠点リビングにて、俺が手伝ったしゃぶしゃぶの宴が始まり——机の下の源も犬用高級テリーヌ缶と茹で肉を食べてご機嫌な様子の中、一人考える人のポーズの父さん。
そんな父さんの目線の先には、源用のおもちゃ箱があるんだけどさ。
「父さん、まず食べようぜ。気になるのはわかるけどさぁ」
「繁は考え出すと止まらんからなぁ。考えるのは良いが、今食べるべき事を忘れるのが玉に瑕だな」
口いっぱいに肉を含みモグモグする俺とクイっと日本酒を飲む爺ちゃんにも言われているのに、気にせず父さんはずっと考えているんだ。
そう、源のおもちゃ箱に入っている古びた金貨の事で。
「だけどさ、まさか源の穴掘りで金貨出てくるとはねー」
「源ちゃん、ここ掘れワンワンだね!」
「金貨ザクザクなら正にそうだな」
俺が思い出したように言うと、話に乗ってくれた凛と爺ちゃん。父さんは聞いてないようで聞いてたのか「だな」とか同意してたけどさ。
——あの後、源を迎えに行ったら源が起きてて、穴掘り開始してたんだよ。
何掘ってんだ?と思って源をちょっと退かすと、出て来たのが古びた金貨一枚。
俺はその時「おおっ!本物?」って喜んだだけだったけど、その後に合流した父さん達に見せると、父さんが考え始めたってわけ。
「で?繁、そろそろ話してみろ」
そして食え、とばかりに茹でた肉山盛りのお鉢を父さんに差し出すと、「冷めてんじゃないか」と苦笑して受け取る父さん。
父さんはそのまま箸で肉を掴み、柚子ポンにつけて大きな口にガバっと詰め込みモグモグ食べていると、質問した筈の爺ちゃんが話し出す。
「大方、この世界の人とどう関わっていくか悩んでいたんだろう。我らは特に関わらずとも生きていけるからの」
え?っと思った爺ちゃんの言葉に、俺はすかさず反論する。
「ちょっと待ってよ!初異世界交流になるかもしれないんだよ?しかも異世界の街があるかもなんだよ?これ確かめに行くっきゃないじゃん!」
「そっかぁ、人が居るかもしれないんだね!獣人やエルフいるかなぁ!」
「ドワーフや竜人だって居るかもよ!」
なんて俺と凛がワクワクしながら話す一方で、大人側は顔を見合わせて黙っているんだ。
「えー?ちょっとぉ、父さん達ノリ悪くね?」
ただ夢のような話として軽く話していた俺達と違い、父さん
は真面目な表情で話し出した。
「……洸。ちょっと考えてみろ。俺達はこの異世界側からすると、異端者だ。力は強く、能力は本来の俺達が羨む程、そしてこの世界では守られる立場はない。そして、凛もこう考えてみろ。もし地球で地球人以外の生命体を見つけたらどうする?」
「えっと、本当だったら逃げて警察に通報する」
「そうだ。捕まるまでは、その地域一帯が自宅待機になるだろうな」
いや、地球ではそうかもしれないけど……と口篭る俺を見て、母さんも俺を見て話し出した。
「それに、洸?もし、洸が読んでいるラノベの展開なら、時代背景は中世よ?王政、奴隷制度、貴族制が実在するの。これが現実だったらどれだけ大変かわかる?」
……確かに。それが現実だと、俺達は良いカモになるだけだ。ラノベだって使い潰された話だって幾らでもあるから、俺だって容易に想像出来る。
さっきまでとは違い、黙り込んでしまった俺と凛。俺といえば、やっぱり俺ってまだ考え方が子供だな、と痛感していたんだ。
だけど、こんな微妙な雰囲気をぶった斬るのがいつも爺ちゃんなんだ。
「ほれ、どうした?みんな箸が止まっているぞ?美味いもんは楽しい雰囲気で食わんと美味くないだろうに」
ほれほれと鍋に肉を入れて行く爺ちゃんに、俺と凛は目線で問いかけていたら、なんて事のないように言う爺ちゃん。
「全く……繁と遥さんの気持ちもわかるがな。繁、それだけだったらこんなに長く悩んでおらんだろうに。遥さんもわかっていて繁側につくもんだから、ほれ、凛と洸の表情が固まってしまっただろう?」
「っだー、親父はいつも良いところを取るんだよな!一応大人としての責任ってものがあるだろうに!」
父さんは邪魔されたと言わんばかりに、爺ちゃんが入れた肉を口に入れて行く。
