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第3章 孤独と温もり ②

 二人は夏実の部屋に移動してゲームを始める。

「昨日したゲームのリベンジをしたい」と夏実は提案する。

 颯汰は「夏実さえ良ければ」とその提案に乗る。

 二人はゲームで盛り上がる。

 一回目は夏実が負けて「くそぅ!」と思いきり悔しがる。

 颯汰は「へっへっへ」と得意げな顔を夏実に見せる。

 その顔が余計に夏実の悔しさに火をつける。

「もう一回だ!」と夏実は言う。

「望むところだ」と颯汰は笑顔で引き受ける。

 ゲームは二回目も三回目も颯汰が勝ち、夏実は次第に不機嫌になっていく。

「なんであんたばっかり勝つのよ」と夏実は頬を膨らませて言う。

「夏実が弱すぎるんだよ」と颯汰は冷静に言い返す。

 その冷静さが夏実には腹立たしく思える。そして自分の弱さにも腹が立ってくる。

「やめた、やめた。このゲームは面白くない。違うゲームにしよう」と夏実は言う。

「またかよ。昨日もそんな感じだったじゃねぇか」と颯汰は冷静に指摘する。

「う、うるさいわね。このゲームはしないの! もう決めたことだから!」

「はいはい、わかったよ。まったく夏実は中身が子どもなんだから」

「うるさいわね。それに私は年上だからわざと負けてあげたんだよ。本気を出せばこんなものじゃないんだから」

「それにしてはやけに悔しがっているみたいだけど。まぁ、仕方ないからそう言うことにしておいてやるよ」

「なによ、その言い方は。もう!」と夏実は頬を膨らませてそっぽを向く。

 そんな夏実を見て、颯汰は楽しそうに大声で笑う。

「やっぱり面白いなぁ、夏実は。それに今の夏実はとってもかわいいよ」

「なっ、なにを生意気なことを……」そう言いながらも夏実は頬を赤らめてしまう。

 颯汰にかわいいと言われたのが、照れくさいと共にやけに嬉しく思えてしまう。

「どのゲームをする?」と颯汰は聞く。

「そうだな、どれにしようか」と夏実は言う。

「じゃあ、これにしよう」と颯汰は今まで二人がやっていないゲームを取り出してくる。

 今までとは違い、体を動かして操作するタイプのスポーツのゲームだった。

「これなら夏実もうまくできるんじゃない?」と颯汰は言う。

「そもそも私のゲームなんだから、本当は全部うまく出来るんだよ」と夏実は言い返す。

「わかったよ、そう言うことにしておいてやるよ」と颯汰は呆れながら言う。

 そして二人は体を動かして汗を流しながらゲームに熱中する。二人とも楽しそうに声を上げながら盛り上がる。

 そこには普段の夏実が経験することのない、楽しい日常の風景がある。

 それを夏実はささやかな喜びと共に、ひそかに実感するのだった。

 ゲームが終わると二人は昼寝をすることになる。

「眠いね」と夏実が言うと、「そうだな、なんか眠たくなってきた」と颯汰が言った。

「今から布団を敷いて一緒にお昼寝する?」と夏実が聞く。

「そうするか」とあくびをしながら颯汰は同意する。

 二人は押し入れから二人分の布団を出して畳の上に敷く。そして布団の上に横になると、スイッチが切れたかのようにあっという間に眠りにつく。

 そこで夏実は短い夢を見る。

 夏実は大学の教室で窓際に座っている。外からは暖かい日光がそっと降り注いでいる。夏実の他には教室には誰もいない。夏実は教室の静かな雰囲気に身を委ねている。

 そこで教室の扉が音を立てて開く。他の学生たちがぞろぞろと入ってきて、教室は一気に喧騒に包まれる。

 夏実は自分が一気に緊張していくのがわかる。教室はたくさんの学生で埋め尽くされるけれど、夏実の席の周りだけは空席になっている。

 やがて教授が教室に入ってきて、授業が始まる。なぜか学部とは関係ない数学の難しい授業で、夏実はまったくついていくことができない。

 でも、教授が他の学生たちを当てると、彼らはすらすらと質問に答える。

 あぁ、私だけが置いてけぼりなんだと夏実は思う。今までに何度も感じてきた苦しさを今日も感じなければならない。夏実は涙が出そうになる。私だけが孤独なんだ。私だけが何もできないんだ。私だけが見苦しい存在なんだ。

