まずは拠点作りから
鬱蒼とした木々の中から聴こえてくる恐ろしい動物の唸り声。一度目にしたその景色が広がっていると思いきや——
「父さん……何コレ?」
「ん?通路だな。といっても壁と天井をつけただけでまだコンクリートのままだがな」
「いつの間に作ったのさ!」
「ん?ほら経過時間測った時だな。こんな危険な場所で何もせずに1時間過ごしてたら死んじゃうだろう?」
「お父さん凄ーい!!」
「うんうん、凛は良い子だなぁ」
素直に誉める凛をデレデレしながら凛の頭を撫でる父さんを横目に、爺ちゃんが壁を叩きながら俺に話かけてきた。
「ほれ、洸。この世界に来ると力の使い方がスッとわかるだろう?この壁強化してくれんか?じゃなきゃ……」
ドカンッ!!「グオオオオオオオオッ!!」
「「ひえええええええ!!」」
爺ちゃんが話している最中に前方の壁が壊れ、そこから現れた大きな虎の様な化け物。思わず抱き合いながら悲鳴を上げてしまった凛と俺。
そんな俺達を庇い、すかさず前に来た父さんが大声で「【壁作成】!!」と叫ぶと……
虎もどきと俺達の間に壁が出来、『グギャオウゥゥゥゥ……』と虎もどきの声が遠くなっていく。
「……とまあ、こうなるんだわ」
「「ふああああ……」」
あっさり言う爺ちゃんに、安堵から力が抜け座り込む俺と凛。
「いやあ、あいつに狙われて1時間ずっと壁作ってたからなぁ。俺の壁作りもマシになってきただろ?」
座り込む俺達にサムズアップをして自慢気に言う父さん。
……頼むから教えておいてくれよ、と俺と凛が恨めしそうな目をして父さんを見たのは仕方ないと思う。
とはいえ、やっぱり異世界は危険な場所であるわけで。俺も早速試してみる事にした。
「お兄ちゃん?どうしたの?」
「ん?まずは絶対安全領域が欲しいからな!」
スッと立ち上がる俺を不思議そうに見上げる凛に、俺はなんとか笑顔を見せる。
そして壁に手を当てると、付与すべき物の情報が見えて来る。
……今は父さんが厚さ5mの壁を作ってくれているんだな。でも外から魔物の突進攻撃が続いている。となると、強化する為には結界魔法が良いかな?
「【強結界展開】!」
壁に手をかけながらスキルを展開すると、俺からズルっと何かが抜ける感じがして一瞬クラッとした。念の為、ステータス画面を開いてみたけど、MPは15くらいしか減ってなかった。
外から攻撃されていたドカドカドカッと音もしていたのがなく
なり、結界が上手くいったのもわかる。続いて俺はもう一つの問題をなくす事にした。
「【ライト付与】」
天井の一面だけ明るくなる様にして、薄暗かった通路内を明るくする。するとやっぱり明るいだけで安心感がグッと上がる。
「お、流石ゲーム世代だな。すぐ順応する」
それを見て父さんが俺を褒めつつ、左右に大きめの窓を作成する。まだ穴が空いた程度だけど。
窓から様子を見ると、大きな虎もどきがまだ結界に体当たりをしている様子が見えるが俺の結界が壊れると言うほどでは無い。
それを見た爺ちゃんがうむと頷き、場を仕切る。
「よし!安全地帯確保だな。洸、付与魔法はどれくらい継続するんだ?」
「体感でだけど、こっち時間で一週間かなぁ?まだ使い始めたばかりだから、威力はこんなもん」
「おお!それでも凄いぞ!じゃ、計画を立てやすくなった。まずは……と言いたいが、椅子持ってくるか……」
どうやら、ここでまたコレからの指針を座って話そうとしていた爺ちゃん。その様子を見て今度は凛が動く。
「お爺ちゃん!大丈夫だよ!【椅子作成】!」
凛が今度はスキルを使うと、土の床から木の根が出てきて根が勝手に編み上げられてラタン調の大きめの椅子が四つ数分で出来あがる。
「おお!凛のセンスはいいな!流石我が娘!」
「凛良いぞ!ついでにテーブルも作れんか?」
「任せて!」