「ふふふ、お義父さんには敵わないわぁ。ねえ、洸に凛。さっきの事は大事な事だから良く覚えておいて。その上でこれも考えてみて。私達がこの世界に居続けなきゃいけない理由ある?」
「「ない」」
「そうね。そして、もしここに閉じ込められたとしても家族が揃っていれば街と関わる必要あると思う?」
「「ない!(と思う)」」
凛ははっきりきっぱり言い切るのに対して、俺はちょっと異世界交流に心が傾いていた為につい誤魔化してしまった。
母さんそんな俺の気持ちもわかっているのか、ふふっと笑って父さんに声をかけたんだ。
「ねえ、繁さん。ここを拠点にして街を見に行くのは出来ないかしら?例えば、地下に家族しか通れない道を作って行くとか工夫出来ない?」
俺の気持ちを汲んで代弁してくれた母さん。俺は期待の目で父さんを見ていたら、どうやら隣の凛も同じ気持ちだったのか俺と一緒に父さんをジッと見ている。
「……全く、俺だけ損な役割じゃないか。とはいえ、さすが俺の奥さんは違うね。具体案を出してくれるんだから」
母さんの手を取り笑顔で見つめ合う両親に、俺と凛は期待が高まる。
「じゃ、じゃあ父さん……?」
「行けるの?街に?」
恐る恐る聞く俺と凛に、にかっと笑って頷く父さん。
「本当に街があるならな」
「但し!動くなら、俺と繁が先に偵察に行ってからという事になるぞ?」
待望の父さんのOKが出たと思ったら、しっかり爺ちゃんが釘をさして来たけど、本当に行ける!と思った俺と凛は思わず顔を見合わせてハイタッチをする。
「やったぜ!」
「やったね!」
ただ、ガタッと立ち上がって動いた為、テーブル下で食べ終わって寛いでいた源が「ワン!」っと驚いたのはご愛嬌だな。
ん?源のスキル使えるんじゃね?
「父さん!穴掘りなら源がいるし、爺ちゃんも掘削できんじゃね?でもって俺が地下の空気循環を風魔法で付与出来る!」
「凛だって木の根を伸ばしてトンネル作れるもん!」
俺が源を抱っこしてみんなに見せると、凛もまた案を出す。そんな俺達を見て「はぁ」とため息を吐く父さん。
「あのなぁ、俺だって建築スキル持ちだぞ?なんなら地下鉄みたいに作ってみるか?」
どうやら父さんは自分が頼られないのが寂しかったらしい。最後にニヤっと笑って1番デカい事を言い切ったよ。
「父さん、言うじゃん」
「洸も結構考えているのは良いが、源はスキル使えるのか?」
「ウッ!……穴掘りしか見てない」
「ならしばらくは練習だな」
まぁなぁ……尻尾を振って抱かれるのを喜んでいる源がやれるのかはまだ判明してなかったよ……
「よし、なら源は俺が預かろう。なぁに、1番時間があるのは俺だろうし。な?源」
すると、源の訓練を名乗り上げたのは爺ちゃん。確かに1番時間はあるだろうけどさ。凛も時間が許す限りは付き合うとか言ってるけど、俺もやりたいし……!
「ねえ、みんな?それはいいけど、そろそろ地球でやる事もあるんじゃないの?」
下手をすると、このまま異世界にいて行動しようとする俺達四人をしっかり笑顔で牽制する母さん。
「地球時間で一日は目を瞑っていたけど、せめてもう一日は自宅でやる事をやらないといけないんじゃない?」
母さんの言葉に思い当たる節がある俺。
……絶対夏期講習と宿題の事だ……!
「しまった……!仕事持ち帰っていたか……!」
「あ、凛友達と約束ある」
「おお、そういえば家の方の畑もあるか」
それぞれがそれぞれ思い当たる節があり、結局は母さんの意見が通る坂木家。
俺も友達と会う約束あったっけ。
という事で、一度全員で地球の自宅に戻る事にした俺達。異世界の事は家族以外には話さない約束をして、土曜日は過ぎていったんだ。
すげえよなぁ……地球の方ではまだ地震があった日なんだぜ?
異世界でやりたい事があり過ぎてもどかしく思ってしまったけどさ。俺達の本分を思い出さないと行けないらしい。
くっそぉ!早めに終わらせて時間作ってやる!
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