 そこで夏実は教授に当てられる。夏実は質問の意味さえ分からずに、何も答えることができない。

 教授はため息をついて言う。

「情けないですね、こんなことも分からないなんて」

 夏実はうつむきながら堪えられずに涙を流してしまう。あぁ、私はなんてみっともない人間なのだろう。どうして私なんかが生まれてきてしまったんだろう。

 夏実の耳には学生たちの嘲るような笑い声が聞こえてくる。

「こんなことで泣くなんてだせぇ」

「泣いたら許されるとでも思っているのかな」

「あんなやつと友達じゃなくて良かったよ」

 夏実は耐えられなくなって耳を手で覆う。

 それでも、学生たちの嘲笑ははっきりと聞こえてくる。

 夏実は苦しくなって涙を流しながらうめき声を上げる。すると余計に学生たちの嘲笑が大きくなって聞こえてくる。夏実は苦しさのあまり気が狂いそうになる。

 そこで場面が暗転する。体が宙に浮いたようなおぼつかない感覚になる。

 夏実は周りを見回しながらどうしたのだろうと思う。夏実の周りには暗闇だけがあって、何も目にすることができない。

 状況が掴めずにしばらく呆然としていたところで、夏実は気がつくことになる。

 そうか、私はどこか穴のような場所に落ちているところだ。私は今まさに落下中なのだ。

 それに気づいた瞬間、夏実を大きな恐怖が襲う。

 私はこれからどうなってしまうのか。

 どこかの真っ暗闇にたった一人で取り残されてしまうのか。

 それとも私は底にぶつかって死んでしまうのか。

 いずれにせよこの先の私に待っているのは圧倒的な破滅なのだ。

 夏実は悪寒がして震え上がる。とても怖いけれど、なぜか声を出すことはできない。

 私は絶対的な孤独の中にいる。なんと恐ろしいことだろう。

 夏実は暗闇の中で声にならない叫びを上げる。

 でもそれが誰かに伝わることはない。夏実にはそれが分かってしまう。

 そこで夏実は目を覚ます。気がつくと全身が冷や汗でびしょ濡れになっている。なんて気持ち悪いんだろう。早くシャワーを浴びて、夢の恐怖と一緒に洗い流してしまいたい。

 しかし夏実は思い出す。今は颯汰と一緒に昼寝をしているところだった。少なくとも、今の私はひとりぼっちではない。夏実はすぐ隣に颯汰が眠っていることを確認する。

 颯汰の寝顔を見て、夏実は安心する。なんて気持ちよさそうに寝ているのだろう。夏実はつい笑顔がこぼれてしまう。眠っている颯汰はとても良い子そうに見える。

 起きている時の颯汰は大人びていているように思えるけれど、こうして見るとやっぱりまだ子供であることを思い出させる。

 夏実は眠っている颯汰の額をそっとなでる。颯汰はかわいいなぁと夏実は思う。

 そして颯汰を見ているうちに、自分の心が落ち着いていることに気がつく。

 ここはおばあちゃんの家でかわいい颯汰がいる、とても平和な場所なのだ。

 恐れる必要は何もない。

 夏実は颯汰を起こさないように、そっと立ち上がって部屋を出ると、寝汗を流すためにシャワーを浴びる。

 さっぱりした気持ちで部屋に戻ると、颯汰はすでに起きていた。

「おはよう」と夏実は髪をタオルで拭きながら言う。

「おはよう」と少しだけ眠そうに颯汰は答える。

「よく眠れた?」と夏実は聞く。

「うん、たくさん寝た気がする」と颯汰は言う。

「一緒におやつでも食べる?」と夏実は聞く。

「そうするか」と颯汰は答える。

 二人は居間に移動する。すると祖母の秋恵がテーブルで新聞を読んでいる。

「あら、起きてきたの? なにかおやつでも食べる?」

「うん、食べたい。たしかロールケーキがあったよね。それが食べたいな」

「わかったわ。座ってちょっと待っていて。今から準備しますね」

「ありがとう、おばあちゃん」と夏実が言う。

「ありがとう」と颯汰も言う。

 そして秋恵がロールケーキとコーヒーを載せたお盆を持ってやってくる。ロールケーキは食べやすいように切られている。颯汰にはコーヒーの代わりにジュースがある。

「おいしいね」と言いながら二人はロールケーキを食べる。秋恵はそんな二人を見ながらゆっくりコーヒーを飲んでいる。おやつを食べ終わるとおしゃべりに花が咲く。

 夏実にとって穏やかで幸せな時間が流れていく。ここに来てよかったと夏実はひそかに実感する。夏実にとって生きていくためのエネルギーがここで充電されていく。

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― 新着の感想 ―
夏実、何があってこんな不安や恐怖や孤独に襲われているんだろう。
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