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到着、貿易街ジラーマ

 通行料を手に入れたジュモたちは無事にジラーマの街に入ることができた。


 ゼリルを不審に思った衛兵とジュモが口論になるという一悶着があったものの、ギリギリ無事に街に入ることができた。

 

 そんな二人の目に飛び込んできたのは、無数に行き交う街の人々だった。 

 

「見てくださいジュモ! 人々が活気付いていますよ!」


「うげぇ……やっぱり街は人が多すぎて嫌になってくる……お前はよくそこまではしゃげるな」


「あたりまえじゃないですか! だって始めてみるものばかりなんですよ!」

  

「へいへい……」

 

 ――このニューヴァリアでは、闇の国に近いほど。即ち、北に行けば行くほど強力な魔物(まぶつ)が湧くようになるが、その点で言えば、大陸の南部に位置するこの付近は比較的協力な魔物も少ない。

 

 そのため、南部に位置し東西の中心にあるジラーマは、多くの旅人や商人が訪れる貿易街として発達していた。

 

「ジュモ! ひょっとして、あれは市場ですか⁉︎」


 街を少し歩くと、より一層人が集まっている場所があった。

 見れば、布張りの屋根の露店が所狭しと並び、そこらじゅうで売り声が飛び交う市場となっていた。

 

「……まさか、あそこに見に行きたいなんていい出すんじゃねぇだろうな……」


「はい! 見に行きたいです!」

 

 ゼリルのあまりに純粋で眩しい目の輝きに押し負けたジュモは、結局渋々露天へと向かった。

 

「すみません! この装飾品は何の素材でできてるのですか?」

 

 ゼリルが真っ先に興味を持ったのは、髪飾りやブローチ、指輪などの装飾品が売られている店だった。


「ああ、こいつはシーライトって、ここらで採れる鉱石を加工した――」


 店主は、慣れた様子で説明しながら顔を上げると、おっぱいと目があった。


「……うわあ! おっぱいが喋ってる!」


「なるほど、ではこの髪飾りは……?」


 その信じ難い光景に店主は目を擦る。


「おい、おっぱいが急に喋り出したらビビるだろうが」


「に、兄ちゃん、そいつは一体……」


 店主は唖然としながらジュモに尋ねる。


「髪飾りなんざ、どこにもつけるとこねーだろうが。さっさと行くぞ」


 だが、ジュモはさっさと離れてしまい、その場にはぽかんとした店主だけが残された。

 

 ◇

 

「ああ! もっと色々なものを見たかったのに!」


 ジュモは珍しく駄々をこねるゼリルに呆れつつ、その後も露天を回っていった。

  

「のわっ! なんだありゃ……」「おっぱい……だよな……」「ビーストって聞いたぞ」「俺、ちょっと触ってこようかな……」「噛みつかれるかもしれねぇぞ!」「どこでだよ……」「というか、よく衛兵が通したな……」


 すると、ジュモたちの周囲が次第にざわつき始める。

 当たり前だ。上半身はベスト一丁の半裸男がおっぱいを肩に乗せて連れ歩いているのだから。

 

「ったく、目立つったらありゃしねぇ。こんな街さっさとおさらばしたいが……なあゼリル、この街について何か変化はあったか? なんか思い出したとか」

   

「そういえば……特に変わったことはありませんね……」

 

「……あれだけ派手な光線出しといてそれかよ、しかも乳首から」

 

「だ、出したくて出したわけじゃありませんから‼︎」


「もう一度確かめようにも、その光線もあれから出なくなっちまうし、どうしたもんかねぇ」


 道中、ジュモたちはもう一度光線が出るか試したのだが、光線が再び出る素振りは全くなかったのだ。


「私の件は後回しにするとして、まずはギルドカードの再発行……でしたっけ。そちらを済ませてしまいますか?」


「だな。じゃあまずはギルドを探さねぇと――」

 

 すると、なにやら街門の方向が騒がしいようだった。

 

「何かあったのでしょうか?」

 

 そして、その理由はすぐに判明した。

 

           

「――道を開けてくれ‼︎‼︎‼︎‼︎」



 人々をかき分け、防具を身にまとった三人の冒険者が現れる。

 だが、どうにも様子がおかしい。 


「しっかりしろ! 教会までもう少しだ。すぐに聖女様に治してもらえる‼︎」


 両脇の二人が真ん中の冒険者を肩で支えており、支えられた冒険者は、生気を失った青白い顔色でぐったりとうなだれていた。

 

 やがて冒険者たちが側を通り過ぎると、ゼリルはジュモに尋ねた。

 

「あの方……負傷していたみたいですが……」


「多分、毒だな……」

 

 そしてジュモが耳を澄ますと、隣に立っていた男が、「また冒険者が毒にやられたか……」と声を漏らした。


「ああいうことは、頻繁にあるのですか?」


 隣の男が事情に詳しいと見たゼリルは、いきなり話しかけた。

 

「うわっ、なんだ……!」

 

「馬鹿! いきなり話しかけるなつったろ!」

 

 いきなりの事に当然男はぎょっとしたが、「断ったら何されるか分からない」と思い、話さざるを得なかった。

 

「ジラーマの周辺には強力な魔物は湧かないはずだったんだが、最近になって毒を持つ魔物が大量に湧くようになってな……。その結果、解毒ポーションの値段も急激に跳ね上がって、貧乏な冒険者はああして聖女様を頼るしかないんだ」

 

「そんな……」

 

「こんな有様だから、毒の治癒も聖女様に頼りっきりでな。随分負担が掛かってるらしい」

 

 ――『聖女』。道中でジュモから聞いた曖昧な説明を、ゼリルはどうにか思い出す。

         

