閑話 男の飲み会 ジャン視点
ここはなんなんだろう……?
魔物も、我らの主人に無理矢理なろうとする種族もいない。全員が優しい雰囲気を持つ人間だけの土地。
ケイトの笑い顔も久しぶりに見た。トーニャに至っては主を見つけるなんて、な。
それに、この見た事もない豪華な食事……この家族は貴族だったのだろうか……?
いやいや、匿ってもらっているんだ。詮索はしてはいけない。
……だが、まさか原祖の犬族がまだ居たとは……!小さいがあれで成犬だろう。
あ!トーニャ!原祖様に近づいたら不敬になってしまう!……?なんだ?皆が微笑ましいものを見る雰囲気で、誰も咎めない?
そもそも顔立ちも我らの知っている人族とは違う……っとしまったジロジロ見過ぎただろうか?一人が私に近づいて来る。
「ジャンさん、食べているか?」
「ありがとうございます。はい、柔らかいものなら身体が受付てくれるようですから」
ええと……この方は確か、ハルカさまの旦那様でシゲル様だったな。大概優しい雰囲気だが、何処かに鋭い剣を隠し持つような印象を受けた方だ。
「ジャンさん痩せているからなぁ。捕まる前でもきちんと食べられなかったんじゃないか?」
「我ら赤犬種は隠れ里でひっそり暮らしていましたから。そもそも、こんなご馳走は初めてです」
「そうか……なら、これは飲めるかい?遥が持ってきた甘酒という酒だが、栄養をつけるには最適なものだ」
シゲル様が渡してくれた器には、真っ白でドロドロした飲み物が入っているようだ。……飲んで大丈夫だろうか?と一瞬不安になったが、恩人が勧める飲み物だ。飲んでみよう……!
「………甘くて美味い……!?」
「お!大丈夫そうだな。今日はそれで男同士飲み合いながら親睦を深めよう。まだあるから、ゆっくり飲もうぜ」
どうやらシゲル様はハルカ様が用意した飲み物を持ってきてくれたようだな。なんて有り難い……!
チラッとケイトを見ると、同じようにハルカ様に勧められて甘酒を飲んでいるようだ。……よかった。この味はケイトも好きな味だろうからな。
私もケイトも思わず尻尾を振ってしまっていたようで、シゲル様はそれを見て目を細めて笑ってくれていた。
温かさが染みていく……こんなゆったりとした気分は久しぶりだ。
「なぁ、ジャンさん。会ったばかりで信頼出来ないとは思うが、ジャンさん達の身の上を話してくれないか?」
……シゲル様は良い方だな。命令も出来る立場なのに願うとは。
「勿論です。命の恩人にはお話しましょう」
「盛り上がっているところ悪いが、俺も混ぜてくれないか?」
どうやら、シゲル様の父上であるチョウジュウロウ様も私達の事に興味がおありのようだ。
見た事もない綺麗なガラス瓶に入った酒を持ってシゲル様の横にどっかり座り込んで聞く体勢になっている。
「親父、飲み過ぎんなよ?明日は働いてもらうんだから」
「誰に物を言ってる?俺は酒に呑まれることは滅多にないわ」
「たまにある時が面倒なんだよ」
どうやらお二方は仲がよろしいようだ。お二方の話が終わるまで、このトロトロしたスープでも戴いておこう。
うん……なんて優しく味わい深い味なんだ……!
丸めた肉も噛むとほろほろになるし、野菜に煮込めれていて、私達家族の事を考えた献立だとは……感謝でしかない……!
ハッ……いつのまにかお二方の話が終わっている……!
視線を感じ顔を上げると、ニコニコこちらを見ているお二人が……!
