第2話 襲撃
エルザとエイミーを乗せた馬車が、森林地帯に入った。
エルザは窓越しに来た道を振り返ってみたが、森の木々が邪魔をして、ゴント村はもう見えなかった。
「とうとう、村を出てしまったのね……ふるさとを離れるっていうのは、なんだか寂しさと、不安がないまぜになったような気分になるのね」
「エルザさんほどの豪胆な剣士でも、不安になったりするんですね」
「そりゃ、そうよ。未知の世界へ足を踏み入れるのよ? これからどんなことが起きるか全く想像もつかないわ」
「エルザさんは、王都へ何をしに行くのですか?」
「騎士になるつもりなのよ。昔からの友達と約束しているの。16歳になったら、王都に来てうちの騎士になりなさいって言われててね。その約束を果たしに行くのよ」
「それじゃあ、働く所は決まってるんですね。良かったです」
「そうでもないわ。騎士って貴族が多いから、私みたいな平民はきっと苦労するって、先生が言ってたもの。先生はいつも、騎士みたいなつまらんものにならず、田舎で暮らせって言うのよ。騎士っていうのは本で読むようなカッコいいもんじゃないぞ、ってね」
「それでも、王都で騎士になるんですよね」
「そうよ。約束したからね。その人は私にとって、とても大切な人なの。大切な人を守るのが仕事なんだって思うと、騎士の仕事ってとても素敵に思えるわ。例え色々辛いことがあっったとしてもね」
「そのお友達が羨ましいです……エルザさんに守ってもらえて」
エイミーは少し不安気な顔をした。やはり、誰かに追われているのだろうか。エルザはエイミーの肩に手を置いて、ニッコリと微笑んだ。
「もし、エイミーに何かあったら、私が守ってあげるわ。何か不安なことがあったら、私に言ってね」
「ありがとうございます……私、ずっと一人だったので、そう言ってもらえると、とてもうれしいです」
エイミーは笑って目を細めた。だがすぐにその笑みはすぐに消えた。エルザが険しい顔で窓の外を見ているからだ。
「エルザさん……どうしたんですか?」
するとエルザはエイミーの方を見ようともせず、そのまま窓の外を険しい顔で観察しだした。
「盗賊よ。10人もいるわ」
「ええっ!盗賊……」
エイミーは顔を青くした。
「この馬車には護衛が2人付いているはずだけど……もう、離れた所で戦闘が始まっているわね」
「ええっ、私、どうしたら……」
「落ち着いてエイミー、しばらく様子をみましょう」
エルザはそう言って、エイミーの肩へ手を置いた。そして車内を見渡すと、他の乗客も外の異変に気付いたようで、ザワザワと騒ぎだしていた。
ふと、窓の外へ目をやると、4名ほどの男たちが馬車と並走していて、だんだんと距離を詰めて来ていた。エルザは一番後ろを走る、大きな剣を持つ大男をじっと観察していた。
その時、馬の嘶きとともに、ガタガタッ!という大きな音がして、急に馬車が失速した。
「キャアあっ!」
駅馬車の車内がどよめき、女が悲鳴を上げる。次第に速度を落としてやがて停車するであろう駅馬車に、ハイエナのような盗賊たちが群がってきた。それを見た乗客は狼狽えて右往左往しだした。
すると外から男のうめき声とともに、ドサリという大きな音が聞こえた。御者が殴られて地面に落ちたのだ。……そして間もなく駅馬車は完全に停車した。
「端っこにどいてろ!」
盗賊の怒鳴り声に、乗客の視線は窓の外へ向いた。するとそこには、盗賊が御者を蹴り飛ばしているのが見えた。
そして、大きな剣を担いだ男とひょろっとした小男が馬車のそばまで馬を寄せて、ゆっくりと馬から降りたのだった。




