第8話 秘密
駅馬車の経営者ロジャーたちへ報告を終えたエルザは、エイミーの親戚がいるという家へ向かった。親戚の家と思わしき家は小川のそばにあった。エイミーが親戚の家を尋ねている間、エルザは河原で剣の訓練でもしながら待つことにした。
夕日が水面をオレンジ色に染めている。そのキラキラと輝く水面に向けて、エルザは剣を抜いた。
「えいっ! ……やあっ!」
エルザは静かに息を整え、両手で正面に剣先を向けて構える。そして右足を半歩前に出すと同時に半身となって、右手一本で剣を前に突き出した。
「ええいッ!」
するとエルザの剣先が∞の形に円運動しながら突き進み、キラ、キラと二度刃を煌めかせて止まった。
「エルザさん、お待たせしました」
エルザが振り返ると、そこにエイミーが立っていた。エルザは剣を鞘に納めると、振り返ってエイミーへ微笑んだ。
「ご親戚の方とは会えたの?」
するとエイミーは、眉根を寄せながら少し俯いた。
「それがもう、誰も住んでいなかったんです。引っ越してしまったのでしょうか……」
エイミーはしょんぼりと、小さな声でつぶやいた。
「そうだったの。……でもね……気を落とさないで。私の友達がこの街で古くから道場をやっているから、何か知っているかもしれないわ。明日にでも話を聞きに行きましょう」
「はい……何から何まですみません……エルザさんに会ってなかったら、私どうなっていたか……」
「いいのよ、気にしないで、エイミー」
エルザは微笑んだ。
「先ほど技の練習を見ちゃいましたが……すごいですね」
「毎日練習はしとかないと腕がなまっちゃうから」
エルザは剣の柄をポンポンと叩いた。だがエルザの本音は別の所にあった。この技を忘れないために、練習しないといけないのである。
その理由は、この技を開発した剣士が、師匠のセドリックを斬ったということである。その剣士の名はバクスといって、盗賊たちの用心棒をしているらしい。エルザはいつかそのバクスと出会った時の対策に、この技に「竜巻」という名前を付けて研究しているのだった。
「後で話すと言っていた、私が狙われる理由なんですが……」
エイミーは河原に転がっている岩へ腰をおろして、キラキラ光る川面に顔を向けてから、言いにくそうに口を開いた。
「それは私が帝国の少数民族、タミル族の女だからなんです」
それを聞いたエルザは不思議そうな顔をした。
「タミル族だと何で追われたりするの?」
「タミル族は、生まれつき治癒魔法に長けた女が多く生まれる民族なんですが、そのことを知った帝国の軍部が、急にタミル族を拘束しだしたんです」
「軍部が?……一体何を考えているのかしら?」
「帝国では、戦争の準備をしているって、もっぱらの噂なんです。傷ついた兵士を治癒させるつもりなんでしょうね。私たちは帝国の手から逃れるために、故郷を捨てて着の身着のまま逃げだしたのですが……結局、仲間はみんな捕まってしまいました……帝国に高値で売れるらしいのです」
「それで山賊に狙われてたのね……」
「でも、本当の所、私たちの魔力では、浅い傷を治したり、治癒を早めたりすることしかできません……。命に関わる深手や病気の類は治せないのです。……というより、やろうと思えば深手を治すことも出来るのですが、その時は命を落とすか、著しく老化すると聞いています」
「……帝国は、大臣が大怪我をした時にでも、それをやらせるつもりなのかもね……」
エルザは言葉もなかった。
「私、魔法のことは良くわからないけど、人によっては、火を吹いたり、雷を落としたり出来るんでしょ? そんな人の方が戦争に必要だと思うけど」
「そういう人もいるにはいますが、魔法ってエルザが思っている以上、地味なものなんです」
「そうなの?」
「そりゃあ、そうですよ。元々人の体内には"魔力"というものが流れていて、それをエネルキーとして使えるのが"魔法使い"なんです。体の中のエネルギーなんてしれてますから、火を吹く程度の魔法で魔力が枯渇してしまうこともあります」
「人の体の中の魔力って、そんなに少ないの?」
「サラマンダーという5m程度の魔獣で、1日、火球5発程度と言われてます。人なら1日1発が限界でしょうね」
「それじゃあ、通常兵器の方が使い勝手がいいわね」
「コストに見合った兵力が得られませんからね。……流動する戦局の中で、魔法使いの攻撃力は使いにくいんです。でも、治癒能力なら別です。救護テントでも作って、怪我人を送り込めばいいわけですから」
「だから狙われるのね……本当に悲しくなるわ」
話し込んでいるうちに、空はオレンジ色から薄い紫色へと変化してきた。エルザは立ち上がって、お尻についた草をパンパンと払った。
「なんだか暗くなってきちゃったわね……今日のところは宿へ行ってゆっくり休みましょうよ。そして明日の朝にね、一通りお祭りを楽しみながら通りを歩いて、私の友達がいる道場へ行きましょう」
それを聞いたエイミーは笑顔になりながら立ち上がって、ウンウンと頷いた。
帰り道を2人歩いていると、エイミーが話し始めた。
「あ、そうそう、魔道具にもひとつ例外がありましてね。古代の遺跡から発掘された魔道具には、非常に高い出力のものがあるそうですよ。現代には伝わっていない、ロストテクノロジーというものです。そういうものだと、一回で町ひとつ消し飛ぶくらいの破壊力を持つらしいです……まあ、そんなものは都市伝説ですけどね」




