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検査だぜ、サイコロ振るぜ

ギルドカード再発行の案内を受けたジュモは一通りの受付を済ませ、二階にある適正検査室へと向かっていた。

 現在はジュモたちは、不満を漏らしながら、部屋へと続く廊下を歩いている最中だった。

 

「――ったく、面倒な事になったな」

 

「『再発行試験』でしたっけ? でも初回と違って一日で終わるんでしょう? いいじゃないですか」


 どうやら、ジラーマでカードを作った事がない者は、再び試験が必要との事だった。 

 

 そして、ジュモは旅を始めた一年前、ギルドカードを初めて取得する際にも試験を受けていた。

 その内容は、冒険者に関する数日間の講義のほか、パーティを組んでの実地試験などもあり、今よりも人間への忌避感が強く、文化にも疎かったジュモは相当に苦労したのだ。


「明後日の朝五時に、城門前の馬車乗り場に集合ですからね、忘れないように」

 

「わぁってるよ」

 

『ところで、初回の試験の時は上手くいったのですか?』

 

 ゼリルは、人間関係で上手くいくとは思えないジュモに、不安を抱いていた。

 

「他の奴らがへっぴり腰のザコで使い物にならねぇから、一人でさっさと終わらせてやったよ」


『やはりそうでしたか。……急に先行きが不安になってきました。それに、皆駆け出しなのですから、弱いのは当たり前でしょう』


「へいへい」


『それにしても、ジュモはギルドカードを取得した時から、既に強かったんですね』


「ま、森に住んでた時は魔物と戦うなんざ日常茶飯事だったからな。ここらに住んでる軟弱なやつらと一緒にされちゃ困る」


「そういえば、そもそも街は、魔物が湧かない地域に作られるんでしたね」

 

「ああ。聖素量が極端に多い場所は魔物が湧かないし、近づいてもこないからな」

 

 そもそも、なぜ暗い場所でのみ魔物が湧くのかといえばそれは、聖素が日光の元で活発化するのとは反対に、魔素は闇の中でこそ活性化するからだった。

 

「着いたぞ」


 ジュモが突き当たりの部屋に入ると、先客の冒険者が適正検査を進めており、その様子を、茶髪をツインテールに結ったギルド職員が見守っていた。

  

 部屋には、中央に大きな机が置かれているのみで、椅子や他の家具は見当たらない。

 

 その他に唯一置いてあるものは、机の上の、様々な冒険者が絵柄が描かれたボードと、男の手に握られている八面のサイコロだけだった。

 

『検査というからにはもっと色々な器具が置かれていると思っていましたが……そうでもないんですね』

 

 男がボードに向かってサイコロを振るうと、まるで吸い寄せられるかのように、男に似た金属鎧に剣と盾を構えた冒険者の絵に止まった。

 

「職業適性は『戦士』、『聖力』は一。事前申告通りですね、問題ありません!」

 

『戦士? 聖力??』

 

「後でわかるからとりあえずじっとしてろ」

 

 職員は男にいくつかの説明をすると、検査は終わったようだった。

 そして、振り返った男とジュモの目が合ったかと思うと、男はジュモの装備を一瞥した。

 

「ん? 兄ちゃん初心者……じゃあねぇな、再発行か。職業は……『拳闘士』か?」

 

「あ? ビーストテイマーだ」

 

 すると、男の視線が同胞に向けるものから、嘲笑と憐れみが混ざったものへと変わった。

 

「テイマーねぇ。そいつはご苦労なこった。ビーストはお家で留守番中か?」


「――何が言いてぇ。文句があるならハッキリ言えよ」

 

「いや、俺はただちょっとばかし思っただけだ。どれだけ頑張っても俺たちみてぇな前衛職の腰巾着にしかなれねぇ上、畜生どもの糞の世話までしにゃきゃならねぇ最悪な技能(ギフト)だなって――」


 瞬間、ジュモは男の首を掴むと、部屋の壁へ叩きつけた。

 

『ジュモ!』 

 

「かはっ! い、いきなり何しやが――」

 

「出会っていきなりそれか? 手本のようなクズ人間だな」

 