父さんはただ凛をベタ誉めをし、爺ちゃんは更に凛に頼みこんでいるが、凛も嬉しそうに手をかざして作り出す。
……凛の植物魔法も応用が効くなぁ。
呑気にそう思いながらも適応力の速さは流石我が妹と、俺も凛の頭を撫でておく。
えへへへと照れ笑いをする凛を父さんが「可愛い!」ぎゅっと抱きしめているけど、ほどほどにしとけよ……
俺が父さんの親バカっぷりに呆れていると、爺ちゃんは早速ラタン調椅子に座り、使用感を確かめていた。
凛の報告によれば、コレをやってもMPは25くらいしか減って無いらしい。うん、チートだな。
父さんがそれを確認して床をフローリングにする。俺はその床に浄化魔法を付与し、靴を脱げる様にしておく。
家族だから同じ考えなんだろう。一人が何かをやると、もう一人がそれを更に改良するが誰からも文句は出ない。
「おお、良いな!よし、みんな座ってくれ」
爺ちゃんも満足気にその様子を見て頷き、俺と凛にノートを出す様に指示を出す。
「大体スキルでやれる事は頭に入って来ただろう?じゃ、一人一人やりたい事を挙げて言ってくれ。洸は希望をメモし、凛は決定した事を書いていってくれ」
爺ちゃんに言われて、それぞれが意見を言い出して今のところ決まったのがコレ。
・大邸宅を建てたい←父さん
・温泉施設が欲しい←爺ちゃん
・付与魔法をかける武器防具の調達←俺
・お爺ちゃんの畑を広げて手伝いたい←凛
凛が爺ちゃんと父さんを泣かせる希望を出す他は、大体予想通り。我が妹ええ子や。
そしてまずは安全な拠点作りから、と言う事で家族で動き出したんだけど……
「【樹木伐採】!【切り株除去】!」
なんと整地に1番活躍したのは、我が可愛い妹の凛。更に……
「【ダブル剣山】!」
「グギャアアッッ!!」
魔物さえ、鋭くした固い木の根の山を地面と木の間から生えさせ魔物を挟み込む、と言うえぐい攻撃で倒していくんだぜ。
俺だって一応、家から軍手持って来て【パワー軍手】とみんなの靴を【俊敏・持久力アップスニーカー】にしたんだけどさ。
爺ちゃん以外身体がついて行かず、身体に直接【身体能力増加】を3回かけると言う、凛より時間がかかるという顛末。
あ、結界は予め一人ずつに付与しているぞ。防御対策は万全だ。
その間も「面白ーい♪」と、どんどん木を伐採開墾していく妹についていく事は出来ず……
「凛!ストップ!ストオオオッップ!」
俺が声の限り叫ぶ事でやっと止まって「なぁに?」と可愛い笑顔を見せる凛。
周りでは父さんがヒーコラいいながら木をまとめて、俺は既にグロッキー状態。爺ちゃんだけが「良い若いもんが俺に負けてどうする?」とゆうゆうと運んでいた。
それでも1時間で出来た敷地は、大型の野球ドーム一つ分くらいだな。普通に考えりゃあり得ないよなぁ。
で、折角だから安全に出入りする為に、入り口を包むようにドーム型にするのは面白いって事で父さんが早速土台作りに入ったんだ。
「【壁作成!ドーム型】!」
父さんの壁作りも慣れてきたもので、ズオオオオオオッッと地面から壁が生えてきて出来上がっていく。
どうやら父さんは白い大理石でドームを作ったみたいだ。十分ほどすると床以外のドームが出来上がって来た。
「父さん、MPは大丈夫?」
「流石に半分は使ったなぁ……ふう」
俺が父さんに【回復】付与入り水を差し入れているところに、「お兄ちゃーん!」と可愛い妹が笑顔で走ってくる。
抱きついてきた凛を受け止めた俺に、笑顔で凛が報告して来た事は……
「はあ⁉︎山ほどの魔物を仕留めた⁉︎」
「うん!お爺ちゃんと一緒にちゃーんとここを守ってたんだよー!」
嬉しそうに報告する凛の言葉を信じない訳ではないけどさ。信じない俺を引っ張る凛と一緒に入り口に行くと、爺ちゃんがデカい猪を担いで降ろすところだった。
「うおっ!これ某アニメの猪みたいじゃね⁉︎」
「うん!私も思わず叫んじゃった!でも、締め上げてお爺ちゃんが血抜きもしてくれたんだよ!」
