第6話 エイミーの涙
黒い蝙蝠のボス・ガスタが殺されたのを見たデニスは、足を引きずりながら馬に飛び乗って、一目散に逃げていた。
「……おい! 二ール! 逃げろ! 親分が死んだぞ!」
「誰が死んだって?」
「ガスタ親分だよ! お前ェ、俺の話聞いてんのか! ドゴンの兄貴も斬られちまったぜ!」
「げえっ!」
ニールは一瞬で顔を青ざめさせ、駅馬車の方へ目を向けた。するとそこに、ガスタとドゴンが血を流しながら倒れているのが見えた。
「おい! みんな! 親分がやられた! 作戦は失敗だ!」
ニールが逃走を始めると、残りの盗賊たちもそれを追って逃げ出していく。
盗賊たちが突然撤退を始めたので、護衛たちも不思議に思いながら見ていたのだが、深追いはせず馬車へと戻ってきた。そして、倒れている盗賊たちを横目で見ながらエルザのそばまでやって来ると、馬上からヒラリと降りた。
「やあ、君、加勢してくれてありがとう……僕の名はアルヴィン。こっちはエルノーだ。この駅馬車の護衛さ」
エルヴィンとエルノーは、微笑みながら右手を差し出してきたので、エルザはその手を握った。
「私はエルザ……ゴント村の住人で、この駅馬車の乗客なの。あの盗賊たちが馬車の乗客に危害を加えようとしたから、自衛のために戦ったの」
「本当に助かったよ。で……この大男を君が? すごいね」
アルヴィンは肩をすくめながら、頭をパックリと割ったガスタをマジマジと見た。
「みんなが親分って呼んでたから、きっと、この盗賊団の親分じゃないかしら? あっちの大男はまだ生きているわ。尋問してみたら、何か詳しいことが分かるんじゃない?」
アルヴィンが、顔を青くしているドゴンを見ると、手の平が斜めに斬り裂かれ、すぐそばには、切れた指が数本転がっていた。
「私、馬車に戻っていいかしら?」
「ああ、そうしてくれ。後は俺たちで縛り上げておくから。リールの自警団へ突き出してしまおう」
エルザは剣を鞘に納めると、アルヴィンたちに一礼をして馬車へと戻っていった。車内に戻ると、乗客から口々に感謝の言葉を述べられた。
「いえ、私は旅の剣士なので……お気になさらず……」
こういうことに慣れないエルザは逆に恐縮してしまって、顔を真っ赤にしていた。そして、再びエイミーの横へと腰を下ろした。
「エイミー。服を返しておくわね」
そう言ってエルザは、借りていた民族衣装をエイミーに手渡した。
「エルザさん……助けてくれてありがとうございます……もう少しで私……連れ戻されるところでした……ご迷惑おかけしてすみません……」
エイミーは服を受け取りながらエルザに頭を下げて、涙をポロポロと落とした。
「いいのよ……あなたは被害者なんだから。あやまる必要なんてないわ。それよりエイミー。あなた、ずっと、あんなのに追いかけ回されてたのね……。ほんと、辛かったわね……」
「……はい……。リールに着いたら、落ち着いた場所で、私の事をちゃんと話します……」
「ああ、言いたくなければ、無理に言わなくてもいいのよ? だけど、しばらくは私たち、一緒に行動した方がいいわね。あなた一人じゃ、盗賊から身を守れないでしょ?」
「はい……ありがとうございます……エルザさん、あなたとお知り合いになれて、本当に良かったです……」
そういうと、エイミーはワーッと泣き出してしまった。
「怖かったっ……今度こそ! 連れて行かれると思った……」
そういうと、エイミーは緊張が解けたせいか、エルザの胸に顔を埋めて大泣きしていた。エルザはやさしく背中をさすりながら、やさしく声をかけた。
「大丈夫よ、エイミー。私が守ってあげるわ……だから安心して……」
エルザはそう言いながら、エイミーの涙に濡れた自分の胸に、ほんのりと温かみを感じたのだった。