 ジュモの声に感情はなく、ただ、空いた手からかぎ爪を伸ばすのみだった。


「ひっ! やっ、やめ……!」 




「ストップーーーーー‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」




 大声をあげながら駆け寄ってきた職員が、ジュモと男の間に無理やり入り込む。

 

「この人を下ろしてください!」

 

「あ? なんでだ――」 

 

「なんでもです! ギルドでの争い事は御法度ですよ‼︎‼︎」

 

 見るからに戦闘能力はジュモより劣っているだろうに、一才物怖じせずに割って入ってきた彼女に、ジュモはゼリルに似た頑固さ、すなわち面倒臭さを感じた。

 

「わかったわかった」


 持ち上げ、宙ぶらりんになっている男をそのまま離すと、男はその場に放り出された。


「クソっ、俺が動きを見切れなかっただと……? お前本当にテイマーか!」

 

 男が懲りずにジュモを糾弾すると、職員は今度、男の方へ振り向いた。

 

「あなたもあなたです! 才能(ギフト)に対する差別的な発言はトラブルの元だと、再三伝えているはずです!」

 

「いや、それは……」


「ギルドでの揉め事は絶対禁止です。従って規則に則り、カスタルさん、あなたには一ヶ月間報酬一割減の罰則とさせていただきます」

 

「なっ! なんで俺だけ! こいつは俺を殺そうとしてきたんだぞ!」

 

「二割……三割……」   

 

 職員は男――カスタルの言葉には一才耳を傾けず、にこにこしながら無慈悲に罰則を刻んでいく。      

                     

「わかった! そうだ、俺が原因だよ! 分かったから一割に留めおいてくれ!」

 

「ふう、わかっていただけたようでなによりです!」  

 

 そして、カスタルは逃げるように去っていった。

 

「……今回は明らかに彼に非があったので、あなたは不問としますが、あまり仕返ししすぎると問題が大きくなってしまいますので、それだけは気をつけてくださいね」

 

「お、おう……」

 

 ジュモはてっきり、自分にも説教がはじまると思っていたので、この対応は少々意外だった。


 彼女はジュモから、予め情報が記入された用紙を受け取ると、ぺこりとお辞儀をした。

 彼女が小柄で童顔なこともあり、まるで人形のようだ。

 

「ジュモ・オレンジバック様ですね。改めまして、イレーナと申します。ジュモ様にはこれより女神の手のひら(オンザボード)を行っていただきますが、説明はご必要ですか?」


「ああ、サイコロ振るやつな。それなら前回もやったから説明はいらな――」


『要ります!』


 『オンザボード』という聞き慣れない単語に、ゼリルは好奇心が抑えられず、ジュモに抗議した。


「……一応、やっぱ聞かせてくれ」


「わかりました。合わせて才能(ギフト)についても、今一度説明いたしますね」


才能(ギフト)……? そういえば、先ほどの話でも出てきていたような』


「『才能(ギフト)』は、誰しもが生まれながらに有している――まあ潜在能力のようなもので、私たちはこれを女神ニューリア様からの授かり物としてこう呼んでいます。ジュモ様の才能(ギフト)は……ビーストテイマーでよろしかったですね?」

 

「ああ」


「例えば『戦士』の才能(ギフト)を持つ者であれば身体能力が高くなる他、剣、槍、斧などの近接武器を扱いが上達しやすいです。なにより唯一無二な点として、武器に属性(エレメント)を付与したり、身体能力を向上させたりといった『戦技(スキル)』を習得することがあります」

 

「逆に言えば、テイマーの俺は、近接向けの能力強化や『戦技(スキル)』を覚えることはできない。そうだな?」 

 

 ジュモは、ゼリルが気になりそうなことを、予め聞いてしまうことにした。

 

「……そうですね。ビーストテイマーの才能(ギフト)は、ビーストを手懐けやすく、またテイムするビーストの能力を向上させたり、ビーストに『戦技(スキル)』を覚えさせたりすることができる、という点になります」

 