「す、すみません!余りに美味しくって夢中になってしまって……!」
「いやいや、気にしないでくれ」
「そそ!食べる時はしっかり食べてくれよ?うちの奥さん料理上手だからな!」
「はい、本当に美味しいです」
「良かった良かった。じゃ、まずはしっかり食べよう」
シゲル様から言い出して下さったので、私は食べられる量をしっかり食べて、久しぶりの満腹感と充足感を味わう事ができた。
そうしていると、どうやらウチのトーニャが原祖様と一緒に眠ってしまったらしい。
リン様とコウ様が面倒を見て下さるようで、そのままお部屋へと一緒に連れて行ってくれたらしい。
ケイトはハルカ様と一緒にオンセンなる物を体験しに行ったとか……そっか、ケイトもハルカ様に話すだろうな。
「なんでもお聞き下さい。全てお話します」
腹を決めてお二方を見ると、何か困った顔をされていた。
「うーん、硬いなぁ。もっと砕けた口調の方がいいんだけど」
「繁、そう無理を言うな。ジャンさんは助けて貰ったと思っているんだからなぁ」
「だから、それ!洸の実験がまさか呼び込むとは思ってなかったわけだし、俺達にも非はあると思うんだよ。って事で、ジャン。今から敬語禁止な?」
「ええっ!そんな……!」
「俺、堅苦しいのは嫌なんだよ。俺を助けると思ってさあ、頼む!」
……困った事にこの恩人は、私を対等な者として扱ってくれると言う。人が良いにも程があるだろう。だが……
「わかった。これで良いか?」
「ああ、助かる!(職場思い出して嫌だったんだよなぁ)」
シゲル様には悪いが思いの中では敬語でいさせてもらおう。でも「しょくば」とはなんだろうな?
などと思っていると、チョウジュウロウ様から質問が来た。
「まずは、捕まる前は何処に住んでいたんだ?」
「ランブル国の端、原始の森の手前の村だ」
「ランブル国?原始の森?」
ああ、シゲル様もチョウジュウロウ様も不思議そうな表情をされている。やはり、何か訳有りなのだろうな……
「ランブル国はここから東に行った国に当たるんだ。そして原始の森は今シゲルやチョウジュウロウ達がいる大森林の名になる。
更に付け加えるならば、原始の森は東のランブル国、北のクフェスタ国、西のヤジェ国、南のチェドール国の四カ国にまたがる広大で誰の手も入らない森なんだ」
「はー……なるほど。だから奴隷商人は森ルートを選ぶ訳だ」
「シゲルの言う通りだが、深淵部に至るまで誰も足を踏み入れた事がなく、大概は浅瀬の外縁を歩くのが定石だ。だからこそ中間層にこんな拠点があるとは誰も思っていないだろう」
「ふむ。今のところ見つかる可能性は低い、か……あ、続けてくれ」
「チョウジュウロウの心配もわかる。失礼、話に戻るが他に聞きたい事は?」
「村狩りで赤犬族は全員捕まったのか?」
「シゲル、それはわからない……混乱の中、捕まって売られたから」
私を含め、あの村は特殊な村だったから……おそらく、皆捕まっただろう。だが、この優しい人達に言うべき事ではないな。
「そうか。辛い思いを思い出させて悪かった。……赤犬族には主を選ぶ掟でもあるのか?」
少ししんみりしていると、チョウジュウロウが水を差し出しながら話題を変えてきてくれた。
「水はありがたい。……掟というものはなく、本能で主人を嗅ぎ分けると言われている。そして赤犬族の主になるのなら全てが安泰するという噂があるが、それは嘘だ。私達にそんな力は無い」
「ん?でも幸運を呼ぶんだろ?そうとも言えるんじゃ無いか?」
「赤犬族は幸運も呼び易いが、その分不運にも巻き込まれ易い。だから忌避もされてきた」
「うわー……それ最悪。利用しときながら悪い事全般をなすりつけてんのか!因みにその国は?」
「繁よ。もう酔ったのか?ランブル国に決まっているだろう?な?ジャンよ」
「いや、チョウジュウロウも覚えておいた方がいい。北のクフェスタ国もだ。獣人自体を嫌っている人の国だからな」
「っかー!!来たよ、種族差別!やだねえ!これだから人ってのは!どこの世界も蹴落としたがって!」
「繁、お前酔ったな?ジャン、放っておけ。あいつはぼやくだけぼやいたら沈没する。というか、待ってくれ。ここから東に行くとランブル国と言ったな?……ジャンを襲った国か、方向を変えるべきだな」
「チョウジュウロウ?ランブル国に用があったのか?」
「いや、気にするな。それより残りの二国の情報はあるか?」
「西のヤジェ国は他種族国家で寛容だという事と、南のチェドール国は商業国という事ぐらいしか……情報が少なくてすまない」
「いや、十分だ。……おや、ケイトさんも上がってきたようだ。繁も沈没したし、今日はお開きにしよう。ジャンもゆっくり休んでくれ。……私達の事もそのうち話そう」
「わかった。……ありがとう」
どうやら私達はチョウジュウロウの信頼を勝ち得たのだろうか?いや、まだ話してくれるまではわかるまい。
ただ、この温かい一家に報いるだけの働きはしたい。
そう心に刻んだ夜だった。
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