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きみとずっと②

「一緒に食べない?」

 昼休みになり、また水沢の肩を叩いてみた。仲村の誘いに水沢は驚きを隠さず、目を見開いた。ひとりが好きみたいだからだめかな、と仲村は内心ではあまり期待していない。

「あ、嫌なら無理しなくていいけど」

「嫌なんて言ってないだろ。いいよ」

 淡々とした答えだがオーケーをもらえた。思わず口もとが緩む仲村に、水沢は心底不思議そうにしている。

「なにか楽しいか?」

 不可解なものを見るように視線を向けてくるので、首を横に振る。

「楽しいんじゃなくて嬉しいの。水沢、いつもひとりで食べてるし、断られると思ったから」

 水沢は「ふうん」とだけ言って椅子の向きを変えた。なんだか友だちみたいだ、とわくわくと胸が弾む。よく知らない水沢と仲良くなれているようなのも嬉しかった。

「いつ引っ越すの?」

「三学期から向こう」

「そっか」

 三学期からだともうすぐだ。せっかく少し近づけたのに、と残念な気持ちが膨らむ。

 水沢の答えは淡々としているけれど、冷たいのではなく、たぶん彼はこういう話し方なのだと思う。本当に冷たかったら答えてくれないはずだ。

「ねえ、せっかくだから連絡先交換しようよ」

「なんで?」

 ただ思いついただけで特に理由がないので口ごもる。さすがに図々しかったかもしれない。

「ごめん。やっぱいい」

 しゅんと肩を落とすと、水沢が笑い出した。声をあげて笑う姿をぽかんと見つめていると、水沢は目尻を指で拭い、涙が出るまで笑っている。

「どうしたの?」

「仲村、面白いな。思ってることが全部顔に出てる」

 恥ずかしくて頬が熱くなる。水沢はそれさえ面白い、とまた涙を指で拭う。そこまで笑わなくてもいいのに。

「そんなに笑わないでよ!」

「無理、面白い」

 お腹までかかえているので、よほどツボに入ったらしい。笑っている水沢を見ていたら、仲村も楽しくなってきた。笑われてもいいか、と気分が浮上する。笑われるのは癪だけれど、こんなに楽しそうにされたら怒れない。

「仲村ともっと早く話してみたかった」

「え?」

 はあ、と息を吐いた水沢は、ようやく笑いが落ちついたようでパンを食べはじめるので、仲村もパンの袋を開ける。

「仲村となら友だちになれたかも」

 少し潤んだ瞳を細めて微笑む表情がとても優しい。気持ちが穏やかになる笑顔だ。

「今からでもなろうよ」

「は?」

「いいじゃん。友だち」

 響きだけでもわくわくと胸が弾む、不思議な単語だ。頬が緩む仲村と対照的に、水沢は表情を曇らせて眉をさげる。

「でも俺、転校するし」

「そんなの関係なくない?」

 驚いたように目を見開いた水沢が、「そっか」とひとつ頷く。

「やっぱ連絡先交換しようよ。友だちになった記念に」

「記念ってなんだよ」

 笑いながらも水沢がポケットからスマートフォンを出すので、仲村も取り出す。水沢のアカウントが追加され、なんだか感慨深い。

「あの水沢と連絡先交換しちゃった」

 仲村の言葉に、水沢は片眉をあげる。

「『あの』ってなんだよ」

 訝るので、仲村はわずかに首をかしげる。

「学校の王子様でしょ?」

「俺はそんなんじゃない」

 苦虫を噛み潰したような顔をした水沢は、そう呼ばれるのが嫌なのかもしれない。仲村は一度でいいからそんなふうに呼ばれてみたい――絶対叶わぬ願いだと自分でわかるが。

「まあ、王子様だって人間だよね」

 思ったことを言ったら、面食らった様子の水沢がまた笑い出した。こんなに笑う男だとは知らなかったので、仲村も驚く。

 話してみると表情も豊かだし、きちんとした会話をしてくれる。見た目ではわからないことがあるものだな、と思わされる。

「ほんと、仲村って面白いな」

 褒められているのかわからないが、相手が笑っているのは悪い気分ではない。

「でも俺、誰にでも話しかけるわけじゃないから」

「そうなのか?」

「うん。だって恥ずかしいじゃん」

 水沢に話しかけたのも、クリスマス前の浮かれた気持ちがそのまま表れた行動なだけで、普段から気さくに誰とでも話すというわけではない。

 仲村が説明すると、水沢は意外とでも言いたそうな顔をした。

「なに、楽しそう」

「まぜてよ」

 仲村が普段仲良くしている友だちが近寄ってくる。水沢の笑い声で引き寄せられたのかもしれない。

「なんか盛りあがってたけど、なに話してたんだよ」

「ちょっとね」

 水沢に視線を向けると、なんだか居心地が悪そうな表情をしてさっさとパンを食べ終え、前を向いてしまった。

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