『なるほど、剣士の彼があれほど驚いていたのは、身体能力上昇の無いテイマーが、想定以上の身体能力を発揮したからだったんですね……』

 

才能(ギフト)がそんなに大事かねぇ……」

 

「……戦闘職におけるビーストテイマーは他の才能(ギフト)に比べ特殊な部分が多いですからね。でも、テイマーは悪い才能(ギフト)ではないと思いますよ。なにせ運送や動物飼いと言った、冒険者以外の仕事も選びやすいですから」


 そして「ジュモ様にはあまり関心のない話かもしれませんが」と付け足すとサイコロを手に取った。


「では続いて、女神の手のひら(オンザボード)の説明に移らせて頂きます。こちらは、先ほど説明した才能(ギフト)の適性を判断するための方法です」


 そう言ってイレーナは卓上のボードを指す。ボードには、巨大な三角形が一つ描かれており、三角形の頂点にはそれぞれ、『力』、『技』、『精神』の文字が描かれている。

 

 そして、三角形の中には、それぞれの戦闘職の装いをした人間が描かれていた。

 

「やり方は簡単で、ボードに向かってサイコロを振るだけ! サイコロはあなたの才能(ギフト)に準じた職業へ勝手に止まり、出目は聖力適正の高さとなっています」

 

 そう言って、イレーナはジュモにサイコロを渡した。

 

「ビーストテイマーは三角形の……ここ。『技』と『精神』の間で、『力』からは最も離れた場所ですね」

 

「技とか精神とか言われても、いまいちピンとこないけどな」

 

『……ですが確かに、『力』の近くには剣士や武闘家といった筋力が必要な職業が。『技』にはシーフやアサシン、アーチャーのような器用な職業が。『精神』には魔法使いや、踊り子など、特殊な力を操る職業が、それぞれ分布されていますね』

 

「さあ、どうぞ転がしちゃってください。ちなみに、出目――つまり聖力が四以上になると、聖女や聖剣士といった、聖職の適正アリ、という基準になっています」 

 

「前の出目は確か……二だったな。俺には関係ない話だ」

 

 ジュモがサイコロをふるうと、まるで意志を持っているかのようなら挙動で三角形内の最も外側、ビーストテイマーの絵柄へと転がっていく。

 

 勢いをつけすぎたのか、一度は大きく三角形の中から飛び出したものの、再びビーストテイマーの絵柄の上にまで戻ってきた。

 

 そして、後はサイコロの回転が止まるのを待つだけ、というところで、異変が起きた。


「ええっ⁉︎ サイコロが……⁉︎」

 

「止まんねぇ……?」


 あろうことか、サイコロは止まらず、ビーストテイマーの絵の上で回り続けていた。

 

「前はこんなことなかったぞ、どうなってんだ」


 ジュモが尋ねるが、一番驚いていたのは職員だった。


「わ、私にもわかりません! こんな事初めてです⁉︎⁉︎ ……ジュモ様、以前検査したときと比べて何か変わった所はありませんか⁉︎」

 

「変わった所ぉ……?」 

 

「例えば、何らかの加護のついた装備を身につけているとか……」


「装備……? いや、ずっとと変わらねぇが……」

 

 すると、助言を出したのはゼリルだった。


『ジュモ、私を置いてもう一度サイコロを振ってみてください』

  

「……? ああ、そういうことか」  

  

 不思議そうに首を傾げる職員をよそに、ジュモが再びサイコロを振るった。


 すると、テイマーの絵で止まることは変わらなかったものの、今度はすぐに『二』の出目を出して止まった。


「これで前と同じだな」


「ああ……! 先輩たちにも見てもらおうと思ったのに!」

 

「じゃ、もう帰っていいのか?」


「……正常に結果が出てしまった以上、お帰りいただいて大丈夫です」

 

 イレーナは帰っていくジュモの背中を見ながらぼやく。

 

「それにしてもさっきのあれ、何だったんでしょう……」


 すると、ぐう〜と、ジュモの腹が鳴った。


「あの〜、よろしければこの辺りの美味しいお店、お教えしましょうか?」


「……肉を使わない料理で頼む」


まさか……これが黄金の回転……!

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