「確か『聖術』使いの女性で、退魔と治癒の専門家。どの街にも、必ず一人は派遣されている……ですよね?」


「ああ。今のジラーマの聖女、ヒルナ様が派遣されてきたのは数年前だがみんな感謝してるよ。なにより、前任の婆さんと違って美人だしなぁ」

 

「はぁ……」

 

 男のあまりに俗っぽい発言に呆れるゼリル。

 それとは反対に、ジュモは神妙な面持ちだった。 

 

「湧き出す魔物の種類が変わるなんて妙だな」

 

 出現する魔物の種類は、地域によってある程度決まっている。

 そのため、魔物の種類に変化があった時は、何らかの原因が存在するというのが定説だった。

 

「今回の原因も、教会とギルドが協力して探ってるんだが、どうも行き詰まっているらしい。この街にはあまり強い冒険者がいないし、頼みの綱のヒルナ様は、治癒から手が離せないらしいみたいだしな……」


「そうですか……」


「ギルド……そうだ、この街のギルドはどこにある?」


「ああ、やっぱりあんたも冒険者か。ギルドなら、この通りを真っ直ぐ行って、右に曲がったところだ。そうだ、クエストを受けるなら、ぜひついでにポワラスの花の――」


「おう、助かったぜ」


 男が何かを話そうとしていた気がするが、ジュモはさっさとギルドの方へ進んで行ってしまい、その場には困惑する男だけが残った。

 

「な、何だったんだ…………どうせならアレ、揉んでおくべきだったかな」 


 そんな男に、話しかける影があった。


「ねぇ、今ここに……そうだな、“存在感のある人”ってこなかった?」


 振り返り、声の主に気づいた男はまた仰天した。


「あ、あなたは‼︎‼︎ ……実は先ほど、おっぱいを連れ歩く半裸の男が――――」 


  ◇


 一方ジュモは、相変わらずゼリルに説教されながら街へと向かっていた。

 

「ジュモ! 親切にしていただいたのならお礼はちゃんといいなさい!」


「へいへい、わかりましたよ……」 


 するとジュモは、徐にゼリルをリュックの中へと詰め込んだ。

 

『わっ! いきなり何するんですか!』


「お前目立ちすぎなんだよ。しばらくその中でじっとしてろ」

 

『むう……確かに目立っていた感は否めませんが……』


「それに、念話も“念視”もできるんだ。そこまで不便ないだろ?」

 

 ゼリルを葉に包んで運んだ時に発覚したことだが、ゼリルは念話の他、ジュモの視界を共有――念視することもできるようだった。

 ……尤も、どちらもジュモに触れるほど近くにいなければ発動しないので、あまり実用的ではないが。

 

 ともあれ、リュックに詰め込まれたゼリルの視界には、他の建物の数倍の大きさはあるであろう――冒険者ギルドが映っていた。

       

 巨大な木製の扉を引いてギルドへ入ると、ジュモは騒々しい喧騒に、早速顔を顰めた。

 

 室内では、武具を身に着けた冒険者たちが所狭しと集まっており、笑い声を響かせ会話に勤しむ者、食器を打ち鳴らして飯を喰う者、ジョッキを掲げて酒を飲む者。それぞれが思い思いの時間を過ごしていた。


『随分賑やかなんですね……。あの奥にある、たくさん紙が貼られたボードは一体?』

 

「ありゃクエストボードだ。魔物の討伐とか薬草の採取とか、色んなクエストが張られてて、書かれた条件を達成できたら金がもらえる」

 

 ジュモはゼリルの疑問を解消してやるべく、ボードの前に立ち寄った。

 

「ええと、『ゴブリンの討伐』に『コボルトの討伐』、こっちは『ポワロス草の採取』……! この花、解毒ポーションの材料になるみたいですよ!」

 

 ゼリルが注目した『ポワロスの花の採取』のクエストはよほど重要らしく、その依頼書は、ボードの中で唯一、赤い紙に内容が記されていた。

 

「花一輪で五千リアか。コボルト一体とじ額とは、随分高額だな」

 

『なるほど、これがクエストですか……ん?』


「どうした?」

 

『いえ……クエスト報酬のために魔物を狩るというのは分かったのですが、それでは依頼外の魔物は放置されてしまい、危険ではないですか?』

 

「多分同じことを思って対策を考えた奴がいたんだろうな。あれを見てみろ」

 

 ジュモが指した冒険者の男は、どうやら受付に用があるようだった


「換金を頼む」

 

 そう言って男がポケットから取り出したのは、灰色がかった卵形の結晶だった。

    

「はい、『集魔結晶』の換金ですね。内包魔素量を計測して参りますのでお待ちください」

 

 受付嬢は結晶を受け取って、一度中へ引っ込むと、数枚の金貨と銀貨。それから、無色透明になった結晶を男に渡した。

 

『あれは? 何やら結晶の中身を換金していたようでしたが……』

 

「収魔結晶――魔物を倒すと散らばる、魔素を吸ってくれる結晶なんだが、それを受付に持って行くと、溜まった魔素量に応じて金がもらえるんだ」

 

「……! それならクエスト外で魔物を倒してもお金が貰えますね! ひょっとして、結晶がまた透明になったのは、魔素を浄化したからですか?」

 

 魔素は放っておくと、再び集まり魔物となってしまう。それを聖力によって浄化する事で、初めて無力化できるのだ。

 

「よく分かったな。なんでも、奥に魔素を浄化する道具があるしい」

 

「ジュモは換金しないのですか? 道中あれだけ魔物を倒してたじゃ無いですか」

 

「今金なんか渡されても邪魔になるだけだろ。まずはギルドカードだな」

 


街に解き放たれたおっぱい。

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