「まぁ、血抜きのおかげでまものが集まって来おったがな」
楽しそうに報告する凛に、ちょっと遠い目をする爺ちゃん。
おいおいおいおい……猪だけじゃなくてなんだこのデカい鹿?こっちは熊か?デカい鶏までいるじゃん……
俺は俺で凛の成果に目を丸くしながらも、とりあえず担いでいるバックに【空間拡張】【時間停止】付与を強くかけていたら、結構な量が入るようになったからドンドン詰めていく。
「凛は強いなぁ!父さんは嬉しいぞ!」
「えへへ。凛、凄いでしょう!」
いつのまにか来ていた父さんに抱きつかれた凛は、嬉しそうに自慢をしている。爺ちゃんも俺もその様子にほのぼのしていたら、ガサッと後ろで物音がした。
「「グギャグギャグギャ!」」
見てみるとファンタジー定番の緑のゴブリンが二匹。俺が「やべっ」と思って腰が引けていると、爺ちゃんが「【掘削】!」と言ってゴブリンの地面下に大きな穴を開けたんだ。
「こいつら食えんからなぁ。とりあえず【灼熱源泉】投入っと」
爺ちゃんがなんて事ないように穴の中を覗きこみながら、めちゃくちゃ熱い源泉をゴブリンにかけまくっている。
「グギャアアアァァァ……!」「ギャアアアアァァァ……!」
段々と悲鳴が小さくなり聞こえなくなった頃には茹で上がったゴブリンが二匹、プカーと浮いていた。
……爺ちゃんも結構容赦ねえな……
とはいえ外は危険という事で、全員ドームの中に入り俺は【結界】付与をドームを覆うようにかける。
「父さん。結界かけたから、天井だけ開けるのってどう?」
「確かに結界ありゃ天井要らないな。どれ……」
そう言って壁に手を当てて目を閉じる父さん。すると、天井が開けて明るい青空が見え俺は思わず叫んでいた。
「おおお———!ファンタジー!」
「なにを今更」
「えー!だってお父さん、青空に幾つも惑星がうっすら見えているんだもん。お兄ちゃんじゃなくても感動するよぉ」
「まあ、繁はつまらん男だからなぁ」
「親父に言われたくないわ」
まあ、父さんや爺ちゃんは余り感動してなかったけどさ。凛と二人でワイワイ騒いでいると……
「あらあら。もうこんなに進んじゃったのぉ?」
入り口から母さんがキョロキョロしながら入って来たんだ。
「アレ?母さん婦人会は?」
「うふふー、お隣の佐藤さんに用事があるからって変わってもらっちゃった」
ペロっと舌を出す母さんに呆れる俺と爺ちゃん。「そうかそうか」と母さんにデロデロな父さんは置いといて、凛は母さんに抱きついて報告。
「まあまあ!いっぱいお肉集めてくれたのねぇ!どれも食べて大丈夫みたいよ!じゃあ、早速【解体】していくわね!」
母さんもスキルの使い方はすぐわかった様で、俺が出した魔物をどんどんと【解体】していく。スキルだから一瞬なんだ。
今度は凛のバックを提供してもらって、【空間拡張】【時間停止】付与をかけ、解体したものをどんどん入れていく。
それを見ながら俺は母さんにやってみたい事を相談する。
「なあ、母さん。こんだけ肉あるんだし焼肉やらねぇ?思いっきり肉食ってみたい!」
「お!いい事言った、洸!いつも肉が足りなくなるからなぁ」
「繁と洸が食いすぎなんだが……たまにはいいな」
「ふふっ、お義父さんがいいならバーベキューコンロこっちに持ってきましょうか」
「あ、お母さん!凛も手伝うよ!」
みんなが乗り気になったところで、父さんが声をあげる。
「よし!異世界第1回目の食事は焼肉だあああ!」
「「「おお!!!」」」「うふふ」
たっぷりの肉の前にテンションが上がる俺達だったけど、「お肉のお金が掛からないなんて助かるわぁ」と密かに1番喜んだのは母さんだったらしい。
……今更だけど、ウチの家族って順応性高いよなぁ。
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